いいからバウを風上に!
@Teturo
第1話 ヨットマン登場
真夏の太陽光線が、ジリジリと肌を焼く。青い空と蒼い海の境界線が、今日はくっきりと見える。海上の空気は陸上と違う。気温の高い時期は海面に近いほど、湿っていて密度が高い。風を受ける身体は、水を切っているような感覚になる。
「
波と風に負けないように、山岡
歩と
豪紀にいたっては、全身が船の外だ。握っているロープと足の裏以外、船体に身体が付いていない。
メインセールが返ると同時に、2枚目の
『ファイトー。イッパァーツ!』
鷲のマークで、お馴染みのCM的な掛け声をかけたくなる場面だが、二人は真剣な表情で進行方向を睨んでいた。
「上マークまで、約五十メートルっちゃ!」
「どうする? もう一度切り返す?」
「このままで良いっちゃが。ラインギリギリ。ここは勝負!」
高校生には見えないほどの巨体と、スキンヘッドに髭面の
「相変わらず強気だね」
同い年だが、少女のように華奢な
「お前には負けるっちゃが・・・ おい、スタボー!」
進行方向左手から、赤い船体の470級(ヨットの階級 船体の長さが470cmであることが名前の由来)が、二人のライン上に突っ込んできた。この場合、進路の優先権は歩たちにあった。優先者から『スターボード(右舷)』の宣言を受けた時点で、相手は速やかに進路を譲らなければならない。
だが470は進路を譲るどころか、ますますスピードを上げて接近してきた。歩も進路を譲らない。このままのスピードで衝突すれば、FRP樹脂でできた両船は只ではすまない。
「あ、歩。取り敢えず逃げるっちゃが!」
「絶対、嫌だ!」
ズザザザァー!
470が、不気味にうねりを切り裂いて近づいてくる。相手のバウが歩たちのFJの横腹に激突すれば、大轟沈だ。豪紀でなくとも弱気になる。
「うぉー! ぶつかる!」
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