9.―6歳―秘密の小部屋

「「「「ぎゃああああああ――!!」」」」



 突然現れた赤い服の女性の微笑みが『ニタァァ』に、見えた四人は悲鳴をあげた。



 クッ、キ、キ、キ………。


 首を傾げては再び歪な軋み音が上がる。


『どうしたのかしら?私が怖いの?』


 しゃべった!!


 ふわりっ、スカートな裾をつまみ上げ礼をしたその女性は、自らの名を明かした。


『始めまして、私は魔法技巧人形マギウスドールマキア・ルージュ。イヴァルの手により造り出され、エイジスの魂の転生者にお仕えする為に造られた魔法技巧人形です』


「………えっ!?」


 イヴァルが、エイジスの転生体の為に造り出したと言うことは、つまりは私のって事………?



 ルージュがそう言い終わると、再びイヴァルの書のページが捲れ上がり、最後の方のページを開いた。




 ――――――――――――――――――――




《所有物一覧》


【魔法技巧人形マキア・ルージュ】

〈保有機能〉

 ・生活全般補佐

 ・魔法全般指導

 ・道具管理

 ・管理区域内動植物の管理

 ・秘密の小部屋管理


 ―――――――――――――――――――





 との記載が現れ、このページは消えることは無かった。


 どうやら、文字が現れても消えるページと消えないページが有るようだ。


「えと……。驚いて悲鳴をあげちゃってごめんなさい………」


『クスッ、気にしなくて良いのよ。ここに人が訪れるなど早々には無いことだし、私は気にしないわ』


「あのっ、ここって本当にイヴァルの秘密部屋なの!?」


 記憶体の私なら兎も角、幼いアデレードには、断片的な記憶の開示しかされていないようで、この部屋が本当にイヴァルの秘密部屋かは、推し量れないのだろう。



 確かに、視界に入る限り彼の秘密部屋に間違いは無さそうだ。

 分厚い幾つもの本が、所狭しと本棚に収まりきらず床に積み重ねられ、何かの図面もあちこちに散乱している。


 その辺り、ルージュは片付けたりしないのかしら?



『はい、その通りです。ここはイヴァルの秘密部屋になります。宜しかったら中の施設を案内しますので、見に行きますか?』



「「「「……行くっ!!!」」」」


 ルージュの提案に四人はテンション高めでハモる。




 イヴァルの秘密の小部屋の中は、黒革の手帳があった書斎と隣の書庫、入り口に小さな台所と小さなテーブルセットが配された居間らしきスペースとに別れていた。


 まぁ、その殆どの場所に様々な本が収納されていて(結構無造作に置かれているのも有るけど)秘密の小部屋じゃなく、本の部屋だけどね。


 部屋を出ると、草原だった。

 ただし、見渡す限り……ではなく、真っ黒い空間に小さな島がぷかりと浮かんでいるかのように、空も地平も星さえ見えぬ只の真っ黒な空間だ。

 そして上空には、白い光源が浮いていて。この光源は太陽と違い熱を発しない。

 だからここは、暑さも寒さも関係なさそうだ。


 小屋から少し離れだ位置の緑生い茂る草原には、丸太で組んだ囲いが四角くされている。

 奥には、小屋らしきものがあり、恐らく動物を飼育する為の物だと伺わせる小屋が幾つか存在していた。


 ちょっと離れた奥には森が幾つか。小屋の横手には石畳みの道があり、ガラス張りの温室が有る。


「わっ……何ここ!?何で周りが黒いの??」

「えっ?島……!?空に浮かんでいるの!?」

「な、何だぁ!?ここは!?」



 三人は思い思いの感想を口に乗せ、その風景に驚愕とそして更なる好奇心を募らせていた。


『ここは、云わば庭園です。囲いの中では家畜の飼育が可能となります。森の中にはキノコや薬草の自生が、可能に、温室は様々な植物の栽培が可能に、他にも畑なども作れますし、あちらの石畳みの武道場では、魔法や戦闘訓練が行えます』


