第338話 『鉄拳』のイゴール
「『
――――シュバッ ズバババッ!
ノーモーション打撃技の『瞬』で相手の体幹を崩し、怒涛の連撃でイゴールを追い込まんとする俺。
一撃一撃は奴に届いてはいる。……だが、手応えがあまりよろしくはない。
「……やりづらいな」
なんだ。このいくら攻撃しても効いていないかのような、暖簾に腕押し感は。
「ふっ」
俺を上回る速度は出せないのか、攻撃を
「これが皇国の最強なのか?」
「言ってくれるじゃねえか!」
両手から実体化させた魔力の刃を展開し、高周波の【衝撃】を付与。そのまま勢いよく『振動刃』の手刀を振り下ろす。
流石にこれは受けきれないと判断したのか、イゴールは顔を
「斬撃には弱いのか?」
「試してみるか?」
イゴールは両拳を胸の前でぶつけると、何やら強化魔法のようなものを使い出した。
「させるか!」
すかさず『衝撃弾』をお見舞いするが、イゴールは避けようとすらしない。そのまま奴に直撃した『衝撃弾』は――――ガキィンッ……と甲高い音を立てて弾かれてしまった。
「弾かれた、だと?」
まるで鉄の塊を攻撃したみたいな感触だ。迫撃砲並みの威力がある『衝撃弾』だというのに……傷一つ無いというのか。
「――――連邦には極めて優れた武術がある」
イゴールが語り出した。声に魔力は乗っていないから、声紋を利用した精神干渉魔法ではなさそうだ。
「あらゆる攻撃を無効化し、鋼の肉体を以てして敵に鉄の拳を叩き込む。水のようにしなやかで、火のように熱く、土のように力強くて、風のように鋭い。――――その拳の威力はまさに鋼鉄の如し。故につけられた流派の名は『鉄拳』」
長い自己紹介が終わったようだ。だが俺にとっては好都合だった。戦闘中にお喋りをしてくれると、こちらは『
おかげさまで俺はすっかり魔力を回復し、ついでに『
「じゃあお前の『鉄拳』と俺の『纏衣』、どっちが強いか確かめてみようじゃないか」
「面白い! その自信を叩き折ってくれよう!」
目を爛々と輝かせて、パンチの嵐を浴びせてくるイゴール。確かに『鉄拳』の名の通り一発一発が非常に重い。……が、六倍に加速された意識ならまったく問題なく対処できる。
「ぐっ、……はぁあああっ!」
――――ドドドドッ バシュッ ドゴォッ!
およそ拳同士の戦いとは思えない音を響かせる俺達。だが少しずつ着実に俺のほうが押している。
「……からくりが少しわかってきたぞ」
どうやらイゴールの使う『鉄拳』には、二つの要素があるようだ。
一つ目が、尋常でないまでの硬さを誇る皮膚。おそらくこれは魔法で薄い装甲のようなものを纏っているのだろう。ただ、それも全身ではない。魔力の装甲に覆われているのは両腕の肘から先の部分だけだ。現に、奴はそこ以外で攻撃を受けようとはしない。
そして二つ目が、衝撃の分散だ。自慢ではないが、俺の攻撃力の高さは常軌を逸する。まともに喰らって立っていられる奴は世界広しといえどそう多くはない。
ではイゴールはどうやってそれを正面から受け止めているのか。その答えが「分散」だ。奴は殴られた際の衝撃を地面に逃して分散させているのだ。
「――――『烈風』」
「またその技か! それは効かんと言っているだろう」
先ほどのお喋りタイムのおかげで魔力を全回復させているので、一見して魔力の浪費に思えるこの行動もさほど問題にはならない。
そして俺がわざわざ同じ技を使って確かめたかったこととは――――
「やはりな」
爆発的な衝撃波をぶつける『烈風』。その衝撃を地面に逃すとしたら、当然地面は
奴が立っている場所。そこには数メートル近い罅割れと、数十センチほどの陥没穴が出来上がっていた。
「……この衝撃を逃すという戦い方、使えるな」
受けきるのではなく、受け流す。
今まであまりやってこなかった戦い方だ。そういう技術面においては俺よりもオヤジのほうが未だに得意だったりするのだが、まあそのオヤジは今ここにはいないからな。
俺の固有魔法は【衝撃】だ。衝撃とは物体の間を駆け抜ける振動のことだ。もし仮にそれを完璧に制御することができれば、事実上、俺に対する物理攻撃は無効になる。
そしてそれは逆も然り。相手に与える衝撃をうまくコントロールしてやれば、奴の『鉄拳』を無効化できる。
対象の物理構造を把握して破壊に最適な波形の衝撃波を送り込むことで、文字通り敵を破壊せずにはいられない俺の必殺技『
「――――『雷』!」
馬鹿正直に『雷』を喰らわせるだけでは駄目だ。それでは奴に衝撃を受け流されてしまう。だから俺がやるべきなのは……
「がああああっ!?」
「決まったな」
奴が衝撃を逃している地面からも同時に【衝撃】を放って、上と下からイゴールを挟み撃ちにすることだ。
「『雷』と『地雷原』の合わせ技だ。勝負アリだな」
……『鉄拳』のイゴール、敗れたり!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます