第123話 フラグ回収
「クリストフの野郎!! ぶっ◯してやらぁああああ!!」
「おいエーベルハルト。一体どうしたんだよ、さっきから情緒が不安定だぞ」
「どうもこうも、今、俺達がこんな状況に置かれているのは
「なぁ、ふらぐって何だ?」
「知らないよ。おれに言われてもわかる訳ないじゃないか。エーベルハルトの頭はちょっとおかしいんだから」
「それもそうだな。突き抜けたヤツって、皆ちょっとどこか変だもんな」
「お前らーっ! 無駄話してる暇があったら一匹でも多く倒せよ! いくら俺でも流石にこの数はしんどいんだよ! あと今の聴こえてたからな! 後で覚悟しろ」
「わ、わかってるって!」
「はぁー、おれ直接的な戦闘は得意じゃないんだけどなぁ……」
そう呟きながらも、渋々とオスカーとマルクスは戦闘に参加する。オスカーは自慢の火炎魔法で、マルクスはワイヤーとナイフを駆使して色々とトラップを仕掛けて魔物達の身動きを取れなくしているようだ。
「それにしても数が多いなぁ」
「魔の森だからこれが普通なんじゃないの?」
「まったく嫌になるぜ」
愚痴を言いつつも着実に一匹ずつ魔物を倒していく俺達。襲い掛かってくる魔物達の種族は実に様々だが、ジャバウォックと思しき個体はこの中にはいなさそうだ。
「おれ、弓とか覚えた方がいいのかな?」
魔力で強化した目に見えないワイヤーを張って、そこを通った魔物をズタズタに斬り裂くというなかなか凶悪な罠をそこら中に仕掛けているマルクスが戦闘中にそう呟く。彼の場合は罠の設置や物陰からの襲撃がメインな攻撃手段なので、あまり息切れしたりしないのだ。
「いやー、お前はそのままで充分強いだろ。それに弓ってけっこう力が要るんだろ? お前がやってもあんまり効果は薄いんじゃないか?」
「オスカー、おれだって魔の森を一人で踏破するくらいには強いんだよ。まあ戦闘力のお陰ではないんだけどさ……」
「まあ、マルクスにはマルクスの良さがあるってことでしょ。マルクスはそのまま盗賊職を極めた方が強くなれると思うよ」
「エーベルハルトが言うと説得力が違うや」
まあ俺はスペシャリストというよりはゼネラリストだから「一つを極めろ」なんて言っていいのかはわからないが。しかしまあ、努力で何かを突き詰めることなら何度となく経験してきているので、仲間を褒めたり励ましたりするくらいなら許される筈だ。
「なあ、オレの火炎魔法はどうだ? イフリートとのコンビネーションもなかなかのモンだろ?」
「イフリート」というのはオスカーの契約神獣である『
「オスカーの魔法は威力が高いからな。それにイフリートとの連携も充分だと思う。ただ、もうちょっと細かいコントロールができるようになると魔力の節約になるよ。オスカーは演出がやや派手すぎるきらいがあるからね」
「ひょーっ、手厳しいね。だがオレはめげない。未来の大魔法士とはオレのことさ!」
「その自信をもうちょいマルクスに分けてやれよ、と思わなくもないな」
戦っている内に相当魔物の数が減ってきたので、だいぶ楽になってきた。こうして会話をしながら討伐することだって全然問題ないくらいには余裕がある。
「うーん、『アクティブ・ソナー』にもこれ以上の魔物は引っかからないな。多分、今いるのを倒したらしばらくは休憩できると思う」
「よっしゃあ! 燃やしまくるぜ」
「オスカーはエーベルハルトに言われたことを少しは実行しようよ」
「……おう」
オスカーは(渋々とだが)頷いた通り、きちんと魔力を抑制し、撃破に必要な最小範囲に収めて火属性魔法を放っている。この修行プロジェクトに参加している以上、元から才能は相当持っているので飲み込みは早い。魔法の効率がぐっと向上しており、侮れない戦い方になっている。
マルクスもオスカーに突っ込みを入れつつ、さりげなく落とし穴(そんなに大規模なものではなく、魔物が足を引っ掛けてバランスを崩す程度のものだ)を準備したり、その落とし穴の先に細長い串のような針を用意したりして的確に魔物を減らしているようだ。そこはかとなくえげつない。
……落とし穴に引っかかって転げた結果、目に串が突き刺さり、文字通り串刺しにされて脳髄を滴らせながらビクンビクンと震えている魔物が可哀想になってきた。
そして俺自身も魔刀・ライキリで一番多く魔物を狩っている。かれこれ数十匹は斬り伏せただろうか。
「うおおおっ、これで終わりだっ!」
オスカーの『火球』とイフリートの火炎放射が同時に最後の魔物に直撃する。
「ウガアアアア……ッ」
ありえないくらいムキムキだったゴリラ型の魔物が全身火達磨になって倒れる。流石の筋肉達磨も火達磨になってしまっては死を免れることはできなかったらしい。
「ふぅ……。これでひと息つけるな」
「よし、今のうちにメシ済ませちゃおう」
「そうだね。おれは腹が減ったよ」
俺はインベントリから、前にハイトブルクで買っておいた特製スパイスを取り出すと、皆に見せる。
「これかけて肉食べるとめちゃくちゃ美味いんだよ」
「おお、マジか! なら早速食おうぜ」
「肉ならオスカーが焼いたのがそこら中に転がってるからね」
この演習は数日かけて行われるから、こうして食料を確保することも大切な訓練の一環なのだ。まあ普通の森に比べたら魔の森は魔物の
「これ、いつになったらジャバウォック見つかるのかな……」
「ただでさえ突然変異が珍しいってのに、その中でもさらに珍しいのがジャバウォックなんだろ? 本当に見つかんのか?」
「俺もそればっかりはわからんなぁ」
人型の魔物を避けて、できるだけ草食っぽそうな見た目の魔物の肉を切り分けて食べる俺達。中までしっかりと火が通った新鮮なお肉は、魔力を豊富に含んでいることもあってなかなかに美味だ。あとスパイスが最高である。
「……いや、このスパイス美味すぎじゃないか?」
「おれ、ここに来て美味しいものばっかで驚いてるよ。前にいた村でこんなに美味しいもの食べたことなんて無かったもの……」
二人がスパイスの瓶を眺めながら感動したように言う。どうやら俺のおすすめスパイスは二人の審美眼にもかなったようだ。
「だろ? だろ? 美味いだろう? うははは!」
「ちなみにこれ……いくらくらいするの?」
「あっ……、そうだよ。こんだけ美味いんだし、これけっこう高かったりするんじゃねえの?」
「あー、うん。まあ塩よりは高いね。一瓶で1万エルくらいかな」
「「い、1万!?」」
二人が驚愕している。まあスーパーで売ってる七味が1万円とかしたらどんな金持ちでも驚くもんな。そんなほいほいと気軽に使っていいモノじゃない。
「まあ、所詮1万よ」
「されど1万だぞ。普通に稼げる値段とはいえ、庶民の日給くらいあるスパイスを買おうとは思わねえな……」
「どうしよう、おれめっちゃかけちゃった……」
「いいよ別に。これくらいならいくらでも買えるから」
「くっそー! これが貴族の財力か!!」
「おれ達平民の気持ちが貴様にわかって堪るかぁ!」
「言っとくけど、これ俺が自分で冒険者として稼いだ金で買ったやつだからな。親から貰ってる小遣いはもう何年も前から1エルも使わずに貯金してるよ」
「……すみませんでした」
「……流石は『彗星』だね」
貴重な休憩時間を無駄話しながら消費していく俺達。こうやって適度に気を抜いて英気を養うことも、長期戦には必要なことだ。なにせ、まだジャバウォック討伐演習は始まったばかりなのだから。
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