第080話 保管庫
道場にも寄り、懐かしさ感じながらも、治季にまた来ると告げてそこを後にした宗徳達は、ライトクエストに向かっていた。
「イズ様、すぐに持って来いって?」
「おう。やっぱ、場所によっては欠片でも良くないらしいな」
まだ竜守家内ならば大丈夫だろうが、持ち運ぶとなると周りに影響が出かねないらしい。空間収納には入れてみたが、宗徳にもどんな影響があるか分からない。
明日、出勤する時に持って行こうと思っていたのだが、イザリからすぐに持ってくるようにと連絡が来たのだ。
それも、家を出て一歩目を踏み出してすぐだったので、どこかで観ていたのかもしれない。
魔女はそういうこともあると美希鷹が言うので、そういうものかと無理やり納得した。これについては、余計なことは考えないのが正解だと勘が告げている。
ライトクエストの手前。美希鷹と律紀はそこにあった本屋で待っていると言って別れた。
指定されたのは、地下七階。
いつも使う門がある階は、地下五階。ここまで来たのは初めてだ。
エレベーターを一歩出ると、そこは明るく、まるで西洋の城の中。白い壁と赤い絨毯が場違い感を伝えてくる。
「……めちゃくちゃ高そうな絨毯だな……どんだけ厚いんだ?」
足音なんて絶対に立たないだろう。程よい弾力は、沈みそうになる錯覚を起こす。
真っ直ぐに伸びる廊下を進むと、広いエントランスに突き当たる。相変わらず、空間がおかしい。
圧倒されていると、そこにイザリが現れた。
「来たか。わざわざすまんな」
「いいえ……これがそうです」
支給品である魔力封じの風呂敷に包んで空間収納に保管していた石の欠片をそのまま手渡す。
「うむ……間違いないな。他に気になったことはなかったか」
「少し違和感というか……鷹も気になるようなことを言ってましたが、俺には良くわからなくて」
確かにあの場で違和感というものを感じてはいたが、何がどのようにという説明はできそうになかった。
「ザワザワするっていうのか……引っ張られるような……すんません、曖昧で……」
「いや、いい。鷹というのは……翼を持つ者だったか。ならば、後日調査員の派遣を申請しよう。あれらの感覚は信用できる」
「お願いします」
善治の家であることもそうだが、律紀が友達になった治季に何かあっても困る。イザリがちゃんとした調査を申請してくれるならば安心だ。
「それにしても……ここはどういった階なんです?」
イザリとこうして話している間に、誰一人として姿を現さない。もしや、イザリのプライベートルームかとも思いはじめていた。
「この階に降りるのは初めてか」
「はい……」
このライトクエストのビルでは、一つとして同じような内観の階がない。色であったり、作りであったり、中には別の空間に繋がっていることもあるので、建物の中という認識さえできないところもある。
お陰で間違って降りるということはないので助かるが、初めて来る階は、どういう場所なのかをなるべく把握しておきたい。主に安全のために。
「ここは、保管庫だ」
「保管庫?」
「ああ、見せてやろう。こっちだ」
イザリに案内されて、大きな二股に別れた階段を登り、二階へ。この階も空間がおかしく、当たり前のようになぜか高い吹き抜けがあり、明らかに三階以上の造りになっていた。
それこそホテルのようで、長い廊下には、数えきれないほどの扉が並んでいる。
イザリは一つの扉を開けて中に入る。それについて中に入ると、二十畳ほどの広さの部屋の壁一面に大小様々な引き出しがあった。
「……すげぇ……」
圧巻だ。というか、圧迫感がすごい。明らかに何か良くない物がどこかに保管されているのを感じた。
「ここは専用の保管庫の一つだ」
「えっと……イズ様専用の?」
「そうだ。他の部屋もこんな感じだ。ただ、四階と五階は大きい物を保管する場所になっている」
部屋一つまるごと使わなくてはならないような大きな物を保管する場所なのだとか。
イザリは、一つの引き出しを開けてそこにコロンと宗徳から受け取った欠片を入れる。
「ここに入れると、上の階……地下六階の『異物管理研究課』に情報が行くようになっている。六階に行く用ができたら気を付けろ。あそこは研究バカしかいないからな。気に入られでもすれば、帰れなくなる」
「気を付けます……」
知識欲の強い研究者達の集まる階は、完全な魔階と化しているらしく、イザリも近付きたいとは思わないらしい。
そこで仮に危険な物だと判断されれば、回収され、また違う階にある処分専門の部署に持っていかれるようになっている。
「まぁ、ここに入れれば、安全だということだけ覚えておけばいい」
「はい」
また一つ、ライトクエストという場所の異常性を知った。
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読んでくださりありがとうございます◎
知らない所に降りられませんね。
次話どうぞ!
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