第093話 お行儀が悪い

宗徳がこのテンプレ展開を知っていたのは、美希鷹からの情報にあったからだ。



『若い姿なんだったら、きっとあるよっ。ガラの悪い冒険者に町の中で絡まれるって展開っ。第一位は冒険者ギルドの中。他には食事中とか、大通りを歩いてる時とか』



だから、なるほどコレかと思った。


「おいおい、どうした? 坊ちゃん達は状況も分からんくらい坊ちゃんなのか?」


嬉しそうにする宗徳と、ため息をつきそうになっている困惑顔の廉哉。確かに、はたから見れば状況が理解できていないように見えるだろう。


だが、宗徳も蓮哉も充分過ぎるほど状況をわかっていた。だって、お約束なのだ。


「なあ、なんでこういう手合いは人が周りに大勢いるところで絡んでくるんだ?」

「それはアレですよ……絶対的な優位を確信しているんです」

「あ~、無様に負けないって思ってるってことか」


この会話、普通の音量で交わされている。当然だが、三人の冒険者達にも聞こえており、バカにしているとしか思えなかった。


「っ、てめえらっ! 俺らをナメんじゃねえぞ!」

「護衛もいないボンボンが、俺らに勝てるわけねえだろっ」

「有り金全部置いてとっとと逃げればいいものを!」


完全にキレていた。だが、宗徳達は動じない。


「ボンボンって、こっちでも言うのな」

「あ、それ今、僕も思ってました。不思議ですよね。どうやって出来た言葉なんだろう?」


周りは『気にするところってそこ!?』とツッコみそうになっていた。


「それと、こんな堂々と『有り金全部置いてけ』って言われるのはびっくりだ。あいつら冒険者だよな? 副業で盗賊やってんじゃねぇの?」

「こっちの冒険者は力が全てです。勝ったら、負けた方から結構お金を巻き上げて行ってましたよ」


かなり荒っぽい気性の者が多いらしい。それこそ、盗賊かと思われても仕方がないような者は多いのだという。


「それ、レンなら止めたろ」

「それが……止められないので、奪われたお金とかを、後でスって取り返してました。あっ、その……」


スったという言葉で、やっぱり悪いことですよねという顔になる。


「この場合は悪くねえだろ。あれだ。『素早く取り返した』ってことだろ? 寧ろ、よくやった」

「ありがとうございますっ」


本気で褒めた。


「っ……お前らっ……状況分かってんのか!!」

「充分過ぎるくらい分かってるぞ? やり合わなけりゃ、お前らが引かないってこともな」

「なら、さっさと大人しくしやがれ!」


そうして、一気に二人が殴りかかってきた。しかし、それを宗徳と廉哉はヒョイっと避けて揃って回し蹴りで店の外へとドアから放り出した。


「……は?」


残ったリーダー格らしき壮年の男は固まった。


「おっ、レンもキレイにヤったなあ」

「今しかダメでしたもんね。あと一テンポでもズレると外で衝突事故が起きるところです」


店の前に人がいなくなったところを、二人ともすかさず狙ったのだ。


宗徳は一人取り残された男に近付いていき、ヒョイっと後ろ襟首を掴んだ。


「ほれ、暴れんなら外に行くぞ。まったく、飯屋で埃を立てるなんて非常識だぞ?」


そのまま頭一つ分高い男を軽々と吊り上げて外に向かっていく。


事態を見守っていた店員や客達は思った。『あんたの方がよっぽど非常識だ』と。


それを察した訳ではないが、廉哉は宗徳の後に続き、店を出る直前で振り返ると、店員や他の客に頭を下げた。


「お騒がせしました」

「い、いえ……またどうぞ……」


この世界、飲食店では物が運ばれて来たと同時にお金を払うことになっている。そのため、こうしてトラブルが起きた時もすぐに店から出ることができる。


日本のように後で会計をする方法を取ると、この世界では無銭飲食が横行することになってしまうのだ。


因みに、宗徳達の作ったギルドの食堂では、食券制になっている。後で会計をするという習慣がない世界にピッタリ合った方法だった。


店の外に出た宗徳は、ポイっと捨てるように男を放り投げる。そこは、先に外へ放り出された二人の真ん中。彼の定位置はキープしておいた。


自分たちの身に何が起きたのか未だに理解できずに呆然としていた二人は、いきなりリーダーが飛んできたことで、ようやくビクリと体を震わせて正気に戻る。


「本当はもう少し店から離れた方がいいが、どうする? ここでさっさと済ませるか、有り金全部置いてくか?」


冗談が言えるくらい、宗徳は余裕だ。実際、圧勝できる力がある。寧ろ過剰だ。手加減しなければ危ないくらいに。


ニヤニヤ楽しそうに笑う宗徳の表情を見た三人は、明らかに顔色が悪くなった。そして、ゴソゴソと突然腰の辺りを探ると、手にした物を捧げ持つようにして頭を地面に付けた。


「「「お納めください!!」」」

「うおっ……え? まじ?」

「「「っ、すんませんでしたぁぁぁぁっ」」」

「あっ、おいっ」


男たちは逃げるが勝ちと、手にしていた物を置いてすごい勢いで逃げていった。


「……宗徳さん、威圧しちゃダメですよ……」

「あ? そんなことしてねえつもりだけどなあ……」

「脅す気満々だったでしょう。それが怖かったんですね。この大陸の冒険者たちは生き残る術を知っています。なので、圧倒的に敵わない相手との判断が早かったみたいです」


食料も無ければ金もない。だが、生きなくてはならない。冒険者たちは自分たちの体を資本として日々を生きている。


そのため、撤退する場合の判断力はとても高かった。ただし、今回のように絡んだ後でしか相手の力量が把握できない三流は多い。


「ほどんど何もしてねえのにな。あいつら、金置いてったぞ」

「高い授業料ですね」

「金置いていって、あいつら生きていけんのか? また誰かから取ったりしねえ?」


これによって被害者が出るのはちょっと心配だと、男たちが消えて行った方を見つめている間、廉哉は置いて行かれた金の入った袋を拾っていた。それを見ながら苦笑する。


「あるかもしれませんが、多分、全部置いていってませんよ。こういう時用に除けてある物だと思います。ほら、あまり使ってない」

「あ~、なるほど。普段使いの財布とは別にしてあんのな。まあ、けどあいつらもこうやって負けることも想定してたってことだよな。完全なバカじゃなくて良かった良かった」


こうしてテンプレをちょっと違う形で対処した宗徳と廉哉は、次に町を見て回ることに決めた。


「それにしても……怪我人と孤児っぽいのが多いな……」

「ええ……本当に実りの少ない土地のようですから」


田を耕したところで実らない。ならばと、その労力さえ惜しむようになる。結果、大きな田はできず、家族が食べるのもやっとの食料を作って慎ましく暮らすしかない。


収入が全く見込めないのだ。だが、そういった田を持つ者達も、日々魔獣達に怯えて暮らすことになる。


それが嫌で町に来た者は、こうして、安全と引き換えに無一文になって物乞いするしかないのだ。


「もう少し見て回るぞ。そんで情報だ」

「はい。できれば……助けてあげたいんですけど……」

「わかってるって、俺も同じだ。だから、事情を知って考えようぜ」

「はい!」


とても嬉しそうに笑った廉哉を見て、こういうところが勇者の資質なのかなと思った。


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読んでくださりありがとうございます◎



退き際は良かったです。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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