授かりの天使―少女は惨憺たる理の中で剱を振るう―

たけのこ

第一章 風雲の立志編

序章 廃墟と化した世界

 此処は、文化と文明の発展を繰り返してきた現代から七千年後の世界。人類が作り出すものに限界はないと先人たちは言っていたが、未来といった未知なるものを考えるのは単なる憶測に過ぎず、憶測が当然、必ずしも当たるとは限らない。たとえそれに、どんな確信があったとしても、また然りだ。それが未来という概念が形作るものである。それでも未来は、創造力や好奇心、人間に秘めた様々な感情、能力を高めてくれる魅力的なフレーズに聞こえる。だが、時にそれは、人間の希望的心情とは裏腹に理想とかけ離れたものを持っている残酷なものでもある。


 現に、人間の生命活動に限界を迎えた地球は、度重なる異常気象によって、半球近くの大地が海面上昇で陥没し、総人口、約二十億人は半分以下となった。人間は貪欲な生き物で様々なものを求めすぎたのだ。そんなものに待っているのは、前者のような理想の未来ではなく、後者による残酷な未来であった。


 結果、かつて賑やかした高層ビルや鉄道、高速道路に鉄塔は廃墟と化し、土へ還った人工物と寄り添う形で人々は、七つの都市の中で生活を送っていた。

 ただ他の時代とは決定的に違うものがこの時代にはあった。それは人間にとって天敵になる存在と天敵から人間を守る存在がいることであった。


――――――


「誰か助けてっ、やだ死にたくないっ、誰か、誰か誰か――」


 ある秋の夜のこと、着物を着た女性が助けを求めて声を荒げる。暗くて深い森の道中に迷いこんだ一匹の女性。脚には、深い切り傷があり、もはや立つこともままならない。使い物にならない脚は、故障した機械が油漏れを起こすように血を垂らす。それでも女性は、正常である腕のみで地面を這う。そこに下半身を故障させた元凶が、枝木を踏み、パキッと乾燥した音を鳴らす。


「ミシ、ミシ、ミシミシミシミシミシ……」


  血の跡を辿って、追ってくるものの足音がする。迫ってくるものとは、人間から生まれる突然変異の生命体。人々はそれを「堕人だじん」と呼ぶ。堕人は女性を確認すると小走りで距離を詰めてくる。


「やだやだやだ、死にたく、ないっ――」


 そこにもう一人、地面を蹴り上げ、颯爽と駆け付ける者がいた。人間は彼らを「天使テンシ」と呼ぶ。天使は、皆、袴の姿をしていて、つるぎを用いた剱術けんじゅつで堕人に対抗する。


「一刀剱術――」


 ――堕人が出現したのはおよそ五千年前で、人間の人口減少の要因は、この堕人による影響が非常に大きかった。そんな中、同じように突然と姿を現したのが天使であった。この二つの生命体がなぜ生まれたのか? それは、五千年後の今になっても誰一人分からなかった。

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