ゲーム禁止法案が成立した独立国家カガワから主人公がトクシマに亡命するだけの物語
たかき
ゲーム禁止法案が成立した独立国家カガワから主人公がトクシマに亡命するだけの物語
この物語の執筆前後に香川県に関する様々な情報を調べたり、香川県議会で審議されているゲーム規制条例などについて調べたり、考えたりしました。
それはそうとこの物語はフィクションであり、実際の人物、団体などとは一切関係はありません。
そのことを了解できる方だけがこの物語をお読みくださいますようお願いします。
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「君、ちょっと待ちなさい!」
山岳地帯の森林を走り抜けている自分に気づいた国境警備隊の隊員が、そう呼びかけた。
もちろん言われたとおりにするつもりはない。全力で無視し、そして走り続けた。隊員の方もその様子を見てこちらの後を追い始める。
国境まであと300m。山の傾斜や数多く生えている草木が自分の足取りを引っ張っている。追っている隊員の方も同じのはずなのに、それでも慣れの差によってじりじりと距離を詰められている。
だが捕まるつもりは全くなかった。水とお金、身分証、そして違法に入手したスイッツとそれのゲームソフトが入ったリュックとともに、全速力で走り続ける。
「捕まってたまるか……!」
持てるだけの力を振り絞りながら、ここ、独立国家カガワからの亡命劇は続いていた。
独立国家カガワは、昔は独立国家でもない、うどんが有名で、豊かな自然がある、過疎化が進んでいる平凡な1つの行政区分に過ぎなかった。
この流れに変化が訪れたのが議会に提出され、採択された1つの条例案だった。
ゲーム依存症対策条例。一見するとよさそうな条例だが、中身は子供のゲーム利用を1日60分に制限するというものだった。国内外(当時は独立国ではないが)からの多くの反対をよそに、この条例は成立した。だが、これで終わりというわけではなかった。
始めは子供のゲーム利用は60分まで、という目安を示しただけだった条例は、そのうち30分、10分と短くなり、罰則なしだった条例は過料、罰金と、違反者への刑罰が科されるようになった。年齢制限も撤廃され、この条例はカガワの人々を縛り付けていた。
そしてなんやかんやあってカガワが独立国家となった後、カガワ議会で最初に審議されたのは、憲法でも独立宣言でもなく、何故かゲーム禁止法案だった。今までは時間制限だったゲームのプレイを完全に禁止し、刑罰も懲役刑が科せられるようにするものだった。
流石にこの法案への反発は少なくなかったが、新政府は徹底したプロパガンダを行い、批判を回避した。プロパガンダの結果、多くの人々はゲームがやれなくてもうどんが食べられるなら別にいいだろうと考えるようになってしまった。いいわけないだろう。
しかし、やがて抵抗運動は縮小し、法律案は可決、成立してしまった。今やゲーム販売店は軒並みつぶれてしまい、跡地にはうどん屋が立ち並んでいる。
また、選挙制度などにも変化が訪れた。かつて徴兵義務を果たさないものに選挙権が与えられなかったように、1年の間にうどんを一定以上消費しなければ、選挙権を与えないと、憲法で規定されてしまったのだ。今や納税、勤労、教育と並んで、うどんを食べることは国民の義務になっている。そのためか、自分の家の食卓には毎日のようにうどんが並んでいた。
中学生の時、大して好きでもないうどんが食卓に毎日出てくるのに嫌気をさし、もうどんなんか食べたくない、と父に言ったことがある。そのあとに感じたのはほほの痛み。自分が殴られたんだとわかるのにそう時間はかからなかった。父は胸倉を掴み、お前は非国民だ、今すぐ謝りなさい、と怒鳴りつけてきた。
何がうどんだ、自分はパン派だ。そう反論しようとする自分を抑え、その時は父親に謝り続け、何とか場を抑えた。
高校生の時、友人と一緒にファイアウォールを突破して、国外のサイトへとアクセスしたことがあった。数日後には警察に捕まってしまったが、その時にプレイしたゲームは、今までの人生の中で一番楽しかったかもしれない。
友人は自分のことをかばい、自分が脅してファイアウォール突破に協力させたのだ、と証言した。裁判の結果、自分はなんとか執行猶予がついたが、友人には実刑判決が下された。友人は今も壁の中だ。刑務所では一日3食うどんを食べ、様々な方法で更生を進めているそうだ。
高校を卒業し、就職して2年近くになった頃、自分は亡命する決意をした。人々をうどんを利用して支配しているのに、ゲームは徹底的に弾圧する。そんな国への愛想は完全に尽きた。もうこの国に未練はなかった。
しかし、一言に亡命するといってもそう簡単にできるものではなかった。
