第10話 日本人なら誰しもやってみたいこと
~side??~
「主任!
薬婆の裏クエストが突破されました!」
「なにっ!?
あの超絶重い婆さんを持ち上げた挙句、家まで送り届けた奴がいるのか!?
まさか、わざわざ力をつけたあとに薬婆クエストを受ける変わり者がいるなんて.......」
「.......それが、クリアしたのは第一陣ではなく第二陣のプレーヤーです。
おまけに狐神の眷属までテイムしました」
「ぶっ!!
なんだと!?
前日に始めて薬婆の裏クエがクリア出来るもんか!バグじゃないのか!」
「我々もそう思い、調査したのですが、バグは見当たりませんでした。
そのプレーヤーはどうやらユニーク種族を引き当てたようでユニークスキルでクリアした模様です」
「そんなことがあるのか.......
狐神の眷属クエストはA部署が四徹目に差し掛かった時に作成した無茶振りネタクエストのはずだろう?」
「こちら証拠のVTRです」
「この娘ってもしかして.......」
「はい。そうだと思われます」
「……この舞殿で舞うところPVに使いたいんだけど、ダメかなー」
「同意書にゲームのワンシーンをPVの宣材として使うかもしれない旨を載せていますので大丈夫だとは思います。ただ.......あの方が何と言うか」
「だよなあ!
バグじゃないならとりあえずは様子見で」
「はい」
「はあ。とんでもないプレーヤーが入ってきたもんだ.......」
「そうですね」
哀愁漂う男二人の心情など露知らず、ソラはゴンと共にゲームの世界をエンジョイしているのだった。
~side ソラ~
必要な調理道具などを買って、再度町を出る。町の中では人の視線がすごかった。
やっぱり、町中でチベットスナギツネ歩いていたらびっくりするよね。私だったら2度だけじゃなく、3度見ぐらいすると思うもん。
尻尾をフリフリ私の歩幅に合わせてゴンちゃんにふと浮かんだ疑問を問う。
「ゴンちゃんってご飯食べられるの?」
一人でご飯を寂しく食べるより、誰かと一緒に食べたい。
だから、ゴンちゃんも一緒に食べられたらいいな。
『食べなくても生きてはいけるが、食べたとしても問題はない』
「玉ねぎも?」
『…何故ピンポイントで玉ねぎなのだ。
丸かじりなど御免だからな』
「犬や猫はダメだから、もしかしたら狐もそうなのかなって」
『私は神の眷属だ。普通の狐とは違う』
「それもそうだね、ごめんごめん」
ふい、と拗ねたように他所を向いたゴンちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「お肉をドロップするモンスターって何かな?」
『ここら辺では角ウサギかオークだな。
他所に行けばミノタウロスやトリトリがいる』
「じゃあ、角ウサギを狩ろう!
オークはまだレベル的に難しいかも」
まだゴブリンも討伐してないしね。
『分かった。こっちだ』
「モンスターの場所わかるの?」
『あぁ。本来の力が出せない分範囲は限られるがな』
ゴンちゃんがいれば【探索】スキルいらないじゃん。
「とても助かるよ、ありがとう」
『お安い御用だ』
ゴンちゃん先導で少し歩いた先に、角ウサギが5匹ほどの群れで休んでいた。
これはチャンスだね。
「私がまず一撃いれるから、向かってきたやつを協力して倒そう」
『承知した』
アイテムボックスとなった袴のポケットから扇を取り出して、開いた状態でモンスターの方に向ける。
「【サンダーボール】ってうぇぇぇええ!?」
私はただ意識をこっちに向けさせるだけのつもりだった。
でも、目の前にいた角ウサギの群れは跡形もなく消えていた。
それもそのはず、【サンダーボール】を唱えると、扇の骨一本一本から小さめのサンダーボールがすごい勢いでうさぎ達の方に向かって行き、そのふわ丸ボディを貫通したのだから。
「……
ゴンちゃん、もう一回探してもらってもいいですか?」
アイテムボックスには残念ながらお肉は入っていなかった。
『…そうだな』
気を取り直して向かった先には10匹程の角ウサギの群れ。
「【羅刹化】」
流石に一瞬でおさらばは可愛そうな気もするので、次は薙刀を取り出す。
「魔法は使わずにいくから、結構こっちに来るかも!任せたよ、ゴンちゃん!」
『了解。』
とは言ったものの、薙刀ってどうやって使えばいいんだろう?
今まで薙刀を持った経験すらない。
とりあえず、振ってみる?
ぶん、とひと振りすると斬撃が飛んで10匹全部消滅した。
「……」
『……』
ゴンちゃん、そんな可愛そうな人を見る目で見ないで!そもそも君の上司のせいだからね、これ!!
