うみなり屋繁盛記<虎の爪>

東洋 夏

序章 名古屋

 日本という国に、楽園となるべく定められた都市まちがあった。

 名を「名古屋」という。

 これは冗談ではなく、本当のこと。


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 時は今からおおよそ四百年前。

 名古屋城が生まれたてほやほやで、はち切れんばかりの赤銅色の威光を振りまいている頃。

 戦国の世は死に体だった。

 ざっくばらんに申し上げるならば、群雄割拠の時代は終わり、西の豊臣、東の徳川のふたつの大勢力が日本を分けていた。

 いずれどちらかに天秤が傾き、国はひとつになる。

 さて、いざそのときが来るまでに、どちらについているのが良いか――というのが、その時代を生きたおおかたの武士たちと商人たちの心を占めた問題だったろう。

 けれど選べない者たちもいる。

 選ばない者もいる。

 選べないと思っていた者たちもいる。

 彼らを一般に、忠義者、という。


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