第33話
それから数日後、王城からの迎えの馬車が屋敷に着いた。礼二はヘレナに頼んでおいた装備を体に仕込み、持ち物を確認していた。
いつかのパーティーで使った正装に、普段着。何から何までメッシーナのセレクトだ。
「なあ、ほんとうにこれ全部持ってかないといけない?」
「当たり前じゃない。これでも少なくしたほうよ?」
(え~・・・・)
「お~い、用意はできたか?」
いつの間にか、ヘルマン王が屋敷に入ってきていた。ほがらかに笑いながら手を振っている。
「いらしてたんですか。気づきませんで」
「よいよい。お主が乗る馬車に隠れておったのだ。城の政務は多すぎる。少しは息抜きもしなければな」
そういって笑う彼は、いたずらっ子の顔をしていた。
「・・・・なんの用でしょう、父上」
「おう、レイの迎えじゃ。これから国の将来のために働いてもらうんじゃなからな。王として当然」
メッシーナはヘルマン王を軽くにらむと、礼二のほうに向きなおった。
「それじゃあ、荷物は詰めておくわ」
「ああ、ありがとう、メッシーナ」
ガチャッ
一度も振り返らずに部屋から出ていったメッシーナをヘルマン王はニヤニヤしながら見送った。
「ほうほう。初々しいのう」
「・・・嫌われますよ?」
「そんなのは百も承知じゃ」
(・・・・余計なお世話だったか)
礼二は王に椅子をすすめ、自分も腰かけた。
「俺はまたリリーに会うことになるんですか?」
「いや、あいつは魔法訓練。お主には実戦訓練と魔物攻略の引率をしてもらう」
「わかりました。確認ですが、ともかく強くすればいいんですよね?」
「・・・そうだ」
「なら、リリーにも会わせてください。あいつが魔法訓練をするなら、すり合わせはしておかないと」
「それもそうだな、その方針で行こう」
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「じゃ、行ってくるよ」
「ああ、行ってこい」
荷物の用意も終わり、礼二はメッシーナたちと屋敷の外に出た。ヘルマン王はもう馬車に乗り込んでいる。
「・・・・・」
「メッシーナ?」
メッシーナは黙って礼二を見つめている。必死に笑顔を作ろうとしているが、まったくうまくいっていない。
「・・・行ってらっしゃい。帰ってきてね」
ようやく絞り出したセリフは震えていて、今にも消えてしまいそうだった。
「うん。死なない程度に、頑張ってくるよ」
バタン
礼二は旅行鞄とともに馬車に乗り込んだ。それと同時に馬車が走り出す。
「・・・あんな別れ方でよかったのか?」
「帰れるかなんて、わかりませんから」
頬杖をついてそっぽを向く礼二を、ヘルマン王は悲しそうな目で見つめていた。
※次回更新 5月4日 6:00
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