第062話 施設をご案内いたします

竜守城には、日本特有の城には本来ない設計がされている。


勿論中身などはもう城の中というよりもホテルか旅館といった具合だが、もう一つ、空を飛ぶ騎獣というものがいると聞いて、天守閣とは別に一部の屋根の上にそんな空からの客のための施設を作ったのだ。


この世界にはドラゴンもいると聞いていた宗徳は、張り切ってかなりの広さを用意した。


規模的には、スーパーの屋上駐車場をイメージしたので、徨流が軽く降りたてるほどとはいかないが、二つのぶら下げていたコンテナを置くのは容易いものだった。


コンテナを下ろし、すぐに徨流は小さくなって宗徳の腕に巻きつく。


《くふぅっ》

「おう。完璧な着地だったぞ」

《くく~ぅ》


褒めてやれば、嬉しそうにスリスリと顔を腕に擦り寄せてきた。


コンテナの扉を開けてやると、警戒しながら王家御一行が出てくる。


「ここは……?」

「竜守城だ。そうだな……こっからだとほれ、あっちに国境の壁が見えるだろ。確か、向こう側は……いじめじゃなくて……いびる……あっ、『イビルガ』って国だ」


横文字は覚えにくいよなと呟きながら、この名前の覚え方はあまり良くないかもしれないと反省する。


そんな中、王子や護衛兵達はこの屋上から見える景色を確認していた。東側には城の本館があるのでこの位置からではそちら側は見えないが、国境が見える南と、王都のある北、森の見える西と他に大きな建物がないので、良く見える。


「え……で、では、あちらの森はゴルフスタ大森林!? 」

「あ~、確かそうだ。ゴルフのスターの森って覚えたからなっ」

「はぁ……王都からどれだけ距離があると……」


馬車で数日の距離を一時間もかけずに来たのだから驚いても仕方がない。


「まだ深夜にはなってねぇな。よし、部屋に案内するぜ。VIPルームが空いてるしな……っと、ちょい距離があっから、王妃さんは失礼するぜ」

「え、あっ」


少し咳もしていたので、宗徳は軽くまた抱き上げる。宗徳にとっては、赤子ほどの重さしか感じないのだ。


「あ、あの……っ」

「階段とかキツイだろ。さっき来る途中で寿子……妻に連絡しておいたから、薬も用意してるはずだ。すぐに楽になるさ」

「は、はい……っ」


小さく返事をし、赤くなる王妃を見て不思議に思いながらも進んでいく。因みにコンテナは既に空間魔術で回収済みだ。


「うわぁ……なんだかいい匂いですね」


王女の言葉を、王子が頷きながら補足する。


「これは木の匂いだな。なんだか心地が良い」

「良いだろ。鮮度を保つように細工してあってな。防虫効果も付けてある」

「それは凄い! 一週間ほど滞在させてください!」

「好きにしたらいい」


少年らしいキラキラした瞳で見回す王子を見て、宗徳は自然に笑みを浮かべた。というか、何がそんなに王子の琴線に触れたのか謎だ。


「さて、ここがVIPルームだ。調理場もあるが、是非ここの料理を食べてくれ。メニュー表はあの黒いのだ。そこの電話で注文してくれればこの部屋に届く。食堂もあるが、そういうのは困るだろ?」


さすがに王族に食堂まで出向けとは言えない。王族だからそんな場所ではという理由ではなく、王族だと気付いた一般人が気の毒だという理由からだ。


しかし、そもそも食堂というものを知らなかったらしい。


「あの、ショクドウとは?」


ソファに下ろした王妃がそう尋ね、王子と王女だけでなく従者やメイド達まで不思議そうにしている。そこで食堂という言葉がこの世界では無かったことを思い出す。


このギルド内では食事を取る所として『食堂』という言葉が浸透してきているが、元々ない言葉だったのだ。


「食事をする場所のことだ。『酒場』みたいなもんで、ここでは『食堂』ってんだよ。酒やツマミより食事がメインだ」

「専属のコックがいるということですか?」

「まぁ、そうだな。そんで不特定の……ここへ来た冒険者や旅人、町の奴らも金さえ払えば食事が出る」

「……なるほど」


こんな説明を王子だからするのではない。どうやら、この世界では外食ができる店がほとんどないのだ。


ただし、宿屋では食事の出る場所もあるらしいが、それはかなり高額の料金が発生する宿だ。更に、そんな宿屋も宿泊客限定のものだった。


冒険者達は保存食で済ませるし、酒場はあっても素材そのままの、料理とは言えない物が出る。何よりメインは酒なのでガッツリ食べられるものはない。


一般的な家庭で作られる料理自体の技術も、焼くか煮るかそのまま食すしかない。食堂として営業しているのはここだけだったりするのだ。


「食材の確保や、量とか飯屋をやるには損が出ることを前提にしないといけないからな。けど、ここは保存もできる上にギルドに冒険者が卸した素材をすぐに手に入れることができる。料理人もギルドの職員として雇っているから、人数も賃金も問題ない」


因みに雇っているのはこの町のご婦人達だ。最初は、自分たちの家でそれぞれ作るより、まとめて男たちの食事をここで出してしまえばいいと提案したのがきっかけだ。


もちろん、ここに来てくれたご婦人方の家族には格安で食事を食べてもらっている。食事内容は寿子が決めて技術も教えており、料理の勉強にもなるからとご婦人方には好評だ。


料理は全て一律料金で、日替わりの定食を何種類か出している。物価は日本より少々安いという程度。


五百円ランチが三百円ランチになっているといった状況だ。数をこなして利益を出す方針なので、ボリュームはかなりのものだ。


「食堂の説明はこんな所だろ。あとはあっちが浴場だ。男女は絵で分けてあるからわかると思う。好きに入ってくれ。いつでもきれいな湯が張ってあるからな。着替えはそっちの棚だ。簡単な浴衣だから大丈夫だとは思うが、着方も書いてある。これも好きに使ってくれればいい。それと……これがここの案内図だ。これを見ても分からない場合はあの『電話』で聞いてくれればいい。誰かは対応する。これくらいか?」


一気に説明したが、浴場や食事についても案内図に説明書きもされているので、初めての客であっても問題はないはずだ。


言葉の通じない外国人を想定して絵も駆使していることもあり、分かりやすいものになっていた。


「あ、それと薬だっ」


すると、そこでドアがノックされ、寿子がやってきた。


**********

読んでくださりありがとうございます◎



この世界では珍しいようです。

次話どうぞ!

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