第130話 どちらも助けてこそです

風の魔術で落下をコントロールし、宗徳は完全に腰の引けている兵達と魔獣の間に降り立った。


そして、魔獣の大きな顔の眉間めがけて拳を振るった。


「ちょい、落ち着きやがれ!!」

《ッ、グオォォォッ》


吹っ飛んだ魔獣は、その後ろにいた魔獣を巻き込んで転がっていった。


ふうと息を吐いて体勢を整えた宗徳は、後ろの兵士達へ声をかけた。


「おい。怪我人は中にさっさと入れろ。いつまでも血の匂いをばら撒くんじゃねえ。アイツらがかわいそうだろうが」


アイツらと言って指さしたのは、ヨロヨロと立ち上がった魔獣達だ。


魔獣達といっても、虎型の魔獣が三匹だった。この辺りでは強者なのだろう。痩せ過ぎという感じではない。だが、間違いなく飢えているのだろう。


「え……」


兵士達は、魔獣をかわいそうと言う宗徳に目を丸くした。


「え……じゃねえよ! お前らと一緒で、アイツらも飢えてんだ。美味そうな匂いをさせてんのに、食うなって邪魔されたら頭にくるだろうがっ」

「そ、そうですね……っ、は、早く怪我人を中に!」


隊長らしき者が慌てて指示していた。崩れた壁の部分から、引きずり上げていく。


「匂いを遮断する壁を作る。とりあえずその中に入れれば良い。水で地面に垂れた血は流せ」

「は、はい! 水を魔術で洗い流すぞ!」

「分かりました」

「はい!」


宗徳はそれだけ指示すると、魔獣の方へゆっくりと近付いていく。


《……ガルルルル……》

《グルル……》

《ッ……》


怯えた様子の魔獣。その魔獣を真っ直ぐに見つめながら、十分に距離を取って立ち止まった。


「……お前らに、一時的に施しを与えることはできる……どうする」

《……》


唸り声を止め、じっと宗徳を見つめる魔獣。ピンと立っていた尻尾と耳は、不意に力を失くした。そして、まるで肩を落すようにして、尻尾を一振りして背を向けた。


一匹に続いて、他の二匹も去っていく。


それを宗徳は静かに見守った。姿が豆粒になるまで見届けてからふうとまた息を吐く。


「っ、たく……やるせねえな……」


そう呟き、腰に手を当てる。そして、振り返ると、呆然とする兵士達が並んでいた。


「ん? 処理はできたか?」

「え、ええ……」

「なら、さっさと修復だな。取り敢えず、ここで作業できるように壁を作ってやるよ」

「え……」


キョトンとする兵士達に歩み寄る。そして、崩れた外壁を再び背にして立ち止まり、魔術を発動した。



ゴゴゴゴゴ……



外壁と同じ高さの囲いを土で作る。コの字型に、外壁にくっ付けた形だ。保護の壁を作ったのだ。


「……え……」


兵士達は目を見開いたまま固まった。


「よし。こんなもんだな。あとは、崩れた部分を退かして……」


次に宗徳は瓦礫となった崩れた土壁の山を四角く形成し直す。城の瓦礫を退かせて、レンガ状態にしたのだ。


「これで取り敢えず、邪魔な物は退けた。そんで……」


宗徳は次に剣を抜いた。


「お前ら、ちょい離れてろよ」

「は、はい……えっと、何を?」

「これじゃあ、直すにもやり難いだろ。真っ直ぐ切り揃えてやる」

「……はい?」


外壁は分厚く硬い。当然だ。あの凶暴な魔獣の爪や技から町を守るのだから。剣でなんて絶対に無理だと、それは常識だと。しかし、宗徳が壁に向かって剣を構えた途端、そんな意識は消え去った。


「……っ」


斬れる未来しか見えなかったのだ。


「はッ!」


宗徳が剣を二度振り下ろす。すると、崩れていびつになっていた外壁は。そこにドアがあったかと思えるほど、真っ直ぐに切り揃えられていた。


「これでいいな。瓦礫が足らんかったら、城跡から持って来い。ここがきちんと塞がらんと、安心できんだろ」

「あ……はい。はい! ありがとうございます!」

「おう。そんじゃ、頑張れよ」

「はい!」


感動した様子の兵士達に見送られ、宗徳は寿子達の元へと向かった。


その後ろ姿を、キラキラとヒーローを見るような目で多くの者が見ているのには気付かなかった。


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読んでくださりありがとうございます◎

また二週空きます。

今年もよろしくお願いします◎

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