第11話【出会い】

「あ、そう言えば師匠、ここに痛みを感じさせないようにする薬ってある?」

「う〜ん、麻酔の事かぃ? ここら辺ではそんな代物を使う人は居ないから置いてないんじゃが、中央都市の薬屋にはあると思うんじゃぞ。」


 やっぱりここには売ってないか……

 まぁ、備えあれば憂い無しって言葉を聞いた事があるような気がして、ただ行動に移してみた感じだからしょうがないな。


 外に出る。気づけばもう昼だ。

 昼までに家に帰ろうと思ってたんだけど……う〜ん、昼は外食でも良さそうだな。


 村で昼時に一番賑わっているリウリ食堂にでも行くか。

 ………軽い気分転換のつもりが大体村一周してるな……まぁいいか。


 広場近くに位置し、人々で賑わうリウリ食堂に着き、外のテーブルでメニューを眺める。


 そして注文が決まってから注文が決まったという合図の札を立て、店員を待つ。


 すると数分後、聞き覚えのある男の声がする。


「お客様、ご注文お決まりになりまし――――ってベイリス!?」

「あ、シグ。そう言えば今日の手伝いをするって言ってたね。」


 そう、ここリウリ食堂はシグの実家だ。


「ああ、わざわざ来てくれたのか?」

「軽い散歩でプラプラするつもりだったんだけど、エイテ親父の所に行ったり師匠の所に行ったりしてて気づけばこんな時間でさー……折角だから来ちゃった。」

「何かありがとな。」


 そんな会話をしていると奥の方から怒声が聞こえる。


「シグ! 注文が滞ってるんだ! 早くしろ!」

「はっ! ハィィィ!! ベイリス! 注文は!?」

「じゃ、じゃあ、コレとコレで!」

「分かった。じゃあ忙しいからまた……」

「なんかスマンな……シグ。」


 相変わらずシグのお父さんって少し迫力があるよな……

 シグも頭が上がらないみたいだし……


 昼時ってやっぱりここが村で一番活気があるなぁ〜

 まぁ、夜は夜で酒場として活気があるんだけど。


 料理が来るのを待っている間になんとなく噴水の方を眺めている。


 うん。やっぱり賑わってるなぁ〜


 広場の方を眺めていると、何やら旅人のような格好をした人を見つける。

 大きなリュックを背負ってフラフラと今にも倒れそうな感じで歩いているな……


「大丈夫かな……あの人、大分フラフラして――」


 そう呟いた束の間、道端にその人がポテッと倒れ込む。

 なんか力尽きたって感じで。


 勿論すぐに駆け寄った。

 近づいて分かったんだけど、倒れた人は大体僕と同い年くらいの男性だ。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ…あぁ……すいません……ちょっと死にそうな位空腹なだけで……」

