第35話
「・・・久しぶりですね」
「そうだな。まあ、座りなよ」
礼二はミリナに椅子をすすめ、メイドに向き直った。
「君は、出ていってもらえるかい?」
「・・・はい、わかりました」
メイドは少しだけ顔色を変えたが、すぐに了承し、ドアノブに手をかけた。
その瞬間、礼二の左手が動き、毒爪を飛ばしていた。ヘルマン王に使った薬の改良版だ。
声も出せずに崩れ落ちる彼女に駆け寄って抱きとめ、抱え上げた。
「な、あ、あなたは、なにをして・・・」
「これからの会話を聞かれるわけにはいかないんでね」
メイドをベットに寝かせ、机に置いた宝石を取り上げた。
「これを仕掛けたのは、君かい?」
「・・・・・・」
「別にこのことを怒ろうってわけじゃない。ただ、無効化の仕方を知りたいだけだ」
「・・・壊してもらえれば、それで」
「そっか」
パキン!
礼二は容赦なく拳を振り上げ、空中に放った宝石を粉々にした。
「さて、では話を始めようか」
ミリナの対面に腰かけ、口を開いた。
「まずは、最近の天使たちについて教えてもらえるかな?」
「は、はい。今現在、天使さまの数は30人です。騎士団による訓練と私の魔法訓練。その上で魔物狩りをするというサイクルでやっております」
「魔物ってのは、どういう姿を?」
「え?、あ、普通の獣と同じです。イノシシや狼、クマが出てくるときもあります」
「・・・なるほど。天使の数が減っているが、死んだのか?」
「いえ。戦いたくないと、城を出ていかれました」
「・・・なら最後に1つだけ、質問」
「は、はい」
身構えたミリナを、礼二は嬉しそうに見つめた。
「王からの信用を取り戻したいかい?」
「っ!、な、何を言って」
「わかるさ。この短期間にそれだけの天使を失えば、おのずと信用も立場もなくなる」
(日本じゃ、殺し合いよりも政治家たちの権力争いのほうが身近だったからな。これぐらいはわかる)
「・・・はい、取り戻したいです」
ミリナはうつむきながら、そう言った。
「うんうん。素直に言ってくれれば、俺だってやりようがあるからね」
「え?」
礼二の言葉に、心なしか口調が明るくなったミリナが、顔を上げた。
「俺はあなたの信用を取り戻させてあげるよ。その代わり、俺の指示を聞いてほしいんだ」
「ほ、ホントに・・・・?」
「ああ。どう?、悪くない取引だと思うけど」
礼二がおもむろに左手を差し出すと、勢いよくミリナが両手でつかんできた。
「ぜひ!、ぜひ、お願いします!」
(よし、これで大分負担が減るぞ)
左手での握手が、信用されていないことの証だとも知らないミリナが礼二の傀儡になった瞬間であった。
※次回更新 5月5日 21:00
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