第148話 ヤバいらしい

宗徳は、魔獣達へ言い聞かせていた。


「いいか? お前らはこれから脅かし要員だ。ただ、怪我させるくらいは良いが、なるべく殺すなよ」

《グルルルルル》

《グルル》


白欐と黒欐に魔女達も交えて話し合った結果、人の罪は清算されていないとの判断で、町の中やその周辺では、相変わらず土地に力はなく、痩せたままの状態で維持されることになった。


町を広げる気力も人間達には今はまだないだろう。ユマを中心にして、ゆっくりと二度と過ちを犯さないよう、自分達で考えていくことができなければ、白欐と黒欐は許す気になれないと結論が出たのだ。


その監視役を魔獣達にお願いすることにしたというわけだ。


「で、腹が減ったら、ダンジョンな。お前らの足ならすぐだろ」

《グルルっ》

《グルルルルルっ》


ダンジョンで暮らす獣人や半獣の者たち。そこには、増え過ぎて困っている家畜、大きなニワトリでしかないコケッコリィスがいる。それを魔獣達に食糧として分けてもらうことになった。


獣人達の中には、宗徳のように魔獣との意思疎通が出来る者もいるらしく、引き合わせたら問題なく自分達で交渉していた。


「ちょっと仕事も手伝ってやると喜ぶぞ。あと、ここの人間がやって来て、危害を加えようとするなら、手を貸してやってくれ」

《グルル!》


どうしても見た目で怖がられる者もいるだろう。宗徳に言わせれば、言葉が通じるのだから、付き合い方も相談しながら決めていけばいいのにと思う。


そんな考え方に変わる日が来ればいい。


「それと、この木はお前らが守れ」

《グルルルルル!》


もちろんだと、未だに実を新たに付けていく木を見上げた。


「また様子は見にくるからよ。困ったことがあったら、その時に聞いてやる」

《グルルルルル……》

《グルル……》


分かったと頷きながらも、寂しいと思ったらしく、宗徳に擦り寄る。


《ゴロゴロゴロ〜》

「ははっ。猫みたいだな」

《ゴロゴロ〜》

「お〜、お〜、可愛いなあ、お前ら」


撫で撫でと撫でまくる。すると、一匹の魔獣が、それを咥えてやって来た。


「ん?」

《グルル》


そっと宗徳の前に置いたのは、白い塊。小さく息をしているのが分かる。ふわふわした毛は産毛なのだろう。丸まっていたそれは動き出す。


それは宗徳には見たことのある姿だった。


《みゅあ〜》

「ほ? トラか? こいつ……ん? お前らの子どもか?」

《グルル》

「白いな……」

《グルル……》


他の魔獣達は黄色だ。薄いのも、真っ白なものもいなかった。生まれた時に、おかしいと思ったらしい。


「薄いが、黒いシマはあるな……」

《グル……》


黄色に黒の三本の縞があるのが彼らの普通。けれど、この子どもは明らかに白だった。


「子どもの頃はこんな耳も垂れてんのか?」

《グルル……》


違うらしい。彼らの耳は大きめでピンとしている。


「あ、見ればいいのか」


そう気付いて鑑定してみたが、彼らと同じだ。


「お前らと同種で間違いないな。白か……汚れそうだなあ。けど、白いトラみたいになるのか?」


気になるなと屈み込んで見つめると、その子は大人しく首を傾げる。あまりの可愛さに、思わずそっと撫でた。


《みゅ〜?》

「鳴き声も違うなあ」


気持ちいいのか、コロコロと転がって、手にまとわりつく。


「お前、人懐っこいなあ」

《グルル》

「ん? こいつを連れてけって?」

《グルル》


そこで気付いた。


「あ? こいつ……汚れてねえ?」


いくら転がっても、白のまま。否、すぐに真っ白の毛に戻るのだ。


そこに、イザリがやって来る。


「その子ども……魔法を使っているな……それも汚れを落とすものか……おかしな子だ」

「へえ……やっぱおかしいんですかい」


宗徳が確認するように尋ねれば、イザリはじっと子どもを見つめながら頷いた。


「おかしい……魔力量も成体のこやつらより多い……」

《グルル……》

「ああ、だから育てる自信がないのか。それで俺に?」

《グルルルルル》


強い子になるだろうから、きっと宗徳の役に立つだろうと思ったらしい。何より、どのみち、このまま育てたとしても、若い者たちが怖がって、殺しかねないという。


彼らは群れで生活するらしく、その中でこの子どもは異質過ぎるのだ。不安だろう。


「恐らく、吹き出していた魔素の影響を受けたのだろう……次元の狭間から噴き出した魔素を取り込んだのかもしれん。普通は死ぬがな……」

「……あの魔素の……」

《みゅあ〜》


あの魔素を取り込んで平気でいる子ども。それは確かに異質な存在だろう。


「……分かった。こいつは俺が育てる」

《グルル》

「まあ、宗徳ならば大丈夫だろう。何か気になったことがあれば、すぐに相談しろ」

「ありがとうございます。イズ様」

《みゅあ〜》


そっと抱き上げると、嬉しそうに鳴いた。


「これは寿子が喜びそうだ」

「だろうな」


そう口にして、宗徳とイザリは空を見上げた。


そこでは、箒で空を飛ぶ寿子がいる。


「……あれはスピード違反では……?」

「……初心者とは思えんな……」


F1レーサーもビックリな速度で横切っていくのが見えた。


「ちょっとヒサちゃん! なにその速さ!!」

「お、追いつけないなんて……」

「ちょっ、大陸までひとっ飛びだったんだけど!!」

「素質あるとかってレベルじゃないよ〜」


教えていた魔女達がヒーヒー言っていた。


「……おめでとう、宗徳……寿子は立派にスピード狂になったようだ……」

「……制御できたんですか……あれ……」

「信じられんが……できてる」

「……」


まだ視界を横切ったのが見えた。そして、同時に聴こえてしまった。


「あははっ♪」

「……やべえわ……あれ……」

「……」


イザリもヤバいと思っているようだ。そして、一つ提案された。


「宗徳……お前も地球に帰る前に飛べるようになれ」

「……それは、アレを止められるようにってことですか……」

「そうだ……夫婦だろ……」

「そこでそれ言われると……はい……」


そして、宗徳もこの日、箒で空を飛べるようになった。しかし、寿子ほどまだスピードが出せず、要練習と魔女達に肩を叩かれた。


彼女達も思ったのだ。


アレはヤバいと。


*************

読んでくださりありがとうございます◎

二週空きます。

よろしくお願いします!

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