最後の仲間
「え? 本当にいいんですか」
桃華の問いに、萌木はどんと自分の胸をたたく。
「まっかせときなって。あたい、この日のためにとーちゃんに訓練してもらってたんだ」
萌木は遠くを見るような目をして言った。
「とーちゃん言ってたんだ。犬には忠誠心が、雉には知恵があった。だから、猿の自分は攻撃力をウリにしたんだって」
そして、桃華の目をまっすぐ覗き込んだ。
「あたい、女だけど、連れていってくれるかい?」
桃華は、萌木の視線を真剣な表情で受け止めた。
「女だろうが、男だろうが関係ない。今関係するのは、ついてきてくれるかどうかだけ。だってここは桃太郎の後の世界だもの。桃太郎の話とずれたってかまわないでしょ。それに、桃太郎の話に出てくるサルが、男なのか女なのかなんて、書いてなかったし」
桃華の答えに、萌木はぴょんとはねた。
「よかった。それじゃ、まずは三つ目の石を集めないとなっ」
「石は、どうやったら集まるの」
「あれ、知らなかったの」
萌木はおかしそうに笑うと言った。
「鬼を退治すると、一つ手に入るのさ」
「自分は退治はしてないんです。あくまで、『説得』しただけで」
「説得……。それは、初めて聞いた」
萌木は、首をひねった。大地が、口を挟んだ。
「もし石の手に入る条件が、鬼に関係するもんだとしたら。相手が『まいった』と思えばその時点で、石がもらえると考えられねぇか?」
「そっか。退治しなくても、鬼が『こいつには敵わない』と思えばその時点でもらえるものだとしたら合点がいく」
「……お前の説得で、納得してたからな」
桃華の言葉に、蒼真も頷く。
「それじゃ、あと鬼さんを一人、『説得』することができたら、打ち出の小づちのある神殿に入る条件がそろうってことだね!」
そうはしゃいで桃華が言った時。蒼真の表情が目に入る。彼はとても複雑な表情をしていた。彼に何か声をかけようと桃華が口を開いたその時だった。
外から、いくつもの悲鳴が聞こえてきた。その中の一つの言葉が、桃華たちにもしっかりと聞こえる。
「鬼が出たぞーっ」
それを聞いて、大地が苦笑いする。
「こうもうまく行くと、後でしわ寄せが来そうで怖いですわ」
「大地さん、そういうのをフラグって言うんですよ……」
桃華が呆れた声で言う。萌木は慌てて立ち上がる。
「早く行かないと! 怪我人が出ても大変だけど、とーちゃんが気づいて、やっつけちゃうかもしれない!」
「せっかくの獲物を失うのも嫌だし、そもそも鬼さんが悪い人じゃなかったら、鬼さんがかわいそう! いくよ、みんなっ」
桃華も急いで立ち上がると日本一と書かれた旗を手に取り、急ぎ足で家を出る。他の三人も彼女に続いて家を出た。
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