「「「凄~い!!」」」


「何でも出来ちゃうじゃん!ここ」

「うっわ~!!何それ面白そう!!」

「これは……良いなぁ……」


 子供らしく、三人とも素直な感想を漏らしてくれる。


「これ、動物だの植物だのは連れてこなきゃ行けないのよね?」


『その通りです。ここでは飼育が可能。ここで飼うものは、主様がお連れ下さい』


「うっ、やっぱり……。それにしも、ここは一体何なの?黒い夜空かと思えば星は見えないし、あの白い光も太陽じゃ無いわよね?」


 アデレードの質問にルージュはギギギと首を傾け『コクり』と、頷いく。


『作用でございます。ここは、特殊に設えた空間。魔法、武道、剣術、薬草の精錬、錬金術の修練等、あらゆる事に対応する為に作られた云わば修行の場です』


「それは……何の為に………?」


『『』様の望みを叶えるため……。その為に、その力と成るべくイヴァルが遺したと言えばお分かりで?』


 ルージュの言葉にアデレードは、ハッとする。


『エイジス』の今際の際、その願いをイヴァルは、語っていたじゃない。

『君は、これを『』と、言っていたね』


 他の人は『運命の鎖』だと言った。

 だけどエイジスは、これは『呪いの鎖だ』と、そこから逃れ解放を願っていた。


 それがどう言った物なのか、今のアデレードには分からなかったけれど、余り良いものでは無いのだと言うことは理解できた。


 そこから逃れるためのこの場だとルージュは語り、細かな施設を案内してくれた。


 森の中には、奥に洞窟や泉も存在していた。


『鉱石や輝石の類いはここに保管すると、時間はかなり掛かりますがここでも採取が可能になります。森の中も同様でキノコや薬草の自生それから、森の魔物も放すことが出来ます』


「「「魔物………!?」」」

「何で、そんなものを………?」


『生きたままの素材として保管……或いは使役する魔物の飼育です』


「魔物の使役!そんなことが可能なの!?」


『何れ、そう言うことも想定されるでしょうから。次に闘技場ですが、この場はどんな魔法を放っても、基地ベースに影響を与えることは有りません』


 そう言うので、実際の闘技場に上がってみると、そこからの風景が全く違うものだった。


 何もない、荒野にポツンと白い石畳の闘技場が在り他には、遥か遠くに山の稜線が見えているだけだ。


 ここだけ、さっきの場所とは明らかに違うと言うことはこの景色を見れば理解できる。



 一通り見て思った事が、ここは大変に有用性が高いと言うこと。


 だけど、設備は有っても中に置くと言うか飼育なり栽培なりするには一から自分で探して揃えなくてはならないと言うことなのね。


『設備の案内は一通り終了です。休憩がてらお茶でも淹れましょうか?』



 小屋に戻ると、四人でテーブルを囲みルージュの淹れてくれたお茶で喉を潤した。


「それにしても、イヴァルって凄いわね!本だけかと思ったら、色々と設備……と言うか仕掛けが充実しているんだから!」


「良いなぁ~。この秘密基地感……半端ないよな」


「これ、みんなアディーの物なんだよね……」


 三人の瞳には『良いなぁ~』と言う言葉がはっきりと映し出されて。


「ルージュ、サーシャ達にはここに来るまでに沢山助けられたの。だから、何かお返ししたいんだけど……」


『そうですね。ここはエイジスの為の場所ですから。ですが、アディー様が望むなら少しだけ貴女方にも魔法と護身術を教えて差し上げますよ』


 ルージュは、サーシャ達のいる時代が、アールスハインドから移管してまだ五百年程しか経っておらず、魔法や戦闘術がアディーのいる時代よりも高いのだと説明してくれた。


『今は、まだ、アールスハインド時代の影響を強く残っている時代で、アディー様のいる時代よりも魔法の規模や個々の戦闘能力もずば抜けている者が多いですから。自衛手段が構築出来なければ、底辺として搾取されるかボロ雑巾の様に消耗されることも屡々ですからね』



 自衛の力が付くならそれこそ一番なお返しに成だろうと言うことで、ルージュに習って四人で暫く魔法と体術の特訓をすることになった。








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イヴァルの書と運命の鎖 モカコ ナイト @moka777

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