Track5 ライトアップ
Song.42 選考
恭弥たちWalkerがちょこれいとと共にVSライブを行っていた同時刻の都内某所。
ガラス張りの会議室に、5人の男たちが集まっていた。
「今年もたくさん集まりましたね」
「そうだな。毎年ながら、この中から素晴らしい才能を持つ高校生を探すのは大変だぞ」
「藁の中から針を探すようなものですもんね」
次々に運ばれてくる書類に対し、思わず顔が引きつる若い男。その隣に立つ少し歳のいった男は、表情を変えずに書類を見つめて話す。
「馬鹿。それじゃあ、望みのないものを探すってことだぞ。一応、俺たちは望みは持ってるんだから」
テーブルの上に積み上げられた書類を見ながら繰り広げられる2人の男の会話。先に部屋に来ていた別の男がその1つを手に取って、口を開いた。
「どうなんですかね? 去年の優勝者だって、デビューする気はなかったって言ってましたし。今の高校生って、ちょっと前と違ってこう……現実主義というか、冷めてるというか。自分が高校生のときよりも、そういうタイプの人が増えた気がします」
「……! 確かにそうかもな。ここ最近は特に、熱意がある高校生が少ない。バンドはやっぱり応援する側でいたいっていう気持ちが強いんだろう。それに記念応募っていうのも多いだろうしな。だからこそ、俺たちが見極めなきゃいけないんだよ」
「そうです、ね……でも、これだけの応募は……俺たちだけで一次通過者を極めるのは無理じゃないですか?」
さすがに5人だけでは捌ききれない書類の数。きちんと中身を精査し、公正な結果を出さなければならない。しかし、長時間行えば次第に集中力は低下し、判断力も鈍る。そうなれば、結果に影響をもたらしてしまう。1日で全てを確認するわけではないにしても、1人の負担量は莫大である。
「わかってるさ。だから今回は、公にはしてないけど、一次審査からビッグな助っ人を呼んでいるんだから」
そう言うと、会議室の外からざわついた声が聞こえ始めた。
「お待たせしました」
落ち着いた声で部屋に入ってきたのは1人の男だった。ぺこりと頭を下げて挨拶をし、顔にかかった髪を耳にかけた。
「やあやあ、よくきてくれたね、司馬くん。おっと……今日は1人かい?」
「ええ、すみません。全員に声をかけたのですが、1人は
しゅんと肩を落とし、申し訳なさそうな顔をした。それを見た男は、仕方ないというような表情を浮かべる。
「いやいや、手伝ってもらえるだけでありがたいよ。いつも一次審査だけは、人手が足りなくてね」
「そう言ってもらえると、助かります。この大会は……バンフェスは自分たちの、Mapの始まりでもあるので、関わってみたいと思っていたんですよ。1番やりたいと言っていた男ができないのは残念ですけどね」
司馬は部屋の隅のイスへ荷物を置き、1つの書類を手に取って眺める。その目は故人を懐かしむ、優しい目だった。
「ああ、そうだね。彼はよく言っていたよ。自分たちのような、人を後押しするようなバンドを応援したいから、自分も審査に参加させてくれって。その時は上の許可がなかなか出なくてね……やっと出たと思ったら……」
「……過去を振り返るのは終わりにして、始めましょう?」
「ああ、そうだね。では、司馬くんは北海道の応募者を見ていってくれるかい? メンバーと顧問のコメントを見つつ、パソコンに保存してある演奏映像を見て、ありかなしかを判断してくれ。ああ、2人1組でやるし、別のペアがもう一度チェックするからね。よかった点と悪かった点を各バンド毎に書いておいて」
「了解しました」
集まった男たち、総勢6人。
それだけの人数で、バンフェスの一次審査が始まった。
☆
11月初旬。
休み時間にチラッと確認したバンフェス公式サイトが更新されていた。
『一次審査通過者発表&二次選考開始』
そう書かれたリンクを見つけ、唾を飲み込んだ。
通過したという自信はある。いい曲ができたのだから。そこら辺の高校生の中では頭一つ抜けていると自負している。でも、もし落ちていたらそこで終わり。結果を確認したい気持ちと、したくない気持ちが混じる。
自分ひとり、先に確認していいものかという考えもあったため、リンク先を開けずにいた。
「ずっとスマホ見ながら……何やってんだ? 気持ちわりぃ」
普段はあまり見ない様子に違和感を感じ取った鋼太郎が、俺のスマホを後ろから覗き込んでいた。画面に反射して、後ろにいることはわかっていたが、じっと見られていたから、笑ってしまいそうになったのをこらえる。
「結果。これ、俺が見ちゃってもいいと思うか?」
「いいんじゃね? 見ようぜ。気になるし」
鋼太郎は手を伸ばし、リンク先を開いた。すると少しの時間を置き、一次選考通過者一覧兼二次選考のための動画が並ぶ画面が表示された。
「応募総数……1万246組!? あ、俺、もう胃がおかしくなりそう……鋼太郎、パス」
通過できる自信はあったが、確認する勇気をなくした。打たれ弱いメンタルに嫌気がさす。
スマホをそのまま鋼太郎に渡し、顔を手で覆う。見たくないけど、結果だけ聞きたい。そんな思いが行動にでた。
「俺かよ。まあ、いいけど……えっと、一次通過したのは117組で……」
1万以上の応募からたった100ちょっとしか通過できない狭い門。さらに不安が募ってきた。どんどん胃が重くなり、吐き気まで感じる。
それでも鋼太郎は変わらない顔で、指を下から上へスクロールしていく。
「ど、どうなんだよ……早く言ってくれ。じゃないと俺が死ぬ。精神的に。ゲロ吐くぞ」
「もっと待ってくれよ。吐くんじゃねえぞ。ここから探すの大変なんだよ」
いくらたってもスクロールをし続ける鋼太郎をせかす。名前がないのなら、ないと早く言ってほしい。じらされるのは耐えられない。待っている間、心臓がバクバク音を立てて耳障りだ。
「……た」
「え?」
「あったって言ってんだよ! ほら!」
画面を見せられ、じっと見る。
そこには俺たちのバンド名である’Walker’と先生が選んだのであろう文化祭後の俺たちがふざけ合っている後姿が、アーティスト写真のようにそこへ載っていた。
自分たちが一次選考を通過した。それが嬉しくて、今すぐにでもみんなに知らせたかった。
「瑞樹んとこ行ってくる! 鋼太郎は大輝と悠真のところだ!」
「おい、吐き気はどこいった?」
「んなの、どっかいった! 鋼太郎も早く伝えてこいよ!」
休み時間はあと5分もない。それでも、手分けして、みんなのところへ知らせに行った。スマホで連絡すればよかったじゃない、なんて後で悠真に言われたけど、やっぱり直接言いたかった。そうして俺たちは、同じ喜びを共有し、インターネットでの一般投票による二次選考へと進んだ。
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