第261話 幼女事案

「り、リンちゃん……⁉︎」

「はる〜! リン、しゃべれるようになった〜!」


 そう言って笑顔で抱きついてくるリンちゃん(人型)。小学二〜三年生くらいの全裸の子供と密着するとかいう事案がここに発生した。


「そ、そっか。それは良かったな」


 俺はといえば、しどろもどろにそう返すのが精一杯だ。隣で一部始終を見ていたリリーに至っては絶句したまま微動だにしない。ここが街中でなくて本当に助かった。事情を知らない他人にこの場面を見られたら、俺は貴族とか皇国騎士とかに関係なく逮捕されていたかもしれない……。


「それにしても……リンちゃんって女の子だったんだな」

「リン、おんなー?」

「ああ、そうだよ。リンちゃんは女の子だ」


 竜の時のリンちゃんの性別は成長したところでいまいちよくわからなかったが、こうして人間の姿になってみると一目瞭然だ。二次性徴を迎えていない身体は男女の区別がつきにくいとはいえ、男の子にはあって女の子にはない逸物がリンちゃんには存在しなかった。

 始原竜エレメンタル・ドラゴンとかいうくらいだからファンタジー生物にありがちな無性パターンかとも思ったが、そこは普通に動物動物しているらしかった。リンちゃんのあそこにはちゃんと女の子の女の子な部分が存在している。あんまり凝視するのも悪いような気もするが、性別確認は必須だし何よりリンちゃんは人間じゃないから人権は存在しない(ゲス顔)。

 まあ流石に低学年女児に性的興奮を覚えるほどロリコン……というかペドフィリアを患ってはいないから、問題はないと信じたい。これはあくまで保護者としての感情だ。


「ね、ね、ハル〜!」

「なんだい? リンちゃんや」

「だいすき〜! えへへへ」

「かわいいなぁあああもぉおおお〜!」


 不覚にも胸キュンである。思わず、がばちょっ! という擬音が聞こえてきそうな勢いで抱きついてしまう俺。ドラゴン形態の時と違ってちゃんと柔らかいし、子供特有の高い体温が温かい。……てか、いくら今が初夏だとはいえ、流石に全裸は寒いだろうということに今更ながら気づく。


「とりあえずリンちゃん。服を着なさい」

「うん、わかった」


 インベントリの中からリリーが幼い頃に着ていたドレス風ワンピースを出してやると(前にリリーの家に行った際、もう着れないからと捨てるのはあまりにもあんまりなので、ひたすらに拝み倒してなんとか勝ち取ったのだ。昔の幸せな記憶をいつまでも形にして留めておきたい俺である。なおリリーには普通に引かれた)、リンちゃんは素直に従ってワンピースに頭を突っ込んだ。突っ込んで、そのままワンピースのお化けと化した。


「……万歳しな」

「こうていへいか、バンザーイ!」


 まったくどこでそんなこと覚えてくるんだ。…………俺か。


「女の子なら、はしたない格好をしてはいけないよ」

「? うん、わかった!」


 本当にわかってんのかな?


「人前じゃ肌を見せちゃいけないんだよ」

「リン、いつもはだかだよ?」

「そりゃドラゴンは鱗とかで色々隠れてるからいいんだよ」


 もし人並みの知性を持つドラゴンに鱗が無かったとしたら、今頃ドラゴン達は服を着飾る高度なファッション文化を持った文明的種族になっていたに違いない。下位竜はさておき、知的な上位竜にはちゃんと羞恥心の類もあるらしいからな。もっとも、その羞恥心とは戦闘に敗北したり狩りに失敗した時に感じる坂東武者さながらのものらしいが。


「ハル君が真っ当な教育をしてるわ……」

「なんか俺が真っ当じゃないみたいな言い方をするね、リリー」

「え。だって今まで散々私にしてきたエッチな悪戯を思い返したら、普通そう思うわよ」

「リリーは許婚だろ! 流石の俺も婚約もしてないような相手にそんなことしないぞ!」


 婚約とは即ち、将来的に(エッチなことも含めて)仲良くなりましょうという約束に他ならない。むしろ婚約者以外の誰にセクハラをかませというのだろうか。そんなことをしたら犯罪じゃないか。


「ハル君って昔から倫理観があるんだか無いんだか、よくわからないギリギリの線を攻めてくるわよね」

「それが美学ですから」


 ほどよくゲスに。然りとて人としてクズにはなってはならない。そういう生き方が一番面白いと思うのだ。前世でクソ真面目に過ごした結果、まったく報われることなく命を散らしたからこその人生観である。そしてその生き方をしてみて、俺は現在とても幸せだ。可愛い嫁(になる予定の子)とラブラブして、気心の知れた幼馴染とゴニョゴニョし、信頼できる同僚とイチャイチャする。前世なら考えられなかった状況だ。

 加えて、実に愛らしいペットあるいは妹あるいは娘枠の契約神獣にまで恵まれた。もう俺に思い残すことは何もない。


「良い人生だった……」

「ハル〜! しんじゃだめ〜!」

「こんなに可愛いリンちゃんを残して死ねるかぁああ〜!」


 とりあえずリンちゃんを抱きしめ直して、散々にわしゃわしゃ撫で回した俺であった。




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