「ちょっ! 今にも声が消え入りそうじゃないですか!? そこに食堂があるんで何か食べたほうが良いですよ。」

「そうしたいのはヤマヤマなんだけど、実はお金が……」


 今にも声は消え入りそうだ。

 流石に「はい。そうでしたか。」みたいな感じに放置することは僕にはできないな。

 当分お金には困らなそうだしこの人におごる位余裕があるだろう。


「お金なら僕が出しますよ。」

「えっ! いいのかぃ!?」


 男は頓狂とんきょうな声をあげた。


「流石に目の前で死に掛けそうな人を放置する事なんて僕には出来ませんよ。」


 フラフラ歩くこの人を支えながらテーブルまで連れていき、メニューを渡す。


「ベイリスー、すまんが注文の品思ったよりも時間が掛かりそ―――ん? 一人増えてるな……誰?」

「いやー、ちょっとソコでお金が無くてしかも極度の空腹状態の人を見つけたから思わず、ね。」

「金が無いって……」

「あ、安心して。勿論僕がちゃんと払うから。」

「それなら大丈夫だな。まぁ、ベイリスなら最悪ツケにしとく事も出来るけどな。お客さん、注文決まりましたか?」

「はっ、はい! じゃあ――――」


 結局この人は流石に遠慮したのか、店で一番安いランチセットを頼んだ。

 それでもとても今までに無い位美味しい物を食べているような、そんな表情をしていた。

 まぁ、この店の料理に安いから味がおかしいって事ハズレなんて無いんだけどね。


 そして、昼食を食べ終え、何であんなに飢えていたのか事情を聞いてみると色々あったみたいだ。

 何でも旅をしている間に山賊にお金を奪われただとか、野営をしている時に食料を野生の動物に食べられてしまったとか……


 旅の目的までは聞かなかった。

 何か話したくなさそうだったし、そこまで踏み入るほど僕はデリカシーの無い人間では無いからね。


 ただ名前ぐらいは聞けた。

 この人は、イザナと言う名前らしい。


 色々と話をしていると、どうやら今日も寝る場所が無くて、この辺で野宿する予定だったみたいだ。

 流石にそれを聞いて放っておく事は出来ず、家に招く。


 まぁ、部屋とベットは余ってるし、昨日ベットとか綺麗にしたばっかりだったから丁度良かったな。


 どうせ家には僕しか居ないし、家に居ない事が多かったから金目の物なんか無いからね。


「いやー、本当にこんなに親切にして頂いて有難うございます。」

「いいえー、お風呂の湯加減とかはどうですかー?」

「丁度いいですー」


 気づけば外はもう真っ暗だ。

 今僕は、イザナさんを風呂に入れている間に夕飯を作っている。


 イザナさんの旅の疲れが少しでも取れるといいな。

 後、当分米とかは減らなそうだ。

 なんでかって言うと、さっき家に帰ってきたら何故か大量の米やら野菜やらが大量に置いてあったからな……

 トレビジさんのお礼の手紙付きで。


 そのような事を考えながら大分前にシグに教えて貰った料理を幾つか作り終える。

 すると丁度いいタイミングでイザナさんが風呂から上がって来て、そんなこんなで夕飯を御馳走した。


 そして久しぶりに自宅で誰かと一緒にご飯を食べた後、イザナさんと温かいお茶で一息ついている。


「ベイリスさんは料理が上手ですね。」

「まぁ、一人でいる事が大分長かったんで、料理が上手い友人に色々教えて貰ったんですよ。」

「そうだったんですか〜」


 イザナさんはかなり感心しているようだ。


 一人暮らしって自分で料理を作るしか無いから、毎日楽しみながらやってると段々と上手くなって行くもんなんだよな〜


「あ、そう言えばイザナさん、これから旅はまだまだ続きそうですか?」

「えぇ、まぁ……」

「じゃあ、ちょっと待っててください。」


 そう言い残すと僕は台所に向かう。


「確かここに新しい袋が―――あ、あったあった。」


 綺麗な袋に昨日作っておいた、保存の効く干し魚やらパンなどを大体一週間分ぐらい入れる。

 本当はもっと入れてあげても良いんだけど運ぶのにアレだし、後は多少、お金を入れて上げれば良いだろう。


 その袋をイザナさんに差し出す。


「…………? これは―――っ!?」

「もし良かったらソレを旅に役立てて下さい。」

「えっ! 本当にこんなに貴重な食料を頂いちゃっていいんですか!?」


 イザナさんはかなり驚いている、と言う表情でそう言って来てくれる。


 さっきまであんなに飢えていたから、食べ物が凄く貴重な感じになっているみたい。

 まぁ、飢え死にだけは誰でも嫌だろうし、確かに旅では食料は貴重だしな……


「いいんですよ、僕は一人暮らしですから当分食料には困らなそうですし――――」


 そう言うと、イザナさんの目元が段々と赤くなってきている。


「うっ……うぅッ……こんなに始めて出会って優しくしてくださった方は初めてですっ……」


 イザナさんはポケットからハンカチを出して涙を拭っている。


「イザナさんは、今迄大変な思いをして来たんですね……」

「…………はい……」

「………………」


 なんかこう……人に感謝されるのって嬉しいな。


「あの! ベイリスさん、是非何かお礼をさせて下さい!」

「いや〜、お礼だなんて……」

「実は自分にはちょっとした事が出来るんです。」

「…………? ちょっとした事?」

「どんなに忘れている事でも、何でも一つだけ思い出させる事が出来るんです。」

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