「うぅ。ドロップアイテムにお肉がない.......」
運補正の影響か、全てが『虹色の角』だった。
『主、後方に1匹いるぞ』
「本当!?
次こそ!【羅刹化】解除!」
ー残り時間4分20秒の状態で解除しますー
薙刀を仕舞って、【羅刹化】を解除する。
代わりに取り出したのは木の棒、マイスウィート武器だ。
『私が先に攻撃しよう』
「うん!後ろは任せて!」
ゴンちゃんが角ウサギにタックルすると、ウサギはぽてん、と横に転がった。
「フシャー!!!」
「げっ!この子亜種じゃん!!」
ペットの不祥事は飼い主の責任!とでも言いたげに、ゴンちゃんに目をくれることもなく私に向かってきた角ウサギには小さな羽が生えていた。
私の腰のあたりぐらいの高さでこちらに飛んでくる。
「1番バッターソラ!
いっきまーす!!」
木の棒をバットに見立てて、背中の方に引く。
角ウサギが丁度いい距離に来た瞬間思いっきり振る。
「カッキー……うそでしょ!?」
角うさぎ君は棒が当たった瞬間、空へ向かってものすごい勢いで飛んで行き、キラン、と光って空の藻屑になってしまった。
ヒットのつもりが場外ホームランだよ!
「なんでよおおお!
これただの木の棒だよ!
飛びすぎ!!」
……ただの木の棒だよね?
なんか雷みたいな模様入っている気がするんだけど、こんなのあったっけ?
金色の稲妻が枝分かれしながら上から下へ斜めに横断したような模様。嫌な予感がする。
私は急いで木の棒の詳細を見た。
『雷神の戦棍:木の棒が雷神の加護を受けたことによって変化した。非常に力の強いユニーク武器。雷魔法との適性において右に出るものは無い。売るなよ。』
「ちょっと待って。私雷神様と会った覚えないんだけど!」
『雷神様は我が狐神様と仲が非常に良い。
主が舞っていた時も、2人で酒を飲みながら鑑賞しておられたしな』
えええ、何それ。
しかも雷魔法との相性がピカイチとか私の木の棒最強じゃん。
「狐神様も言ってくださればよかったのに.......」
『あの方はそういうお方だ。
主の驚く姿が見たくてわざと黙っていらっしゃったのだろう』
「うぅ。なんかどんどん普通から離れていってる気がするよ」
木の棒を仕舞い、ドロップアイテムを確認する。
『角ウサギの肉(レア)』
お!やっとお肉出た!
レアってことは美味しいのかな?それとも生の方??
とりあえず焼ければいいか!
「ゴンちゃん、お肉出たよ!」
『良かったな。
どうする?まだ集めるか?』
そうなんだよ。料理のレベルを上げるためには材料が全く足りない。
失敗する確率が高い状態でレアのお肉を調理する勇気はない。
「それなんだけどさ、ゴンちゃん1人にお願いしていいかな?
私だと『虹色の角』しか出ないみたい」
今までのドロップアイテムは全て『虹色の角』だ。
レイちゃんに言ったらまた買い取ってくれるかな?
『それは構わないが。良いのか?』
「うん!ゴンちゃんの戦いぶりも見たいしね!」
『わかった。
角ウサギはこっちにいる』
ついていった先には5匹の角ウサギがいた。
『【狐火】』
ゴンちゃんを囲むようにして人魂のような赤い炎が5つ現れる。
くい、と顎で示せば、炎は1匹目掛けて発射された。
「フシャー!!」
炎を当てられたウサギは怒りながら、ゴンちゃんへ突進する。
『【紅牙】』
ゴンちゃんの鋭い牙に炎が宿る。
メラメラと燃え上がる口を大きく開き、角ウサギに噛み付く。角ウサギはみゅぅ、と力ない声とともに輝くエフェクトになった。
同じことを5回繰り返し、本人は見事無傷の状態ですべての角ウサギを倒した。
『やはり時間がかかるな』
ぶつぶつ文句を言いながらゴンちゃんはドロップアイテムを回収している。
仲魔が倒したアイテムが直接私のアイテムボックスに送られることはないみたい。
ゴンちゃんは、木の葉に包まれたお肉と毛皮らしきものを持ってきてくれた。
「ありがとう。
それらをここにおいて、ちょっと寝っ転がってくれない?」
『???こうか?』
回収したアイテムを地面に置き、その後にパタリと倒れたゴンちゃん。
ふっふっふ。
もうお分かりかしら?私のしたいこと。
私は一つ深呼吸し、ゴンちゃんの前に立つ。
そして苦しげな表情を作り、ゴンちゃんを見つめる。
「…ゴン、お前だったのか。いつも肉をくれたのは」
私はぱたり、と木の棒を取り落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます