第176話 子ども達のために

攻撃魔法の練習をするという決定がなされた後、しばらくすると、お茶会の準備が出来たらしい。


白欐はくれい黒欐こくれいが飛んで報せに来た。


《くるる〜》

《ぐるる》

「おっ、もうそんな時間か?」

「おちゃかい! いく〜」


白欐と黒欐は、人化した徨流こうりゅうに驚いたようだ。


「えへへ。できたんだよー」

《くるっ、くるる〜っ》

《ぐるる》


どうだというように、両手を上げて自分の姿を見せる徨流に、白欐は出来たんだね、良かったねと目を細め、黒欐は良かったなと頷いた。


「さあちゃん、びっくりするかなあ」

《くるるっ》

《ぐるっ》


うんうんと頷く白欐達。


「悠遠達も驚くだろうな。喜びもするだろうが」

「よろこぶ?」

「ああ。一緒に走ったり、手を繋いだりできるだろ」

「っ、ほんとだ! やったあっ!」


万歳と飛び跳ねながら喜ぶ徨流に、薔薇そうびも雲から降りてきて微笑む。


「遊んでいるうちに、人化にも慣れてくるだろうから、良いことだな。沢山遊ぶと良い」

「っ、うんっ、ゆうえんたちと、たっくさんあそぶ!」


満面の笑顔で答える徨流を見て、宗徳は考える。


「良い遊び場があると良いんだがな……」


子ども達を目一杯遊ばせてやりたいと思ったのだ。


そんな宗徳の呟きは聞こえなかったのだろう。徨流が振り向く。


「とうちゃん! はやくいこっ! そうびさまもっ」

「おう」

「そうだな」


嬉しそうに、楽しそうに、白欐と黒欐を追いかけて駆けて行く徨流を追いながら、宗徳と薔薇が並んで進む。


「この世界では気を遣うだろうな」


宗徳の呟きを聞いていたらしい薔薇が、そう口にした。


「突然、人化が解けることもありますよね」


宗徳は異世界で寿子に徨流が人化したのを見せた時の事を思い出す。


「疲れて眠ってしまって、そこで人化が解けていましたから」

「うむ……まだ持続するのは難しいだろう。アレも、魔力と体力を使う。子どもの内はどうしてもな……成長すれば、魔力も体力も増加する。早々、人化が解けることもなくなるだろう」

「負担……ではあるんですよね?」


魔力も体力も、減れば疲れのような症状が出るものだ。人化のためにそれらを使うということは、負担がかかるということだ。


「確かに、本来の姿ではないのでな。魔力も使うのだ。負担ではあるだろうが、人化で使う魔力は大人ならば微々たるものだ。意識せずに使い続けることも問題なく出来るようになるだろう」


それならばと宗徳は一先ず安心する。人化するのに無理をさせたくはなかった。


お茶会の用意されている庭園につくと、大きな声が上がるのが聞こえた。


先に行った徨流が合流したのだろう。子ども達の興奮する声が聞こえてきた。


「あっ、お父さんっ、こうりゅうすごいね!」


悠遠が子どもらしく目を輝かせているのを見て、宗徳は笑って答える。


「仲良くやれよ」

「うんっ! もっと、いっしよにあそべそうっ!」


いいよねと幼い子ども達は、はしゃいでいた。


沙耶や徹達だけでなく美希鷹達も、徨流の人化した姿に驚いていた。


そんな子ども達を見て、宗徳はまた考え込んだ。


「気兼ねなく遊べる場所……向こうは魔獣が居るしなあ……」


獣人が当たり前に居る異世界ならば、悠遠達も問題がない。こちらでは、導具を使って耳や尻尾を見えなくするが、それでも、知られればまずいことを感じ取って、思いっきり楽しむことはできないだろう。


そして、向こうの世界にはたいてい、魔獣や魔物が居る。


娯楽にまで気を回す余裕がないため、大きな公園が町の中にあるということもない。あっても、貴族が出入りする所だろう。


「遊び場ってのが良いよな……アスレチックとか公園の遊具がある場所で遊ばせてやりたいが……」


どうせなら、遊具で遊ばせてやりたい。


「俺が作ってもいいしな……」


どこか、家の敷地内に設置できる場所はないかと庭園を見回してみる。


そうして、楽しそうにしている子ども達を目の端に捉えながら考えていれば、バトラーの桂樢けいとがやって来て耳打ちした。


「よろしければ、地下をお使いください」

「地下? この屋敷のか?」

「はい。魔導師の訓練場としても使える広い空間がございます。用途に合わせて四つほどありますので、一つくらい子ども達のために開放しても良いのではないかと」

「へえ、そりゃ良い。魔導師が使うってことは、それなりに広そうだしな」


宗徳は是非とも、お茶会の後にでも確認しようと決めた。


一方、薔薇は屋敷の方を見ながら呟く。


「訓練場……ふっ。なるほど」

「薔薇様?」

「私も確認させてもらおう」

「承知しました」


桂樢に薔薇も許可をもらっていた。どうやら、先ほど言っていた攻撃魔法の訓練場として使えるかどうかの確認をしたいようだった。


少し興奮気味な薔薇の珍しい様子を確認しながら、お茶会が始まるのを今か今かと待っている子ども達の方へと宗徳は薔薇と共に向かった。









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読んでくださりありがとうございます◎


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