mission 7 王族の歓待

第060話 お話合いしてください

宗徳は、部屋の中を確認してから一度一歩下がる。そして、先ほど転がした兵士の襟首を右手で掴んで立たせた。


今の宗徳の腕力ならば、大の大人の男、それも簡易の鎧を身に付けた少々大柄の男であっても、片手で赤子を抱き上げるより容易い。


「なぁ、あれが王か?」

「ひっ、は、はい……っ」


青ざめた顔は、部屋の中の灯りで照らされてよく分かった。完全に怯えている。


「そんで、あの嬢ちゃんと兄ちゃんは?」

「カ、カーラ王子とリーア王女ですっ」

「そうか。あんがとな」


ひょいっと手を離せば、その兵は力なく座り込み、ズルズルと尻を引きずって宗徳から離れていった。


「さてと……殺気はほとんどねぇな。まぁ、あんな青ざめた奴らを前にしてたら、溜飲も下がるか」


宗徳は部屋へ足を踏み出し、太い壁の柱をノックする。すると、善治がちらりと視線をよこした。


「宗徳か」

「おう。迎えに来た。下はすげぇ騒ぎだぜ? 城も壁が吹っ飛んでるしよぉ。雨じゃなくてよかったな」


そんな話をしながら近付いていく。


「こんな奴でも王だからな。下から来るには時間がかかる。これが一番速い」

「なるほど」


誰もこの無茶苦茶な考えに文句は言えなかった。宗徳は心から納得しているし、王はカタカタと震え、王子と王女は身を寄せ合って息を止めているようだ。


これに気付いた宗徳は、十代に見える王子達にだけ気遣いを見せる。


「なぁ、子どもにはそろそろ遅い時間だぜ。その二人は部屋から出てもらったらどうだ?」

「……そうだな。話があるのはコイツだけだ」

「だよな。よし、おい、大丈夫か? 嬢ちゃんと兄ちゃんは部屋に帰って寝るといい」


近付くのは怯えさせると思い、声をかけるだけにする。しかし、二人は動けないようだ。


「仕方ねぇな。そこの兵隊、嬢ちゃん達をこっから出せ。風邪引かせちまうよ」

「っ!? はっ、お、おい。王子、王女をお救いしろ!」


部屋の外で様子を伺っていた兵達が、警戒しながらぞろぞろと中に入ってくる。


「ご無事で」

「あ、ああ……リーア大丈夫か?」

「はい……お兄さま……」


二人に合流した兵達に囲まれて、王子も王女もほっと息を吐き出したのが見えた。


「悪かったなぁ。心配しなくてもこの後は、嬢ちゃん達の親父さんと話をするだけだから、部屋で休んでくれや。もう寝る時間だろ。風呂入って寝な」


そんな言葉かけと、子どもを相手にする時の柔らかい雰囲気のお陰だろう。二人は不思議そうに宗徳を見た。怯えていた様子は消えている。


声を出したのは、妹だと思われる王子よりも幼い顔立ちの王女だった。


「……フロ……?」

「ん? 風呂がどうかしたか?」

「あ……その、フロとはなんですの?」


先ほどとは打って変わって、無邪気な表情だ。それは王子も同じだった。


「風呂は湯どの……ああ、そうか。もしかして王族でも風呂は使わねぇのか? 湯を張った大きい入れ物とか場所に、裸になって浸かるもんだよ。こんな冷える夜は気持ちいいぞ」

「そ、そんなものがあるのですか?」

「おう。なんだ? 本当に知らねぇのか?」


これに答えたのは、王女と顔を見合わせた王子だった。


「そんなもの知りませんよ? あなたはそんな場所を知っていると?」

「っていうか、作ったからな。なんなら入りにくるか?」

「行きたいです!!」

「リーア!?」

「だってお兄さま、温かそうです!」

「そ、それはそうだが……」


ただでさえ冷えるのに、更にこの場所は壁に大穴が空いていて、高い場所であるためにとても冷たい風が吹き付けている。


冷え切った体でベッドに入ったところで、眠れないだろうと宗徳にもわかる。


「なら、来るか? 泊まる場所も問題ねぇし、その辺の兵隊とか、世話できる女の人とか連れて行けばいいだろ。善じぃが用があんのは、親父さんだけだしな」

「兵も連れて行って良いのですか?」

「当たり前だ。こんなんする人の仲間だからな。二人だけじゃ不安だろ?」

「それは……はい。でしたら……父上、私たちは人質として参ります。どうか、その方との和解をお願いいたします」

「っ、カーラ……っ」


ようやく口を開いた王はそれだけ言って、小さく頷いた。そして、護衛にと兵達へ目で何かを訴え、肩を落とした。


「そんじゃ、目立たんように中庭とかに集まってくれや。けどそうだなぁ……人数は十人までな」

「わ、分かりました。すぐに!」


王子と王女が兵達と出て行く。


「そんじゃ、善じぃ、ゆっくりじっくり話し合いしてくれや。話し合いだからな? これ以上、歴史がありそうな建物を壊してくれるなよ?」

「……ああ……後で連絡する」

「そうしてくれや」


そうして、善治と王を残し、宗徳は部屋を後にしたのだ。


**********

読んでくださりありがとうございます◎


平和的にお願いしますね。

次話どうぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る