(自称)キジ役・雉飼大地

雉飼の記憶とそれぞれの記憶

「この世界で目覚める前、夢を見た気がするんだ。おたくらもその記憶、ある?」


 大地が軽い口調で尋ねてくる。蒼真は大地の向かい側の席、桃華は蒼真の隣の席に腰かけていた。


「夢って……どんな」

「素敵な夢だったねぇ、お姉さんがわらわらと」


 大地が言いかけて、蒼真と桃華の冷たい視線を見て大きく咳ばらいをする。


「老人が、次々と質問をしてくるんだ。今の生活に満足してたかーとか、他の生き方を望むかーとかねぇ」


 桃華と蒼真は顔を見合わせた。桃華はぼんやりとだが、記憶があった。


「言われてみれば……聞かれたような気がします」

「……ああ」


 その答えを聞いて、大地は満足そうに頷いた。


「それなら、納得がいく。オレ、思うんですわ。あれが、オレたちのここでの役割を分けるいわゆる、分岐点だったんじゃないか、ってねぇ」

「分岐点」

「よくゲームとかであるでしょ、選んだ選択肢によって、ストーリーが変わるってやつ。オレらの場合、答えた内容によって、自分の生き方が変わってくるんじゃあないかって、オレは思ってる」


 大地の言葉に、蒼真が腕組みをする。


「……なるほど、それでここでの役割が決定され、どんな場所からスタートになるかが決まるってことか」

「そういうコト。飲み込みが早くって助かりますわぁ。オレ、説明するのがめっぽう苦手でね」

「ちなみに、自分の役割を確認する術はあるのでしょうか」


 桃華が尋ねると、大地はテーブルに球体を乗せた。それは、桃華と蒼真も持っている玉と同じように見える。



「ここに何の役割を任された人間なのか、書いてあるってワケ。オレの場合は、キジって書いてあるんだわ」


「こんなところに、役割が書いてあったなんて……」


 桃華は驚いて、自分の玉を眺めた。すると、うっすらと文字が浮かび上がる。そこには、桃太郎、とあった。それを覗き見て、大地はヒュッと口笛を吹く。


「おたくは桃太郎に間違いないってワケね。それじゃ、あんたは? 見た感じ、サルって感じじゃねぇし……イヌかい?」


 大地が蒼真に尋ねる。蒼真は静かに頷いた。きっと彼の玉には、鬼と書いてあるのだろう、桃華はそう思う。


「それじゃ、桃太郎とイヌとキジがそろったってワケか。……いや、ちょっと待てよ。さっきここにいた男、あいつも確か桃太郎の役割だって名乗ってたな。この世界には桃太郎が二人いるってことかい?」


 大地が後半、驚いたように言う。蒼真は頷いた。


「……男の言う事が本当なら、確かに桃太郎は二人いることになるな」

「桃太郎が二人って……。オイオイ、元の物語と違うじゃねぇか」


 大地は言う。桃華は考え込む素振りを見せる。


「多分、この世界には別の世界から来た人たちが何人もいるのではないでしょうか。そしてその全ての人たちが、役割を振り当てられている」

「つまり、オレたちは物語を進めるための駒ってことか。なかなか嫌なことをしてくれやがるねぇ、この世界の神様とやらは」


 大地はそう言いつつも、どこか楽しげだ。


「まぁ、元の生活も楽しかったけど新しい生活も悪くないかなーなんて答えちまったオレですし? ここでの生活、せいぜい楽しませてもらいますですよっと」


「それで、どんな情報を持ってるんだ」


 蒼真の問いに、大地は不敵な笑いを浮かべる。


「まぁそう急かすなよ、旦那。そうねぇ、例えば。……オレがどうやって食うに困らない程度の金を稼いだか、とかどうだい? ちなみに、桃から生まれたっていう情報は隠したままで、ね」


 蒼真と桃華が返答する前に、酒場の扉が乱暴に開けられた。飛び込んできた男が真っ青な顔で叫ぶ。


「鬼が出たっ! 鬼が出たぞうっ!」


 それを聞いて、蒼真と桃華は顔を見合わせた。大地は立ち上がると、二人に向かって言う。


「こりゃあ、詳しい話は省けそうだ。いっちょ行きますかっ」

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