第352話 マリーさん、一緒にお風呂に入ろう!
「ぐ……ぎ、ぎっ……」
「が、頑張れ、耐えるのじゃエーベルハルトよ。無事に耐えきったら後でご褒美をやるぞっ」
「が……ん……ばるっ……ぬぉおおおお‼︎」
ここは神獣界。精霊と動物の中間の存在である神獣達が棲まう異界の地だ。その正体は時空間魔法によって生み出された巨大な結界。濃密な魔力の満ちるこの亜空間において、俺とマリーさんは『昇華』に至るための修行に励んでいた。
今、俺がやっているのは『
自分と外の世界を隔てる境界線を意図的に壊し、主客未分の世界を構築して周囲の魔素を身体に取り込む――――口にするには容易いが、実際にやるとなれば話は別だ。
自他の境界線が曖昧になる感覚の中で、超精密な魔力操作を求められるのだ。数分使うだけでもかなり大変なのに、それを二四時間ともなれば……まあ後はお察しの通りである。
俺は無事(無事?)、気が狂いそうになるほどに苦しい状況に置かれていたのだった。
「あ、あと一五分じゃ」
「じ、じゅうごふん⁉︎」
こんなにも辛く、こんなにも長く感じる一五分が未だかつてあっただろうか。眠気と疲労で今にも意識が飛びそうである。あと足痺れた……。
「あと一四分」
「し、しんじゃう……」
「頑張るのじゃあ!」
ちなみにマリーさんはつい先日、この二四時間耐久発動を完遂していたりする。流石に俺のお師匠様なだけあって、この手の魔法の連続行使にもある程度は慣れているらしかった。
それでもこれほど長い時間発動した経験は無かったらしく、あのマリーさんをして「もう二度とやりとうない」と言わしめたほどである。
「あと一分じゃ! いける、いけるぞ!」
「ぐ、ぬぬ……うがぁっ!」
「時間じゃ!」
その瞬間、バタッとその場に崩れ落ちる俺。今すぐに眠ってしまいたいくらいだ。
気が抜けた瞬間、溜まりに溜まった魔力が一気に解放される。ブワーッと噴き出た魔力が周囲の空気を攪拌して、ガスが抜けるように魔力を撒き散らす。
キラキラと輝く魔力光が綺麗だ。昼間なのに星明かりのように見える。
「お疲れ様じゃな」
「うん、とりあえず……お風呂に入りたい」
「そう言うと思って、風呂を用意してあるぞ」
「マリーさん!」
見れば、少し向こうのほうに立派な温泉が用意されているではないか!
地面に穴を掘り、火炎魔法で地面を焼いてそこに水を流し込んだだけの簡単な代物だが、水温はしっかり四二度ほどはある。湯気が立ち昇っている光景は、さながら天然の源泉だ。
「一緒に入ろう!」
「なっ! ……ま、まあお主が入りたいなら別に構わんが……」
「ここには俺達以外の人間もいないし、誰にも捕まったりはしないよ」
マリーさんは俺より歳上&上官であるというのもあってか、やたらと社会の目を気にする節がある。見た目には完全に俺のほうが事案要素大なのだが、この世界は多民族が共存共栄しているのだ。見た目と実年齢が異なるという話は枚挙に
まあつまりだ。もし俺とマリーさんが一緒に風呂に入っていて、何か言われるとしたら俺ではなくマリーさんのほうということになる。
だが、そんなことはどうでもよろしいのだ。俺だって一応は成人している(皇国では一五で成人だ)わけだし、何より既婚者なわけである。正妻の許可が降りている以上は、不倫でもなんでもないのだ。
「それもそうじゃな。うむ」
そう言ってマリーさんは潔く服を脱ぎ捨て、すっぽんぽんになる。つるりとした女児特有のイカ腹と、外見に反してそれなりに成長してきている膨らみかけのお胸が実に犯罪的で素晴らしい。
「あれ、マリーさん……」
「なんじゃ?」
「前よりちょっと胸が大きくなった気がするよ。成長期かな?」
具体的には、以前までは乳輪のあたりしか膨らんでいなかったのに、今では全体的な膨らみへと変化しつつある。
「やかましいわッ!」
おっと、合法ロリ師匠がお怒りになられたようだ。仕方がないので俺はご機嫌取りに終始することにする。
「まあまあ、マリーさん。お背中お流ししますよ」
「……んむ、くるしゅうないぞ」
野営に備えてインベントリに常備してあった石鹸で泡立てつつ、マリーさんの背中を洗っていく。細くて小さい背中だ。この小柄な身体のどこに、あれだけの精神力と強さが秘められているのだろうか。
小さいのに大きな背中だよ、本当。
「マリーさん、お肌綺麗だねぇ」
「そうか? まあ種族柄、肉体年齢だけならお主よりも若いからの」
「つるっつる」
そういって身体の前方向に手を伸ばす俺。上から下までつるっつるだ。いや……上のほうはギリギリつるぺたを卒業したかな?
