第39話


 顔のわきを通り過ぎていった木剣が、訓練場の土をえぐった。礼二は予備動作なしの左ジャブを放った。


 今までのパターンだと、これすら避けられないやつがいたが、タイロンはきっちり手甲でガードした。


 「ふふっ、」


 戦闘に興奮を感じながら、礼二も手と足の装甲を展開した。無数の拳打が放たれる。


 「くっ!」


 後手に回りながらも、タイロンは反撃してくる。どうやら、カウンター系が得意らしい。


 ゴォン!


 礼二の拳と、タイロンの木剣がぶつかり、鈍い音を立てた。お互いに頬をゆがめながら、じりじりと力を込めていく。


 2人の間で、木剣が軋みだした瞬間、2人の足が同時に相手の足を払いにかかった。


 (やるな!)


 礼二は360度腰を回転させ、タイロンの足払いを空中で避けるとともに、蹴りをみぞおちに押し込んだ。


 タイロンと礼二は、その勢いでお互いに吹っ飛んだ。


 「はあ、はあ」


 「はあ、はあ、はあ」


 2人とも互いをにらみながら、息を荒くした。


 (合気道を使わなかったのは正解だったな。おかげでいろいろ学ばせてもらった)


 「いやあ、さすがだな」


 礼二が立ち上がると、タイロンも立ち上がって近づいてきた。


 「そちらこそ、見事な剣捌きでしたよ」


 「ありがとう。それにしても、君は普通の天使様とは少し感じが違うな」

 

 「たとえば?」


 「ん~、攻撃に迷いがない。彼らは大体殴ったりするのを躊躇するから」


 「あと、痛みに弱い、でしょう?」


 「確かに、あれは気が滅入る」


 「まあ、大目に見てください。それも今日で解決するはずだし」


 --------------------------


 それから他の騎士たちとも訓練をし、久しぶりに気持ちいい汗をかいていると、朝食のいい匂いが漂ってきた。


 「いい匂いだな・・・・」


 「せっかくだし、朝飯を食ってかないか? 豪華なのもいいが、軍のは健康第一に作ってあるぞ」


 「・・・・いいの?」


 「おう!、一緒に食おうぜ!」


 周りの騎士たちも、賛同してくれた。誰もがさっぱりとした、いい奴らだ。


 「じゃあ、食べる!」


 --------------------------


 ガヤガヤガヤ


 訓練場の近くにある兵舎の食堂はほどよくうるさくて、学校の昼休みに似ていた。


 ガツガツガツ!


 ただ違うところと言えば、皆が猛烈な速さで食べていることだ。メニューは簡素ながらも、脂分をおさえた、本当に体にいいものになっていた。


 礼二も訓練の話をしながら夢中で食べていると、いきなり食堂の扉が開かれ、あのメイドが入ってきた。


 (あ~、楽しくてすっかり忘れてた・・・・・・)


 ※次回更新 5月9日 21:00

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る