第2話【飛竜船】
「ベイリス! そんなに走らないの!」
「軽いジョギングなのに過保護だね……このくらい動けるようになっとかないと、すぐ治療院に戻る事になっちゃうし多少はいいでしょ?」
「まだ病み上がりなんだからそんなに動いてもまたロクス兄さんのところに戻ることになるわよ!」
確かにそうだな……
ここは下手に動かないほうがいいのかも……
「はいはい、分かった分かった。こんぐらいで済ませとくよ、でも歩いてギルドまで行って報酬の受け取りに間に合うかな?」
「う〜〜……無理をしない程度で急ぐわよ!」
「りょうかい。」
まだ少し体がうまく動かないけど大丈夫だろう、この位。
暖かい日の光が降り注ぎいつも多くの人々で賑わう石堤の街道……
この街道を真っ直ぐ進んだ所に白くて大きいく、入り口はガラス張りの立派な建物、この街のギルドが有る。
「うっわぁ、やっぱり報酬の受け取りは朝早くから並んどかないと不味いね……」
「報酬を受け取れるか受け取れないかって位並んでるわ……」
「メアリ……今からでも一か八か並んどこうか?」
「間にあうと良いんだけどね……」
この街のギルドは他の街と違ってその規模……大きさにより、銀行としての役割も担っている為、いつも窓口の前には人の大行列ができている。
この銀行のシステムまで取り込まれているこのギルドの欠点といえば……
「メアリ様、ベイリス様、申し訳ありませんが受け取り期間を過ぎています。」
銀行と報酬の受け取り窓口が一緒になってているので、いつも混乱してて稀に報酬を受け取れない時があるってとこ位かな?
「そんなぁ〜〜何とかなりませんか?」
メアリが係の人に掛け合っている。
「申し訳ありません、規則は規則なので……またのご利用お待ちしています。」
「しょうがないよ、メアリ、諦めて帰ろうか。」
「う〜ん……報酬を受け取れなかったのはイタイわね……」
これからのお金の節約方法などでメアリは頭を抱える。
「なんかごめん、メアリ……」
「いいのよ私は助けてもらったんだし、あなたが生きているだけでお釣りが来るわよ。」
「ありがとう……でも当分受注できるクエストは少ないんだよなぁ……」
「そうね……」
メアリとそんな話をしていると後ろから呼び止められる。
「…………!! ロクス兄の言う通りここに居たかベイリス! 目が覚めたんだな!」
後ろを振り向くと三日ぶり(?)に見るもう一人の幼馴染の男、シグが僕の方に向かって来ていた。
「おっ! やぁ、シグ! おかげさまでなんとか大丈夫だったよ、怪我を負った僕をロクス兄さんのところまで運んでくれたお陰で。」
「良かった。お前の意識が戻る予兆があるってロクス兄が言ってて、『当分入院生活になるかも』って聞いたから、泊まっている宿までベイリスの着替えを取ってきたら『ギルドに行っちゃったよ』って聞いたから急いでUターンしていたんだぜ!」
片手に僕の着替えの入ったバックを見せながらそう言ってくる。
「ごめんごめん、報酬の受け取りのこと思い出して……結局受け取れなかったんだが……」
「ふぅ……やっぱりそんなことか、安心しろ、ベイリスの分も俺が受け取っといたから。ほらコレお前の分。」
シグが肩がけのバックから報酬の入った袋を取り出して僕はそれを受け取る。
「マジか! ありがとう、シグ!」
シグが僕に報酬を渡したところでメアリがあることに気づく。
「シグ、私の分は?」
「あ゛、ヤベッ、忘れてた。」
「そんなぁ〜〜」
シグのその一言を聞いてメアリは項垂れた。
けど、こういう時大体シグは………
「なんてな、冗談だよ、ずっとベイリスに付き添ってくれていたからちゃんと受け取ってあるって、ほら。」
「むぅ〜シグの意地悪!」
「HAHAHA☆ やっぱりまだ俺の冗談を見抜けるようになってなかったか――プップ、クックックックッ……」
やっぱり、ちゃんと受け取ってくれていた。
「シグぅぅ!!」
「ま〜ま〜メアリ、報酬が手に入って良かったじゃん。」
「むぅ〜〜」
メアリはいつも通り、シグの冗談を見抜けなくてむくれている。
結構見抜くの簡単なのになぁ。
僕とシグは昔っからいつも一緒に居る親友だから分かるのかな?
