オマケ 10年後のあなたに届ける手紙


彼女は手元の青い世界に釘付けになっていた。

ときどき差し込む太陽の光は揺らめき、通りかかる住人たちも可愛らしい。


海中の映像から、青年に切り替わる。

自分の思いにケリをつけるために、カメラを回し始めたようだ。


10年越しに届いた手紙だ。

宛先のある手紙を郵便屋がどうして見逃せようか。


青年は手書きではなく、カメラに自分の音声と成長した姿を残していた。

時代が流れて言葉を残す方法が変わっても、そこにある思いは変わらないらしい。


「ずっと私を好きでいてくれたんだ」


彼女はぽつりと呟いた。

海底から取り寄せた甲斐があったと言うものだ。

彼女は一通り動画を見終わると、カメラを胡乱げに見た。


「あの、こんな高そうなもの、本当にあんなところにあったんですか?」


彼女が疑うのも仕方がない。

何を隠そう、このカメラは彼女が死んだ10年後の海の底沈んでいたのだから。


ダイビングなどでよく使われているタイプらしく、値段もそれ相応にするようだ。

あの青年は告白を撮影したのちに、海に投げ込んだらしい。

前を向くために必要な行動であるならば、多少の犠牲は仕方がないのかもしれない。


「まったく……あの頃から全然変わってないのね。

けど、元気そうで本当によかった」


ホッとしたように笑う。


「突然のことだったし、すごく心配してたんです。

ああ見えて、結構泣き虫だから」


居眠り運転をしていたトラックが彼女に突っ込んで、何もかもが終わった。

青年とってかなり辛い出来事だっただろうし、たまった思いを消化するのにかなり時間がかかったはずだ。


このカメラに映っているものは、それらのほんの一部分に過ぎないのだろう。

それでも、彼女にはしっかり届いたようだ。


「どうして、私にこれを見せてくれたんですか?」


「カメラがボクを呼んでいたからだよ。

これを君のところに届けて欲しいってね」


たとえ海の底にあったとしても、郵便屋たるもの届ける人がそこにいるなら、なんとしても渡さなければならない。その思いを途切れさせてはならない。


「あの……これ、元の場所に戻してくれませんか?」


その反応は少し意外だった。

ボクはカメラを渡すつもりでいたし、彼女も欲しがるものだと思っていたからだ。


「ほら、ここに名前あるでしょ? だったら持ち主に返さないと」


彼女は青年の名前が書かれたストラップをひっぱった。


「分かった。引き受けよう」


彼女からカメラを預かり、元の場所に戻した。

いつの日か海水に侵食され、壊れてしまうだろう。


ただ、これを拾った誰かが次に繋げてくれる。

不思議とそんな気がした。


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