第6話
魔法の実技試験の会場。
ユッコとブキミが着いた時には、もう魔法の試験は始まっていました。
試験会場の建物は広く、各学級ごとに分かれ、それぞれのエリアで魔法の実技試験を行っている様でした。
ユッコは1年1組の生徒たちが集まっている所を見付けると、そこへ歩いて行きます。
コソコソと隠れたりはせず、むしろ「0点取りましたけど、何か?」と言わんばかりの様子で、威風堂々と皆の中に入って行きました。
そして担任に見つかり、遅刻した事を叱られました。
結局、ユッコとブキミは試験の順番を一番最後に回される事になり、しょんぼりと隅っこの方で、二人仲良く体育座りをする羽目になりました。
「ふぐぐ…また叱られてしもうた…」
「キヒヒ…気にしない気にしない。次の試験で挽回すればいいわさ」
ブキミはユッコを気遣います。
「そうだよね、テストで100点を取れば、汚名も挽回出来るよね!0点でも力を合わせれば、100点に勝つことが出来るし、逆に勝ったも同然だよ!」
言っている意味が分かりません。
「ふふふ…実は私、こう見えても、魔法にはちょっと自信があるんだよね~!」
ユッコはそう言って、得意げな笑みを浮かべます。
「おや、ユッコは魔法を使った事があるのかい?」
ブキミは意外そうに聞きました。
「ううん、魔法は一度も使った事無いんだけど、何となく、私には出来そうな気がするんだよ!」
本当に自信がある”だけ”でした。
そしてユッコは、ポカーンと口を開けたまま、他の生徒が魔法を使う様子を眺めます。
そして今更な疑問を口にしました。
「そういえばブキミ、”魔法”って、何?」
その質問にブキミは、
「魔法が得意なんじゃなかったのかい?」などと聞き返したりはせず、答えました。
「この世界は、火・水・土・風といった、様々な”元素(げんそ)”で出来ているんだわさ。そしてその”元素”を司る精霊に、『軌跡を起こしてください』とお願いする方法を、”魔法”と呼んでいるのさ」
「ナルホドー」
ユッコは目を点にして答えます。
「じゃあ”魔法”って、”お願いしているだけ”なの?」
「キキキ…その通り。術者がしているのは、あくまで”お願い”であって、実際に火を出したり水を出したり、軌跡を起こしているのは”精霊”の方なのさ」
「ヘーナルホドー」
ユッコは相変わらず目を点にしていますが、意外に理解できている様でした。
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ユッコとブキミが”魔法”について話をしている間も、1年1組の魔法試験は順調に進んで行きます。
そして担任の石頭先生が、次の生徒を呼びました。
「次、永久乃シンジ」
「…あ、はい…」
永久乃シンジと呼ばれた少年は、皆の前に進み出ました。
しかしそこで何をする訳でもなく、ただ挙動不審にモジモジしています。
その様子を見て、ブキミは不気味な笑みを浮かべました。
「キヒヒ…永久乃シンジとか言ったね…。アイツも貧民街の出身だろう…?大丈夫かね…?」
その言葉に、ユッコは驚きます。
「え?ブキミ、見ただけでその人が貧民街の出身か分かるの?」
「キキキ…服を見れば一目瞭然だろう…?」
ユッコがシンジの服を見ると、色の違う布をつぎはぎして作られた、制服っぽい”何か”を着ています。
頑張って制服に似せようとしていますが、どちらかと言うとボロ雑巾でした。
ユッコは目を見開きました。
「ホントだ…!」
「クキキ…貧民街の人間に、学校の制服を買う余裕なんて無いからね…。手作りするか、ゴミ置き場から拾うかだ」
ユッコが改めて自分の制服を見ると、お母さんが手作りしてくれた制服はヨレヨレで、ブキミの制服はシミと穴だらけでした。
「じゃあ、ブキミも貧民街の人?」
「そうさ。1年1組の中じゃ、アタイとユッコ、そしてあの永久乃とか言う男の3人が、貧民街の出だね」
ブキミの洞察眼に、ユッコは感服します。
「服装だけで出身が分かるなんて…!コレが噂の遠見の魔法の威力…!」
「いや、魔法関係ないけどね…」
そう言って、ブキミは不気味に笑いました。
二人がそうやって話している間も、永久乃シンジは魔法を使う様子もなく、オロオロしているだけでした。
実技試験は続きます。
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