第186話 飛び回ってます

無事、エルダートレントの実まで手に入れた宗徳達は、最後の暗黒竜を求めて迷宮の奥までやって来た。


「この迷宮が一番可能性があるのか?」


瑠偉達が、暗黒竜が出るとすればここだと、迷宮も移動していたのだ。


「広いですねえ……」

「最初のドラゴン達が飛び回っていた所よか広そうだよなあ」


見上げると、そこには空のようなものが見える。ようなというのは、ここが外ではないと知っているからだ。間違いなく、迷宮と呼ばれるものの中だ。


それに、入り口からこの場所に来るまで約十分ほど歩いたのは、狭い洞窟だった。そこから一気に視界が拓けたのだ。


「どこまで上は行けるんだろうなあ」


そう宗徳が言えば、収集課の女性が答える。


「確認するのに、風船を飛ばしたことがあるんだけど、一般的な……これくらいの普通の風船が、こんな……ちっさくなったわ」


これくらいというのは、本当に普通の抱えられるくらいのサイズのもの。だが、ちっさくなったと言って見せたのは、小指の先よりも小さな丸を作ったものだった。


「へえ……」


そんなにかと感心しながら、宗徳は上を見上げる。宗徳達が歩いているのは、脛の辺りまでしかない草の生えた草原のような場所。所々に木はあるが、広く見通しが良い。


「それにしても……風があるのも不思議だな」

「雲はさすがになさそうですけど、太陽のような光源もないのに昼間のように明るいというのも妙ですよね」


本当に外にいるみたいだ。


「さてと……どこに居るんか……っ、居たな」

「「「へ?」」」

「……どこ……?」


瑠偉達はキョロキョロと遠くまで続く広い空を見回す。


寿子もゆっくりと目を凝らしていたが、何かを感じたように動きを止めた。


「何も見えませんけど……っ、あら? もしかして、あの黒い点かしら?」


見つけた一点を見つめる。その目は真剣だ。


「おうっ。暗黒竜って言うくらいだ! 黒いんだろ?」

「黒そうですよね」

「黒だよな?」


黒っぽい点を見て、瑠偉達を見る。どうなのかという確認だ。


「「「……黒……っぽいです」」」

「……どちらかと言えば……黒……?」

「ふ〜ん……」

「気になります……う〜ん……あなた? どこで戦います?」

「ん?」


寿子が宗徳に目を向ける。何かを期待するような目だった。そして、察した。


「そうだな……ここでいいぞっ」

「分かりましたっ。では、少し待っていてくださいね」

「おう」


そうして、寿子は胸元に付けていた蝶のブローチを箒に変える。


「少し遊んで来ます」

「「「「え……?」」」」

「気を付けてな〜」


箒に飛び乗り、一秒とせずに、寿子は飛んで行った。


「……え? 何? あの速さ……」

「ヤバい速さなんだけど!?」

「もう点だし……」

「……暗黒竜……危ないんじゃ……」

「いや。いくらドラゴンでも、寿子の速さには追いつけねえだろうよ」


ドラゴンに追いかけられ始めたのが、黒い点の動きで分かる。大丈夫なのかと、瑠偉達がソワソワと体を揺らす。


「ちょっ、本当に大丈夫なの!?」

「大丈夫だろ。けど……すげえ速えなあ。最初に作った箒より本当に速いわ……」


さすがの宗徳も、実際の速度に引いていた。とはいえ、ドラゴンと競争したいとは言っていたのだ。こうなるのも仕方ないかとそっと息を吐く。


「何本も作ってんの!?」

「魔女達も、定期的に力を加え直して、改良していくらしいぞ」


点になった寿子と、幾分か近付いてドラゴンの形を見せている暗黒竜らしきものから目を離すことなく、ついこの間知った情報を口にする。


「そんなのはじめて知った!」

「最初の一本を、そうやって、一生をかけて改良していくんだって言ってたなあ」

「……あれ……改良、何回目……?」

「「「……」」」


一生をかけて、改良していくと聞いた。まだ箒を手にして幾分もしていないはずの寿子。その箒は、既に有り得ないスピードを出せるほどのものになっている。


言いたくない、信じたくないが事実は事実だ。


「……二回目だな……」

「「「「……スピード狂……」」」」

「ヒサの前で言うなよ?」

「「「「言わない……」」」」


楽しそうにドラゴンを煽って飛び回っている寿子を見つめながら、それだけは絶対に口にしないようにしようと頷き合っていた。









**********

読んでくださりありがとうございます◎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る