性格も少し似たところがあるし、まぁ、付き合いも長いからな。
「取り敢えず今日はこれからどうする? メアリ、ベイリス。」
「当分私達の受注できるクエストは、割に合わないショボいやつだけしか残ってないんだし……ロクス兄さんの実家の畑の手伝いでもしたほうが良さそうね。」
「確かにロクス兄さんが上級回復術士になってから人手が少しずつ減って畑仕事が大変そうだったもんな、偶に手伝いに帰って来てるらしいけど……」
「じゃあベイリス、メアリ、決定だな。郊外にあるロクス兄の家の手伝いがある筈だから今日は町に帰るための荷造りが完了次第町に出発だな。」
「「りょーかーい」」
久しぶりだな、家に帰るの。
ここ最近十八になってギルド登録が出来るようになってから宿生活が長かったからなぁ。
荷造りをそれぞれ済まし街道を下り方面に向かって歩き、途中飛竜船乗り場へ向かう馬車に乗せてもらう。
馬車か……そういえば夢の中でも不思議な形のヤツ見たな。
「なぁシグ、馬車って馬がいなくても動かすことって出来ねぇかな?」
「急にどうしたんだ? 馬車は馬無しじゃ動く筈ねぇじゃん。」
「だよな。」
「水の魔法とかを後ろに向けて放ちながら乗るって馬鹿な発想をしたやつも居るけどかなり効率悪いからなぁ、ただ疲れるだけだし……」
シグが少し笑いながらそう言うとふと、僕はある事を思い出し、シグが少し笑った理由が分かる。
「プッ。シグ、それって昔メアリが初級の水魔法で試してたヤツ?」
「そう、ソレ。――ってやけに静かだと思ったら考案した本人寝てるし。」
「飛竜船乗り場に着くまで寝かせてあげようか。」
「そうだな。ベイリスの意識が戻るまであんまり眠れて無かったらしいし。」
それにしてもあの夢で見たものは何だったんだろう?
魔法で動いている感じても無かったし、何より『おぺ』ってなんだったんだろう?
やけにリアルで生臭い夢だったな。
あんな重症の怪我人をなんで上級回復術士の治療院に連れてかなかったんだ?
あのくらい上級回復術士が二人居ればもっと早く直せたと思うのに。
ふぁ〜〜あ、僕もちょっと眠くなって来ちゃったな。
でももうそろそろ飛竜船乗り場だし我慢するか。
眠気を紛らわせるためにシグと「久しぶりに町に帰ったら何をするー?」とか「どの位迄ゆっくりするー?」とか他愛のない話をして眠気を紛らわせる。
「ベイリス、そろそろメアリを起こすか? 飛竜船見えてきたし。」
「そうだな――あっ、でもこうなったメアリって中々起きないんじゃなかったっけ?」
「……そう言えばそうだったな……ドタバタしててすっかり忘れてた……」
飛竜船乗り場に着くまで起こそうとシグと一緒に頑張っているんだが、起きる気配が全くない……
仕方ない背負っていくしかなさそうだ。
「あんちゃん達、そんな死んだみたいに眠っちまってるけど連れの譲ちゃん大丈夫か? 今なら引き換えして治療院に連れてくことも出来るが……」
「いえ、引き返さなくても大丈夫です、一応息してるらしいんで、大丈夫だよな? ベイリス。」
「多分大丈夫だけどしょうがないからメアリは背負って行くか。」
「ベイリスは病み上がり何だし俺がそいつを運ぶぞ。」
「何かスマン。」
「気にすんな。」
シグがメアリを背負い、僕がメアリとシグノ軽い荷物を持つ。
にしても何度乗ってもこの飛竜船の大きさと設備には驚かされるな。
こんな移動手段が出来るのはこの国だけらしい。
何でもポーションのまだあったとされる時代にこの国の王が竜の神の子を助けたとかなんとからしい。
しかしあくまでこれは伝説。
