Song.62 猛者のバンドたち
Mapが出る。公の場所に姿を現すのは、親父が死んで以来だろうから二年ほどだろう。
知らない人はいないと言っても過言ではない。音楽界のトップにいたグループなのだから。
そんな人たちが、高校生の大会に出てくると言えば驚き、そして興奮するのもわかる。
『ゲストの方たちのことはまた唄っていただく時間がありますので、それは後程配るタイムスケジュールをご確認ください』
そう説明されてもやはりざわつきはおさまらない。
色々なところで、『本当に?』『やばい』なんて言葉が飛び交う。
それを各学校の顧問が鎮めていた。
「君たちは特殊過ぎて、あまり騒がないでいてくれるので助かりますね」
Mapのメンバーの血縁者だし、この前のバーサスライブでメンバーにも会っているから、あまり驚きも騒がずにいる俺たちにニコニコした顔を向ける先生の言葉を、みんなが聞き流した。
『本日の演奏順ですが、平等にくじ引きで決定します。各学校代表者の方、こちらへ来てください』
メガホンを持つ人の元へ、ぞろぞろと出て行く人たち。
「悠真、任せた」
「……後で文句言わないでよね」
仮にも部長という立場である悠真が、俺らの代表として前に出る。ちなみにLogから出て行ったのは、あのボーカルの奴だった。
代表者たちは別のスタッフが持ってきた棒状のくじを引いていく。その先に数字が書かれているようで、次々にスタッフへ手渡すと、それぞれ自分たちの仲間の元へ戻った。
『――はい。全9組。順番が決まりました。まずトップバッターは……
スタッフが手を向けた先にいたUn-Limitedのメンバー男女4人は、互いに顔を見合わせて喜んだり、頭を抱えたりと様々な反応を見せた。
『2番目が……
銀と黒の髪が混ざった男がいるバンド。見た目が奇抜で、人の目を引く。同じ高校生とは思えない。
ずっと見ていたら、喧嘩に巻き込まれそうだ。鋼太郎よりずっと見た目が怖い。
『3番目、
「いい、順番! 流石、
「い、いやっ……俺、ただ普通に……」
明るい声ではしゃいだ女の人。バンド代表としてくじを引いた猫背のメンバーに詰め寄って褒めたり、揺さぶったりと動きが激しい。
あまりにも騒がしいからか、もう一人のメンバーが「まあまあ」となだめに入った。
『では4番目ー……
ここで、あいつらか。
多分、ここにいる他のバンドとも被らない音楽性だろうから、見に来た人は度肝抜かれるかもしれない。
「尚は真ん中好きやなあ。何とも言えない順番やん」
「別に好きじゃない」
「嘘やろ? トップはヤダとか言っておらんかったっけ?」
「それは奏真」
「せや、奏真が言うてたんやった」
聞こえてくる祐輔の関西弁と、静かな尚人の声からは緊張の欠片が一切感じ取れなかった。
「兄貴、トップは嫌だったんだってよ」
「そんなこと、僕にはどうでもいいよ」
「だな」
悠真に言えば、ムッとした顔を向けられた。
『えー、続きましては折り返し、5番目。
「よかったぁ……トリは緊張しちゃうもんね!」
きゃあきゃあと高い安堵の声が聞こえた。
どうやら一番大所帯、とは言っても5人のバンドであるようだが、女子が3人と多いこともあって順番の発表だけで手を握り合って盛り上がっている。
『6番目は、
静かに一つのバンドがこそっと動いた。でも、喜びも何も見せない。
顔色一つ変えないバンドなのかもしれない。それはそれで、どんな曲なのか気になる。
『いよいよ終盤。7番目、矢ケ
「よっしゃ、トリ回避!」
「うるさいんだよっ!」
「うげっ」
男女混合バンド、らしい。
トリを避けられた喜びを見せた男が、女に無理やり黙らせられた。その様子を見た周囲の人がクスクスと笑っている。
「ん? みっちゃんどうした?」
「なんだかちょっと僕、不安になってきちゃって……」
「なんで?」
周りが笑っているというのに、一人おどおどしていた瑞樹に大輝が聞けば、一呼吸着いてから、ぎこちない笑顔でその心理を小さな声で言う。
「一番最後になったら、どうしよう、って。みんなの注目と期待が重いから……」
瑞樹に聞いたのはよかったが、過去にプレッシャーに負けた事のある大輝は何も言葉をかけられなかったらしい。
口をへの字にして、黙ってしまっている。
今ここでへこんでいても仕方ないというのに。それに、順番なんてどうでもいいんだ。やることは変わらないのだから。
「しゃきっとしろ、しゃきっと。トリは一番印象に残るし、派手なんだよ。まあ、どの順番でも、派手にやるけどな」
「……うん!」
瑞樹の背中を強くたたいて言えば、途端に顔が明るくなって、本当の笑顔を向けてきた。
「お前もだ、大輝。しょげてんじゃねぇよ」
「うっ、キョウちゃぁあん! 俺、キョウちゃんに一生ついて行くぅぅぅ!」
「くっついてくんじゃねぇ!」
名前を呼ばれていないというのに騒がしい俺たちを、保護者のように監督している悠真の視線がぐさぐさと刺さる。
「恥ずかしくないの?」
「「……すみません……」」
俺と大輝、二人で謝罪し、今度こそ静かにする。
それでも後ろから向けられる冷たい目が、俺たちの背中をピンと伸ばした。
『……はい。続きまして、8番目』
スッと息を吸い込むスタッフ。
ここで名前を呼ばれなければ、トリ決定になる。
順番が気にならないわけではない。
ドキドキと心臓が音を立てた。
『8番目は、
俺たちの出番は最後。
このバンフェスの最後を飾るバンドに決まった。
全てのバンドを見終えてからステージに立つ。
場の空気はすでに熱くなっているはず。そして、もちろん疲れも溜まっている人へ向けて弾くのだ。
さらに盛り上げることもできるし、疲れのせいであまり聞いてくれない可能性もある。
どちらに転ばせるかなんて、決まっている。
「……やってやろうじゃん。って顔してる」
「は?」
鋼太郎がしれっとした顔で、俺の心を読んできた。
おかげで情けない声が出た。
「お前一人じゃねぇんだからな」
そうだ。俺たちは5人のWalker。
誰かが先走ってもよくない。全員が集まってこそのバンドだ。
「サンキュー」
笑ってそう言えば、鋼太郎の口角がちょっと上がった。
空を見れば、もう太陽がメラメラと輝いている。
開演は午後からだから時間は余っている。だからそれまでの間、リハや流れの確認を行い始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます