夢だと言ってくれ!

椎名由騎

夢じゃないです

 いつも通りの仕事の外回りで足早に電話をしながら歩いていた男性。


「申し訳ありません!近くまで来ておりますので、そのままお待ちください!」


 会社に男性宛の来客が来ていると受付から電話を受け、急いで外回りから戻ってくる最中であった。歩行者用の信号機が赤に変わり、時計を見ながら男性が立ち止まっていた時。交差点の奥から大型トラックのエンジン音がこちらへと近付いてくる。信号機は赤であり、止まる筈の音だが、だんだんと周りの様子が変わってくる。


「あのトラックおかしくない?」


 周りの声がざわつき始めると、男性もトラックが来ている方を振り返る。その瞬間にはドーンという衝突音と共にトラックが交差点を目指して勢いそのまま走ってくる。周りが逃げ出し近くのビルへと逃げ込むように男性も逃げようとトラックの対角線から避けるようにした。…………しかし。





ドン!





 衝突音と共に男性と数名の男女がトラックに跳ね飛ばされる。身体が宙を飛び、周りがスローモーションのように見える。何も考える間もなく地面へと叩きつけられる予定だった。






「さて、あなたはこの世界での人生は終わりました」















 何も衝撃は来ず、そんな言葉が聞こえると、一瞬のうちに交差点から別の場所に周りが切り替わった。男性は目を閉じることもなくその瞬間も見てしまい、呆然とする。


「はっ!?」

「あら?そんな反応だけ?」


 男性の目の前に一人の変わった格好をした女性が呆気に取られた表情をしていると、固まっている男性の前へと一歩近寄る。男性は周りをきょろきょろと見渡しながら近付いてきた女性とようやく目が合う。


「そもそもあなた誰!?」

「ああ、それを聞きたかった。死んだ貴方を回収した女神よ」

「女神?」


 女神(自称)と名乗った女性を男性は顔から段々と足の方を見るようにしてから少し考えてから口を開く。


「……死神じゃなくて?」

「死神が白い服なんて着てるわけないでしょ」

「いや、知らないですよ。そもそも私はあなたが女神だろうがコスプレ好きの女性だろうが知ったことじゃないんです」


 仕事での約束の時間までに会社に戻らなくてはならないと男性は考えていると、女神(自称)は首を振った。


「先程も言いましたがこの世界ので人生は終わりました。つい先程まで何があったか覚えていますか」

「何があったか?」


 男性は女神(自称)から言われた言葉を考え出すと、ほんの数秒前のことを鮮明に思い出す。暴走したトラックに跳ね飛ばされて……。


「あれだと死んだな」

「いやに冷静ね」

「仕事のことは気になるけど死んだら死んだで別にいいんだが」

「そう。それなら好都合ね」


 女神(自称)がパチンと指を鳴らすと、男性の横に扉が現れる。突然現れた扉に男性は驚き、すぐに女神(自称)を見た。


「こ、この扉は何だ?」

「貴方が進む次の世界よ」

「はぁ?」

「まぁ、説明は言ったら説明するから」


「行ってらっしゃい」と言って突然開いた扉に吸い寄せられていく。男性は女神(自称)の服を掴もうとしたがそれよりも先に吸われていった。そして世界は暗転し、次に目が覚めた先は……。









「っ!」


 目が覚めると、やけに天井が高く、下はふかふかなベッドに寝かされていた。変な夢だと思って起き上がろうとするもなかなか起き上がれない。ベッドに張り付いている訳ではなくおかしいと感じて手を見ると、普段見慣れている手より一回り以上小さい手が見えた。


「あ?(は?)」


 声を発するも違う言葉になり、何がどうなっているのかわからずに首が回る程度に見渡すと、木の柵で覆われていること、そしてその向こう側に鏡があり、見ると赤ん坊と目が合う。いや、あったのではなかった。



 その男性自身がその"赤ん坊"に変わっていたのだ。



「あーーー!(えーーー!)」



 叫んで駆けつけた知らない男女にさらに動転しながら抵抗してもあやそうと抱き抱えられる。これは夢だと思って少し冷静に考えるも、「(ないわ!)」と思っていた。





 有馬大智ありまたいち 26歳 男性

 突如として異世界で赤ん坊からスタートしました。



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夢だと言ってくれ! 椎名由騎 @shiinayosiki

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