ポーションと同じくほんとに存在したか定かではないんだよな。
だけど誇り高い、しかも言語を操る事のできる高位の竜が人を運んでくれているのはその伝説を裏付けているとしか思えない。
この国が目覚ましいほど栄えていて、平和ってのは殆ど竜の恩恵だな。
「……んっ、ふぁぁ〜〜よく寝たぁ〜〜」
「あぁ、、人の背中でとても良く寝ていたな。」
「にゃっ……!? シグ!?」
あ、メアリがシグの背中で起きた。
「おはようメアリ。」
「ベイリスおはよう〜……ってシグ! 恥ずかしいから早くおろしてよ! エッチ!」
「メアリ……起きてから俺に行った言葉の"にゃ……!?"の後に言う事がそれか? ほら、手離して落とすぞ。」
「ちょっ! シグ!」
「冗談だほら、ちゃんと降ろしてやるからそんなにしがみつくなよ、地味に首が絞まる。」
「もう〜〜」
シグがしゃがんでメアリを自分の背中から降ろす。
メアリはなんか少しむくれてるな。
うん。何時も通り。
ずっと僕が眠っているときにあまり眠れてなかったみたいだったから体調を崩してないか心配だったんだが、良かった良かった。
「いやぁ〜、いつもこういう時ベイリスに任せているけど、やっぱり小さい頃と違って重くなった?」
「こらっ!! シグ! 私の一番気にしている所突かない!」
「まーまーメアリ、そりゃ子供の頃と比べると身長も伸びているんだし当たり前のことなんだから気にするな。」
「ベイリス…………」
「その割には身長も小さいがなHAHAHA☆」
「も〜、シグもメアリにそんな事ばっか言っちゃって〜」
「……しぃ〜ぐぅ〜!!」
「うぉっ! 痛てぇ痛てぇ! メアリ! 身体強化魔法を使うのはズルだろ!」
「このやろっ! このやろっ!」
仲良しだなぁ〜
シグも痛い痛い言ってるけど大して痛くなさそうだな。
メアリは結構強めにやってるみたいだけどシグはさりげなくメアリに気づかれない範囲で身体強化魔法使ってるし。
…………にしてもさっきから周りからの視線が痛い。
「さっきからあのカップル五月蝿いわね。」とかヒソヒソ言われてるし…………
……ん? こういう時にシグが気づかない筈は―――
………あ、あの目、確信犯だな。
そろそろ止めとくか。
「は〜い、お二人さん。そろそろ周りからの視線が痛いからやめようね〜」
「えっ……? あっ……!」
僕がそう言うとメアリもやっと気づいたみたいで、頬を赤らめて黙り込んじゃった。
「はいよ、わ〜ったわ〜った。そろそろメアリをからかうのも程々にしとくよ、ベイリス。」
「そんじゃシグ、メアリ、そろそろ昼だし昼飯でも取っとく?」
そして突然メアリが何か思いついたみたいだ。
「さんせーい。シグ、私をからかいまくった罰としてお昼ごはん私とベイリスの分も払ってね〜」
なるほど。メアリもシグを攻めに掛かったな。
だけど、シグは―――
「え〜、しょうがねぇ、こんな事もあろうかとメアリのクエスト報酬から幾らかパクっておいて良かったぜ。」
「!?!? シぃ〜グぅ〜!!」
うん。これは勿論。
「安心しろメアリじょ――」
「冗談だよなシグ。勿論。」
「流石ベイリス! やっぱどっかの誰かと違って冗談が分かる奴だ!」
「私は冗談が通じなくてスイマセンでしたねっ!」
「よし! ベイリスが無事だったのを祝ってメアリとベイリスの分も俺が払ってやるよ!」
「ソレも冗談じゃないわよね?」
「ばーか、これは冗談なんかじゃねぇよ。」
そして、飛竜船の食堂に向かい、シグ持ちで昼食を取ったのであった。
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