第094話 修理します

宗徳と廉哉は、町の奥まった場所まできていた。


《くきゅ……》

「おう……臭いな」

「この辺は特に上下水道が整備されていませんからね……」


こんな臭いの中では、お腹が空いていたとしても、食事だってしたくなくなる。


「……ちょい上に飛ばすぞ」

「そうですね。あと、水に入る時みたいに風の膜で覆うと良いかもしれません」

「なるほど……面倒だが、水の中だと思えばいいか」


風の魔術で臭いを上に逃がし、自分たちの周りに風の膜を張る。これでなんとか落ち着いて息をすることができそうだ。


「あ~……鼻がおかしくなる所だったぜ……」

「宗徳さん、歩きながら地面の浄化もしてますよね? 魔力大丈夫ですか?」


宗徳は、路地に入った辺りから自分の歩いた場所を常に浄化していた。それというのも、不衛生な上に子ども達が寝ていたからだ。


それがあまりにも嫌な光景だった。


「問題ないぞ? これで多少は臭いも消えてると思ったんだけどなあ」

「少しは変わっていたと思いますよ?」


だんだんと子どもが多くなってくる。それを横目に進んで行くと、廃墟と化した教会があった。


「……教会だよな? 祭壇があるし……丸い輪が飾られてる」


この世界の教会のマークというのだろうか。いわゆる十字架の代わりとして丸い輪が掲げられている。


輪は途切れることのない人生を表し、穏やかな丸い一生とかいうのを象徴しているらしい。よって、指輪や腕輪をお守りとして人生の節目毎に贈り合うという習慣があった。


「そういや、ここの神ってどういう姿なんだ?」

「たしか……鳥です。あ、ほら、アレです。フクロウ。邪神になった時の姿は、よくわかならない感じでしたけど……面影はあったように思います」


廉哉が封印することになったこの地の神。邪神となってしまったその姿は恐ろしく、人のような顔もあったらしい。けれど、羽の感じも、もこもことしたふくよかな体のシルエットもフクロウに似ていたのだという。


「姿がかなり崩れてましたけど、改めて思うとちゃんとフクロウの姿にも見えましたよ」

「あんな可愛いのにな……」

「宗徳さん、フクロウ好きなんですか?」

「おう。あの巨体が飛ぶとかいいよな。カッコいい。なのに、何かに留まって寝てる所は可愛いだろ」


宗徳は田舎育ちだ。祖父は山も持っていた。そこでフクロウを見つけるのを四つ葉のクローバーを探す感覚で楽しんでいた。


「そうなんですね。本物を見たことないんで見てみたいです」

「そりゃあ、絶対に見せてやらんとなあ」


そんな呑気な話をしながら、宗徳と廉哉は示し合わせたように教会の修理を始めていた。


雨風を凌げる場所があれば、あんな不衛生な場所で子ども達が過ごさなくても良くなる。それが二人の考えだった。


「お? レン、器用だなあ」


長椅子をとりあえずベッドに出来るようにと、黙々と柔らかいものに作り直していた宗徳は、不意に色の付いた光が射してきたので驚いて顔を上げた。そこには、美しいステンドグラスが出来上がっていた。


「なんか、やっぱり教会って言ったらステンドグラスですよねっ。魔術は思ったように出来上がるので嬉しいです」

「女神様か」

《きゅふ♪》

「そうだなっ。似てるな。レヴィアさんそっくりだ」


その女神様は、徨流の母親によく似ていた。


「だ、だってすごくそれっぽいなって……」


ちょっと赤くなる廉哉。


「確かに綺麗な人だったからなあ。俺も女神様に見えたぞ?」

「ですよねっ」


同意を得られて機嫌が良くなった廉哉は、その後も教会の修復を続けていた。


「ここに便所と……風呂はあの辺に作るか」


修復していくと、建物は結構広かった。実は孤児院も併設していたのだ。そちらの建物も崩れていたので、そこも知らないうちに使っていった。


そして、この町ではあり得ない立派な建物ができたのだ。


「はあ……やりきったぜ」

「やりましたねっ。それでもう夕方ですっ」

「うおっ、マジかっ。急いで帰らんとっ」


急いで近場にいた子ども達を呼び寄せる。


「お~いっ、こっちに来い。綺麗にしてやるからな。そんでここで寝ろ。あっ、メシっ」

「作っておきましたよ。おにぎりですけど」

「いつの間にっ? さすがは俺の自慢の息子っ」


出来るやつだ。


説明している時間ももったいないので、その辺に転がっていた子ども達を全て一気に魔術で運び、そのまま体とボロボロの服を綺麗にしてやる。


そして、トイレの施設や、そのままでも飲める水道などの場所を教え、明日の朝にまた来るからちゃんと寝るんだぞと言い置いて、更に建物についでとばかりに結界を張る。


「これでお前らを傷つけようとする奴は入って来られんからな。もし他にも同じような子どもがいたら連れて来ればいい」

「ご飯もいっぱいあるからね。でも一気に食べるとお腹が痛くなるから、今日は一人一つずつだよ」


その言葉をコクコクと頷いて聞いてくれる一部の年長の子ども達に小さい子らも任せ、宗徳と廉哉は急いで寿子達の待つ竜守城へと急いだのだった。


**********

読んでくださりありがとうございます◎


一日とかからず建ちました。

次話どうぞ!

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