猿飼家と桃太郎伝説

萌木の語る桃太郎伝説

「ええと、確認なんだけど……。あんたたちは、桃太郎伝説について知りたい、桃太郎ご一行様ってことで、いいんだよな?」


 三人の顔を見比べながら、萌木が言う。彼女に案内されて一行は無事に、隣街にある萌木の家へとたどり着いていた。


「はい。あ、自己紹介がまだだったね。自分は、木崎桃太郎って言います」

「オレは、雉飼大地」

「……天鬼蒼真だ」


 三人が自己紹介すると、萌木は一人一人の顔を見て頷く。


「桃太郎さんに、大地さんに、蒼真さんだね。よろしく」


 そう言うと、萌木は考え込むように視線を泳がせる。


「どこから話そうか。まずはやっぱ、桃太郎伝説からかな」


 そう言うと、萌木は言葉を選びながら話し始めた。


「むかーしむかし。でもそう遠く離れていない昔。いつも通りの朝。おじいさんは山へ、おばあさんは川へ向かいました。川で洗濯をしていたおばあさんの元に、大きな桃がやってきました。そして、桃から元気な男の子が生まれました」


 桃華は、蒼真と顔を見合わせた。


「ここまでは、自分たちが知っている桃太郎と変わらないね」

「そうだな」


「桃から生まれたので、桃太郎とおじいさんおばあさんは名付けました。桃太郎はみるみるうちに大きくなりました。成長した桃太郎は、人々を苦しめていると噂されていた鬼を倒しに、鬼ヶ島へ行くと言いました。桃太郎を心配したおじいさんとおばあさんは、日本一の旗、そしてきびだんごを持たせて送り出しました」


「日本一の旗……」


 桃華は傍らに置いている自分の旗を見つめる。萌木は言葉を続ける。


「鬼ヶ島に行くまでに桃太郎は、きびだんごを与えて、犬、雉、猿を仲間にしました。そして、ついに鬼ヶ島へとたどり着き、鬼を退治しました。鬼ヶ島でたくさんの宝物を得た桃太郎は、無事におじいさんとおばあさんの元へと帰ってきました。めでたしめでたし」


 ここまで語り終えると、萌木は言った。


「これが、桃太郎伝説。実際にあった話だよ」

「昨日からそんな予感はしてましたが……、やっぱり、この世界は桃太郎の物語の後の世界だったんですね」


 桃華は、神妙な顔つきで頷いた。大地がそっと尋ねる。


「分かるか」

「おとぎ話などでよくある話、If童話と呼ばれるものだね」


 桃華は、そう返すと言った。


「現代の日本では、萌木さんの話してくれた物語がそのまま、『桃太郎』という昔話として語り継がれています」

「ほうほう」

「そして、その桃太郎に出てくるサルがお父さんだと、萌木さんはおっしゃいましたね」


 桃華の問いに、萌木は頷く。


「そう。あたいのとーちゃんが、桃太郎にお供したサルさ」

「つまり、この世界は自分が知る『桃太郎』の世界から数十年経過した世界。そういうことになります。納得できました」


 桃華は一人で頷く。


「桃太郎伝説についてはこんくらいでいいってことだね。じゃ、他に聞きたいことはあるかい?」


 萌木に促され、桃華は尋ねる。


「桃太郎が桃から生まれたことは知ってます。今、桃から何人もの人が生まれているようです。それについて、何かご存知ですか」

「桃から生まれる人のことを、あたいらは、異邦人って呼んでる」


 萌木は答える。


「異邦人が現れる時、打ち出の小づちが一つ、出現するんだって、とーちゃんが言ってた。打ち出の小づちを回収した異邦人が、元の世界に帰れるんだって」

「え、じゃあ、打ち出の小づちを見つけることができれば……」

「あんたのいた世界に帰れる、そういうことだと思うよ、あたいは」


 桃華の言わんとしたことをくみ取って、萌木は答えた。


「だけど、気を付けな。打ち出の小づちは、この世界の住人の願いを叶える力を持つ道具だ。この世界の住人の中にも、打ち出の小づちを狙ってる者がたくさんいる」


「打ち出の小づちはどこに……」


 桃華の言葉に、萌木はゆっくりと答える。


「とーちゃんがお供した桃太郎さん、彼が打ち出の小づちの出現する場所を、神殿にしたって話だ。出現する神殿の場所は、毎回違うんだって。とーちゃんには、出現した神殿を見極める力があってね。それで、その神殿の近くに毎回引っ越ししてるんだ。変な人間が、小づちを手に入れないように。そしてその神殿に入るには、証が必要なのさ」

「証?」


 桃華が首をひねる。すると、萌木はにっこり笑った。


「でも、桃太郎さんはすでに、その証を持ってる。まだ足りてないけど」

「持ってる……?」


 桃華がきょとんとした顔で萌木を見る。彼女は、桃華が後ろの壁に立てかけた、日本一の旗をあごでしゃくる。


「それが、証だよ。でも、三つの石が揃わないと駄目なんだ」

「この前、桃津さんが教えてくれた、旗にはまってた石だね。自分の旗にはまだ二つしかないから……」

「あと一つ、石を集めなければいけないってことだな」


 蒼真がぼそっと言う。桃華は頷く。


「そういうことになるね。三つ揃ってからその神殿に行けば、中に入れるってことですよね」


 桃華の言葉に、萌木はたぶん、と答えた。


「神殿の中には、たくさんの罠があるって聞いた。そして、神殿の扉を開くには、かつての桃太郎がお供にしていた三匹のお供の証も必要だって」

「雉、犬はいるとして……、猿をどうするかだな」


 大地が腕組みして考え込む。すると、萌木が快活に笑った。


「え、何。猿ならここにいるじゃない。あたいがついてってあげるよ」





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