最初の条例が成立したときからカガワから離れる人は少なくなかったが、独立国となり、ゲーム禁止法案が成立してからは特に若い人たちの亡命が後を絶たなかった。eスポーツが盛んなトクシマをはじめ、エヒメやコーチ、さらに海を挟んだ先にあるオカヤマやヒロシマ、ヒョーゴへ数多くの人々が亡命した。その結果、ただでさえ高い高齢化率がさらに上昇。人口減により税収にも影響が出た。事態を重く見た政府は亡命阻止法をはじめとしたさまざまな法律を施行。国境の警備は厳重となり、亡命を阻止する長大な壁が作られるなどした。
当然、トクシマ国境の多くにも壁が作られている。今自分が走っているこのあたりにはまだ作られていないが、その分国境警備隊の隊員の巡回が絶えない。
だが亡命するにはここしかない。国外への移動も大きく制限されている中、正面突破して亡命する以外に道はなかった。
国境には国境警備隊が絶えず巡回をし、亡命しようとする人がいないかを見張っていた。度の隊員もかなり屈強だが、小学生の時に見た教科書によると、プロテインなどが配合された特別なうどんを食べることによって、他の人々よりも運動神経や運動能力などが優れているらしい。原理は自分にもよくわからないが、たぶん誰にも分っていない。だがその運動能力は本物みたいで、さっきまで40メートルは離れていた距離が30メートル、20メートルと、どんどん縮んでいる。
だが、悪いニュースだけではなかった。
「国境だ……!」
トクシマ側の国境警備隊の建物が見えた。トクシマの旗と、そのトクシマがある国の旗も見える。国境まであと少し、あと少しで自由の身だ。
だが、同時に1つの問題が浮かび上がった。事前に調べた情報にはなかったフェンスがあったのだ。高さは2m以上はあるだろうか。こんなものがあるとは思ってもいなかった。
それでも、ここを乗り越えなければ自由を勝ち取ることはできない。
フェンスの前まで着くと、精いっぱいのジャンプをしてフェンスを掴み、そしてよじ登る。残っているすべての力を出し切って、上り続ける。
だが、フェンスのトクシマ側の方を手でつかんだ時、カガワ国境警備隊の隊員が自分の足を掴んだ。かなり力が強く、この体勢を維持することだけで精いっぱいだった。
このままではいづれ引きずりおろされる。ここまでか。いや、まだあきらめるわけにはいかない。何か、何か策はないか。
「クソ……あー、あそこにUFOが!」
「そんなことに引っかかるわけないだろ、とっとと降りなさい!」
「……あー、あそこに醤油うどんが!」
「え、嘘だろ!?」
ダメもとで言ったのだが、どうやら自分を追っていた隊員全員が自分の言ったことに騙されたらしい。恐るべきうどんパワー。
チャンスは今しかない。残っていた力すべてを出し切り、足をつかんでいた隊員の手を振りほどく。
隊員全員が自分が言ったことが嘘だと気づいたときには、自分はフェンスの先に降りていた。
カガワ国外に逃げ、もう手出しをすることができない国境警備隊員の前で、自分は息を切れ切れにしながらも、リュックからスイッツを取り出し、起動した。カガワでは違法なものとして取り締まりの対象だが……
「……ここはトクシマだ、取り締まることはできない!」
「……クソ!」
国境警備隊員をあざ笑うかのように、ゲーム機の起動音が辺りに鳴り響いた。
これでもう、毎日うどんを食べて選挙権を得ようとする必要もなければ、ゲームをしていて逮捕されることもない。
トクシマ側の国境警備隊員が俺の方に気づき、ひとまず保護しようと近づいてくる。その様子をカガワ側は見ているだけだった。
本当に、本当に亡命できたんだと自分は実感した。最後、醤油うどんの下りがなかったら亡命はできなかっただろう。
この日、自分は人生で初めてうどんに対して心から感謝をした。
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ちょっとオチが弱いかな……この物語を作って色々反省してます。
そういえばこの物語とは全く関係ないのですが、香川県では子供にゲームの利用時間を制限する条例案が成立する見通しみたいですね。ゲーム依存への対処などは確かに重要なことですし、それに関する法律や条例を制定すること自体に反対するつもりは全くありません。ただ、単純にゲームの時間を制限すれば解決する、というものではないと思います。更に言うと、この条例の審議過程なども不透明なところが多く、条例制定にあたって十分議論した、とは言えないのではないでしょうか。この問題は香川県だけの問題ではなく、もしかしたらこの動きが全国の自治体に広まる可能性もあります。いろいろ言いたいことはありますが、ゲーム依存を防ぐためにはただ単に時間制限すればいいものではない。自分はそう思っています。
あと、今は長編小説書いています。興味がある方はこちらもご覧いただければ幸いです。
50年前に滅びた世界で
ゲーム禁止法案が成立した独立国家カガワから主人公がトクシマに亡命するだけの物語 たかき @takaki_438_16
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