神殿の奥へ

 青年と桃華は、神殿の内部へと進む。青年の明かりのもとを見て、桃華は驚いた。それは、光り輝く玉だった。桃華は自分も同じような玉を手に入れたことを思いだす。


 桃華がじっとこちらを見つめているのに気づいた青年は立ち止まった。


「……なんだ、これがそんなに気になるのか」


 自分のてのひらに載せた玉を見せながら、青年が聞いてくる。桃華は自分が手に入れた玉を青年に見せながら、彼を見上げた。


「実は、私も持っているんですよ。それと同じような玉」


 桃華が言うと、青年は少し驚いた顔をした。しかしすぐに納得したような表情になる。


「なるほど、それで神殿に入ってきたのか。何か手に入るかと思って」

「その通りです」


 桃華は言って、自分の玉をじっと見つめる。


「あなたが持っているのと、私のと、何か違うんでしょうか」

「……さぁな? なににせよ、これは必要な時に必要な力をくれる」


 それだけ言うと、青年はまた先に立って歩き出す。桃華はそれを聞いて、それならと自分の玉を見つめる。すると、ぽうっと仄かな光がともる。


 しかし、青年の光よりも、かなり暗い。これでは辺りを照らせないと桃華はため息をつく。


「……それで? あんたはなんでここへ来たんだ? やっぱり宝目当てか」


 桃華に背を向けたまま、声だけが後ろにとんでくる。桃華は迷わず答える。


「宝物があると思ったというよりは、これからの道を切り開くための道具が見つかるかもしれない、と思って」

「……はぁ」


 青年が大きなためいきをつく。そして、顔をしかめてこちらを振り向く。


「神殿と言えば、モンスターがうようよいるって想像しないか? それに襲われて、そもそもこれからの道がふさがってしまうということを考えなかったのか」

「考えましたけど。……でも、追いかけられていたので、それどころじゃなかったんですよ」


 そう言ってしまってから、桃華ははっとする。この人に、自分が追われているということを教えてしまってもよかったのだろうか。見ず知らずの、この人に。


 だが青年は気にも留めていない様子で鼻をならす。


「……まぁ、もう何を言ってもあとの祭りだ。とにかく無事にここを出られることを祈ろう。ついでに何か収穫があるといいが……」


 言い終わるのとほぼ同時に彼は足を止めた。急に立ち止まった青年の背中に桃華は追突しそうになる。


「急に止まらないで下さいよ、危ないじゃないですか」


 そう言いながらふと、初対面にも関わらず彼にはあまり気を遣わずに話すことができていることに気づく。


 普段、彼女は人と話すことが苦手である。話題を考えるのも下手だし、相手と面と向かって話すのも得意ではない。けれど、彼とはまるで何年も一緒に過ごしてきたかのような安心感があった。それは、辺りが暗くて彼のことがよく見えなかったからかもしれない。どちらにせよ、彼女にとって彼は、今は頼りになる存在であった。


 桃華が立ち止った青年の背中からひょいと顔を出すと、彼が見ている風景が見えた。そこには、大きな池のようなものがあり、その中央に小さな建物が浮かんでいた。


「いかにも、あの中に宝箱があるって感じですよね」

「やっぱりあんたも、そう思うか」


 青年は少し満足げに言うと、腕組みする。


「問題は、どうやってあそこまで辿り着くかということだな」

「近くに、いかだとか、ないですかね」

「あんた、ゲームのしすぎなんじゃないか……」


 呆れた声の青年を尻目に、桃華はそっと池の方へ顔を近づける。


「いきなり顔を近づけるのはどうかと思うが……」


 そう言いつつ隣に並ぶ青年。その時、二人の顔が池の水に映る。二人は、池に映った姿にぎょっとした。


 そこには、絵本などの『桃太郎』に出てくる桃太郎と鬼そっくりの人物がこちらを見つめ返していたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る