第131話 理解しています

城跡近くの広場。


そこで寿子達は炊き出しをしながら宗徳の帰りを待っていた。


廉哉が徨流と白欐、黒欐を連れて来て少し経った。もちろんこの間、寿子は二匹の神様を撫で回している。お互い、大変気に入ったらしく、二匹はそれからトントンと地面を蹴りながら寿子について回っていた。


そんな様子を離れた所から律紀は羨ましく見ていたのだが、ふと不安を口にした。


「……おじいちゃん大丈夫かな? アレでしょう? ゲームみたいに、戦ったりするんでしょ?」


律紀が廉哉にあちらの方に居ると言われた方向をチラチラと見ながら心配する。


口を開いたのは、少し前にキュリアートの翼で飛び、空から軽くこの国の周りの状況を確認した美希鷹だった。因みに、キュリアートは既に美希鷹の頭の上で寝ているため、翼は出ていない。


「この大陸のは特に凶暴なのが居そうだしな〜」


これに答えるのは、野菜を洗い終わり、魔術で大鍋に水を満たしている廉哉だ。その隣には、これから煮るジャガイモのような芋の皮を剥いて、小さめに切っていく悠遠達がいる。お手伝いも慣れたものだ。


「宗徳さんなら大丈夫だよ。寧ろ、同情して連れてこないか心配」

「どうゆうこと? だって、人を襲うような動物なんだよね?」


律紀が玉ねぎのような野菜をザクザクと切る手を完全に止めて廉哉を見る。目に沁みないので、とても豪快に切られたそれを、今度は美希鷹がボールに入れていく。匂いは間違いなく玉ねぎなので不思議だと笑った。


「あ〜、なんか分かる。飢えてんだろ? ノリさんなら同情するかも。一時いっときだけ助けた所で、解決にならんもんな〜」

「真面目に説得とかしてるかも。襲って来ても倒さなかったしね。『食べさせられんくって、かわいそうだ』って、襲ってきた魔獣に同情してるぐらいだから」


分かる分かると美希鷹は頷く。


そこに治季がミルクの入った瓶を台車に乗せてやって来た。


「何のお話ですか?」

「おじいちゃんが大丈夫かなって話」

「宗徳さんなら、魔王が出てもきっと大丈夫ですよ」


治季にとって宗徳はヒーローのようなもの。まったく心配していなかった。


「レン様も行ったとはいえ、神さまを懐かせて連れて来てしまうんですもの。ちょっと飢えた熊が出た所で、宥めてお終いなんじゃないかと」

「……何でかな……おじいちゃんってそんなイメージなの?」


律紀の中では、どうしても歳を取った『おじいちゃん』という印象が強く、不安なのだ。


これに、美希鷹が少し呆れ顔を向ける。


「あのさ。ヒサちゃんのやってる事とか見ただろ? 間違いなくノリさんもチートだから」


宗徳と廉哉が神様に会いに出て行ってから、寿子は大きな亀裂の入っていた地面を元に戻したり、宗徳がやったように瓦礫を浮かせて除けたりと、この広場を安全に使える場所に変えていた。


家が崩壊寸前という建物も多いため、風雨を凌げる仮設住宅をその瓦礫から作り上げてもいたのだ。


廉哉も補足する。


「勇者として召喚された僕より強いしね。勇者以上、神様未満ってところかな。多分、基礎が違うんだ。もう別格だよ」

「その内、向こうでも無茶苦茶やり出すと思うよ。なんか今まで見てきた人の中でもノリさんとヒサちゃん、異世界への適合率が高そうなんだよな〜」


美希鷹は時短のため魔術で水を少し温めて、火をつけてからどんどん切った野菜を放り込んでいた。


「適合率とかあるんですの?」


治季が調味料の入った箱を悠遠達と確認しながら、不思議そうに首を傾げる。


「あるって聞いた。まあ、数字が出たり根拠とかはっきり証明できるものはないけどさ。けど、この世界は調整が済んでないみたいだし、そんな世界を善治さんが居るとはいえ、最初に任せられるって普通ないと思うんだ」


ぐるぐると大きなお玉で焦げないように混ぜながら、美希鷹は宙へ視線を投げる。


「今はノリさんやヒサちゃんの魔術で体に負担はないけど、本来なら俺達、こうやって動くことも出来ないはずなんだ」

「そういえば、あまりおばあちゃんから離れないようにって言われたね」

「うん。まあ、万が一にも術が解けた時にすぐに対処出来るようにだな。キュリアートでもキツいって言ってるくらいだからさ。魔素の濃度が高いんだと思う。魔素が濃いと重力みたいな圧力がかかるんだよ」


それに適応するため、宗徳達は門を通ることで体を作り替えている。とはいえこの作り替えるというのも、適合しやすい者でなければスムーズに行かず、疲れやすくなるのだ。


「へえ……魔素って、魔法? 魔術? とか使うためのやつだよね?」

「そっ。魔素を体に取り込んで、魔力に変換するの。それを魔術として使うんだけど、その流れがノリさん達はスムーズなんだよ。これは歳とか関係なくてさ。適合率……素質って言ったらいいかな。それが高いってこと」


宗徳と寿子は負担が一切ない。寧ろ、調子がいいくらいだ。それは、魔素の吸収率が良く、魔力への変換が体に負担をかけていない証拠。これこそが適合率の良い者の証拠だった。


「……おじいちゃんとおばあちゃんがスゴイってことは、理解した」

「それが分かればいいと思う。ミルク持ってきて」

「はーい」


律紀もようやく納得し、料理に集中してくれるようだ。


そうしてスープが完成し、寿子が焼いていたパンが焼き上がる頃。宗徳がのんびりとした足取りで到着した。


思わず宗徳の後ろを確認したのは、魔獣をお持ち帰りしてきていないか気になったからだ。もれなく寿子や子ども達も含めて全員がその確認をしていたのは、宗徳を理解しているからだろう。


食事を終えた宗徳達は、一度教会のある町へ戻ることになった。


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また二週空きます。

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