第4話 死に戻り

僕は今噴水広場から少し離れたポータルエリアに来ていた。ポータルエリアの数はこの始まりの町『メイリーン』には一か所しかないので使う人はみんな並んでいた。別に狩りができる所まで歩いても行けるのだが、ユウリさんの話では初心者にはあまりおススメはしないやり方なのだそうだ。狩場に行くまでには始まりの町の近くなのにたまに怪鳥が出るらしい。それもレベル15の人たちでも太刀打ちできなかったらしい。そんな危険で、死に戻りほぼ確定の徒歩での移動をする人はほとんどいないらしい。ほとんどね。


僕がポータルエリアに並んで5分ぐらいするとようやく前の人数が一桁台になってきた。そして1分もかからないうちに自分の番が来た。ポータルエリアの使い方は簡単でポータルエリアの中央に向かって手を伸ばせば、自分の目の前に行先が表示されたシステムウィンドウが出てくる。そしてまだ僕は『始まりの森』以外の表示がないため『始まりの森』を選びタッチする。すると体が青白い光に包まれ、一瞬体が浮いた感じがした。というか浮いた。


『始まりの森」のポータルエリアの周りは南方向を木々で視界を埋め尽くされていて、北側は少し開けた野原と小さな小屋。そして多くのプレイヤーであった。かすかに水の流れる音や、滝つぼに水流が落ちる音も聞こえる。僕があたりを見回していると後ろのポータルエリアがひかり、プレイヤーが現れた。ドンッ


「いってーな!どこ見てんだよ!」


現れたプレイヤーに怒られてしまった。まあ自分が悪かったので何も言い返さなかったが。

ぶつかったプレイヤーは南側の木々が茂っているほうに歩きだした。装備は背中に初期装備でもらえる盾を背中に背負って、手には杖スタッフを持っていた。あれで魔法使いだったらなかなかに不格好な魔法使いだ。多分森の奥にいる仲間に武具を渡しに行ったんだろう。そんなポータルエリアから出てくるプレイヤーを眺めながらリクは行き先を考えていた。ユウリさんに教えてもらった情報は、北は弱い奴が多くて初心者には大歓迎。しかし、あまり高値で売れない。つまりは金になるものが少ない。それに比べて南側は、敵はまあまあ強いのが多いが、貴重な薬草などが手に入りやすく、金になるのも多い。中級者向けらしい。なんでお金のない僕にこんな厳しい二者択一の場面を作る話をしたのだ。少し腹が立った。多分向こうは親切心で教えてくれただけなのだろうが。今現在お金のない僕はなるべく早くお金が欲しい。でなければ野宿になってしまう。別に野宿が悪いわけではない。けれど野宿するのと、宿に泊まるのとじゃログイン時にもらえるステータスアップに大きな差が出る。それは約1.1倍ほどだ。これは一番安い宿での話なので、超高級な宿屋に泊まったらどれほどのステータスアップが望めるのであろうか。それとお金がないとポーションなどの冒険の必需品すらも買えなくなってしまう。安全だけど収入が高々100Gのほうと、危険だけど一気に1000G近く手に入る方とだと結局はリスクとリターンの比率が同じぐらいなのである。だからとても選びにくい。

そして少し経ってもどちらに行くか決められず結局は「神様の言う通り」で決めた。「なのなのな」が5回も続くとは我ながら思ってもいなかった。行くのは南の森だ。南の森の奥からは滝の音が聞こえてくる。そして木々の上からは小

と思われる鳴き声も聞こえてくる。まるで現実のようだ。そんな景色に数分間浸ってからシステムウィンドウを開いた。周辺の地形を確認するためだ。ここから南にはまず3キロ程木々が密集した密林地帯が続いており、その先には小さな小川。そしてその奥には薬草が生い茂る『ドーラの草原』。そこには多くの中型の魔物が沸いているらしい。たまに大型のマッドウルフなんかも出てくるらしい。それは確立としては1割未満らしいので気にすることでもないが。そして地図を確認するとシステムウィンドウを閉じて、ユウリさんの露店で購入した両手剣を強く握りしめ、森の中へと入っていった。その後そのプレイヤーを目にしたものはいなかった、、、というのは冗談で。死んだとしても死に戻りするし。そんな悠長なことを考えながら小川を目指して木々をかき分けながらリクは進んでいった。


◆ ◆ ◆ 


いろんな倒れている木や通れない道などを迂回しながら小川を目指していたら着くのに一時間半もかかってしまった。途中少し怖気づいて立ち止まったりしていたのは秘密である。そんな一時間半の間にいい薬草などないかなーって地面を鑑定で見ていたが10個ぐらいしか取れなかった。幸い一回も魔物との交戦はなかった。しかしここまでの道のりも決して短いものではなかった。倒れている木々を避け、遠回りをしたから。その中でも薬草が10個しか取れないのはかなり少ないといえるだろう。


そして少し小川のあたりでVR世界の景色を改めて感じていた。大体5分ぐらいはゆっくりしていただろう。すると当たりの茂みがガサガサッと音を立てた。これまでは一度も魔物に遭遇しなかったため気を抜いていた。【気配察知】は全く仕事をしてくれない……。僕は腰につけていた両手剣を鞘から抜く。両刃の西洋剣が太陽の光を反射し目に入る。初めての抜刀。緊張と興奮の二つを抱えて魔物が出てくるのを両手で剣の柄を強く握り絞めて待った。


1分……


2分……


そして3分……


グ、ガゥアアアアアアア!!!


でかいオオカミがこちらに向かって吠える。全身から汗が噴き出し、剣を落としそうになる。そして自分のHPバーの横に人が震えているアイコンが追加されているのが横目でちらっと見えた。これは【プレッシャーアイコン】。自分より強い相手に圧力をかけられると5秒の間、身動きが取れなくなる。その五秒は短いようでプレイヤーにとっては命の危機だ。出てきたのは体高2mはある灰色のオオカミだった。


「スキル【鑑定】」


【マッドウルフ】 Lv:???

─────────

■unknown

ドロップアイテム/

??? ??? ???

???

─────────


え?マッドウルフ???

正直言ってめっちゃテンパってる。この魔物は本来出てくる確率は1割未満のはずだ。そして僕はこれが初めての魔物との対峙だ。やばい!やばい!やばい!これはかなりやばい!僕はパニックになるが、体は言うことを聞かず一切動くことはできない。そしてマッドウルフの前足でのひっかきを避けれず……。



そうです死に戻りました。デスペナルティを受けてる真っ最中です!まさかデスペナルティで全ステータス半分なんて聞いてないですよ~。そしてデスペナルティが消えるのは1時間後(MSQ内での1時間)。僕は今日とった薬草をNPCの店に売り、やることがないので仕方なくログアウトした。もちろんあれだけの薬草では大したお金にはならなかったので宿には泊まれずにログアウト。意識がアバターから遠ざかっていき、アバターの体も光の粒子となって消えた。

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