「のわぁあぁあぁっっ⁉ お、お主ばかものが、どどどどどこを触っておるんじゃあ!」
「軽いスキンシップじゃないか」
「というか、さっきからなんか硬いのが当たっとるんじゃが⁉」
「おっと、ごめん」
類稀なる美少女の愛すべき師匠と素肌を晒し合って、しかも身体をほぼ密着させているのだ。これで反応しないのは男じゃない。
「妾とて大人じゃし、そ、そういうことに興味が無いわけではないが……しかしあれじゃ。お主の嫁らに悪かろう」
「一応、正妻の許可は貰ってるけどね」
「そ、そうか。まあリリーの奴がそう言うのなら、構わんのか……あ、いやでも待ってほしいのじゃ」
「うん?」
そこでマリーさんは恥ずかしそうに目を逸らしながら蚊のような声でこぼす。
「その、なんじゃ。ほら、妾は今まで魔法一筋じゃったしの。……有り体に言えば、ちょっと怖いのじゃ」
「そっか」
なら無理をすることもない。
マリーさんは別に貞操観念が緩いわけではない。むしろ逆だ。その手のことに関心がありつつもこの歳まで処女を守り続けてきたのだ。昔の人間らしくやや古風な価値観をお持ちのマリーさんは、一言で言ってしまえばガッチガチの淑女であった。
女を捨てたわけでもなし。さりとて男に
いつか自分の故郷にまた戻りたい。道半ばで散っていった同胞達に花を手向けてやりたい。
そういう、歯に衣着せぬ言い方をするなら「過去の呪縛」とでも表現すべきものに、マリーさんは囚われているのだ。
それが悪いこととは思わない。人として当然の感情だろう。だからこそマリーさんが前に進むためには、過去に決着をつけなければならないのだ。
「エーベルハルト?」
身体を洗い終え、温かい湯船に浸かった俺はマリーさんを優しく抱き締める。いきなり抱きすくめられたマリーさんは、困惑しながらも俺を抱き返してくれた。
「なんでもないよ」
なればこそ、俺は早く『昇華』しなければなるまい。魔王の遺骸を制御できるようになって、旧エルフ領を奪還して、そしてマリーさんの故郷を取り戻してやるのだ。
彼女が前に進めるように。属性魔法すらも使えなかった欠陥品の俺に、抱えきれないほどたくさんのものをくれた愛すべきお師匠様に、俺は恩返しがしたい。
「俺はいつでもそばにいるから」
「? そうか。それは嬉しいことじゃの」
至近距離で目が合う。透き通った
「あっ、やべ」
「……またなんか硬いのが当たっとるんじゃが?」
「マリーさんがあんまりにも綺麗なもんだから……あ、いや、ごめんって!」
どうも締まらないなぁと一人内心で反省する俺であった。
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