第311話 隠れ巨乳
「それじゃあ、準備とかしないといけないので一旦お家に帰りたいんですけど……」
おずおずと言うユリアーネ。もちろん断る筈もない。
「送っていくよ。親御さんにも説明しないといけないだろうし」
「あっ、そのことなんですけど。お父さんはいつも軍の官舎で寝泊まりしているので、基本的に家には帰ってこないんです」
「あら、そうなの?」
「母も父と一緒に官舎住まいですし、使用人もいませんから誰の許可も要らないんです」
うちは新興貴族なので使用人を雇えるほど余裕はないんです、と自虐っぽく言って笑うユリアーネ。新興とはいえ貴族なら使用人は一人二人でもいないとそこそこ大変だと思うんだが、大丈夫なんだろうか。
「父は技術士官で一代貴族なので、貴族にありがちな面倒な付き合いとか儀礼なんかとは無縁なんです」
ユリアーネ曰く、そういった貴族間のあれこれが発生するのは世襲貴族限定の話なんだそうだ。なるほど、それなら紋章官やら家宰やらは不要だろうな。
うちは数百年ほど続く辺境伯家だから、家宰も執事もメイドも全部いるし、寄親だの寄子だの派閥だのなんだのといった貴族あるあるにもそれなりに縁が深い。同じ貴族でも、爵位によって住む世界は随分と違うみたいだ。
「私の家は割と学院から離れてるので、いつもは乗合馬車を使うんですけど……」
「今回は事情が事情だから、不特定多数が乗り合わせる乗合馬車はリスクが高いな。貸切馬車か、俺の魔導二輪で行こう」
「あ、じゃあ魔導二輪がいいです!」
「はいよ」
貸切馬車だと手配に時間が掛かるし、移動速度も遅い。だから魔導二輪と言われて正直助かる節はあったんだが……その二つを候補に挙げられて何故、魔導二輪で即決だったんだろうな? 理由は不明だが、ユリアーネがそっちが良いと言うんだからまあそれでいいか。
「それじゃあ……デデェーン! こちらが俺の愛車『アーレンダール七五〇』だよ」
「カッコいいです」
最近、納車したばかりのアーレンダール工房製の新型車だ。魔導エンジンの出力値が七五〇あるから、この名前がついたらしい。
以前乗っていた小型二輪とは違って、こちらはかなりパワーもあるしスピードも出る。車体デザインは古き良きクラシック型のバイクといった感じで、どっしりとした見た目とは裏腹に悪路での走破製もなかなか悪くない。これぞまさしくアーレンダール工房の生み出した傑作機だ。
「なかなか高かったんだ」
「確か魔導二輪車って、軍の偵察部隊とか伝令部隊とかにしか配備されてないですよね? 以前、父がちらっと話していたのを覚えてます」
「そうそう。結構レアなんだ」
そんな『アーレンダール七五〇』だが、なんとこいつは俺だけのスペシャル仕様だったりする。『白銀』の二つ名にあやかったメタリックなシルバーの色合いとか、『彗星』を彷彿とさせるライトの形などといった細かい部分が俺専用になっているのだ。関係者特典って最高だね!
「じゃあ行こうか。しっかり掴まってね」
「は、はい……!」
――――ドドドド……
魔導エンジンの力強い重低音が魔法学院の敷地内に響き渡る。学院内ではあるが、道はかなり広いので事故を起こす心配はない。
――――ドルルルルゥッ!
ギアを一速に入れ、エンジンを蒸して回転数を上げながらクラッチを繋ぎ、ゆっくりと発進する。二人乗っていてもまったく重たく感じない。パワーは充分だ。
そのまま学院を出て、表通りに差し掛かったところでグンと加速する。
「ひゃあああ〜……、は、速いですぅっ!」
「大丈夫かー?」
「はぃいぃっ♡」
がっしりと俺の腰に両腕を回して背中にしがみつくユリアーネ。初めて乗る二輪車に緊張している筈なんだが、どこか嬉しそうな声色なのは何故なのか?
まあ、普通に考えたら
…………それはそれとして、背中にやたらと柔らかい感触を感じるんだが、これはいったい……。ユリアーネは人族としてはかなり小柄なほうに入るから、胸の感触とは断定できないし……はてさて、なんだろうね。
びゅんびゅんと過ぎ去る景色を楽しみながら、ユリアーネの実家のほうへ風を切って駆け抜ける俺達。そこそこ距離はあった筈なんだが、思ったよりも随分と早く到着してしまった。
「も、もう着いちゃったんですか……?」
「まあ乗合馬車と比べたら相当早く感じるだろうね」
軽く四、五倍は出てるスピードが違うからな。しかも出せる限界値でいえば、更にこちらのほうが速い。
「さあ、早速荷物を取りに行こうか」
「はい」
ユリアーネの家は、そこそこ立派な一軒家だった。中堅貴族や大商人のような豪邸ではないが、たまに近所に建っている少し広めの庭付き戸建てといった感じだ。地価の高い皇都で「先祖代々の土地」とか「官有地の払い下げ」みたいな何のバックグラウンドもなしにこれだけの家を構えるのは、実はかなり難しいことだったりする。ユリアーネの親父さんが優秀な人だということが、これだけでもわかるというものだ。
「エーベルハルトくんも中へどうぞ。お茶でも飲んで待っていてください」
「お邪魔しまーす」
ユリアーネに淹れてもらったお茶を啜りながらぼんやりと彼女が準備を終えるのを待つ俺。なにせいきなりのことだから、急いだところでしばらく時間は掛かるだろう。
……。
…………暇だな。
――――コンコン
「ユリアーネ、入っても?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
あまりにも退屈を持て余した俺がユリアーネの部屋へと突入すると、彼女は大量の本やら服やらを並べてウンウン唸っていた。
「……大丈夫?」
「うーん、匿ってもらう期間もよくわからないですし、何をどれだけ持っていったらいいのかの判断に困ります……」
そう言って腕を組み、可愛らしい困り顔で首を捻るユリアーネ。組んだ腕に意外としっかりあるお胸様が乗っかっている――――というかユリアーネさん、あなた実はそんなに大きかったんですか⁉︎ 小柄な印象しかなかったけど、着痩せするタイプなんですね!
そんなことを思いながら、すっ……と視線を逸らすと、今度はスーツケースからはみ出た純白のブラジャーが視界に入る。当たり前ではあるが、これもまたしっかり大きい。……なんだって? E……? な、なんだとッ、身長が一四五センチもない小柄なユリアーネが、Eだと……ッ!
女性の中でもとりわけ大きいものをお持ちであるメイがF(Gだっけ?)、スタイル抜群のリリーがDかEくらいなのを考えると、ユリアーネは見かけに反してかなり大きいことがわかる。ちなみにスレンダー体型のイリスだが、この間致した後にこっそりとブラのサイズを確認したらCカップだった。決して小さくはないし形も綺麗で俺は素晴らしいと思うんだが、本人的にはもう少し大きいほうが良いみたいだ。毎晩こっそりとお胸が大きくなる体操をしているのを俺は知っている。
「あっ……!」
そこで俺の視線に気づいたユリアーネが、顔を真っ赤にしてスーツケースからはみ出ていたブラジャーを慌てて仕舞い込む。
「……見ましたか?」
ここで嘘をついても、お互い何の得もしないだろう。ならば敢えて本音を伝えるのみ!
「……思ってたよりずっと立派で感動しました」
「エーベルハルトくんの、えっち……」
恥ずかしそうに湯気を立てながら小さく呟くユリアーネ。隠れ巨乳属性持ちの眼鏡っ子文学少女か……。うむ、凄くエッチだ。
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