第053話 家族で夕食をとりましょう

ギルドの前に着くと、ギルド職員や冒険者、町人達に囲まれて三人のローブを着た者達が目を回していた。


《くふんっ》

「お、徨流が捕まえた奴らか?」

《くすんっ》


鼻を鳴らす徨流。またスルリと宗徳の腕に巻き付いて落ち着いた。


そこで、宗徳に目を向けた町人の壮年の男が尋ねる。


「あ、ムネノリさん。こいつらなんなんです?」

「門番のやつら倒して押し入ってきやがった。多分、南にいる兵隊達の関係じゃねぇかと思う。他にも何人か捕縛させた。後から来るから一緒に頼む」


ギルド職員達は顔を見合わせ、それならばと判断する。


「地下牢で自白させます」

「お、おう。気ぃつけろよ?」

「俺らも付いて行くぜ」

「助かります」


ギルド職員と数名の冒険者達で地下牢へ連れていく。


後で連行されてくる者達も、到着し次第、地下牢へ入れることを決めた。


「さてと……先ずはメシだな」

《くふんっ》

「やべっ、七時だっ」


急いで宗徳は部屋へ向かった。しかし、階段を駆け上る途中で善治から腕輪にメールが届く。


「ん? 善じぃ……『八時に寿子と執務室へ来るように』か……なぁんか面倒臭そうだな……」


そう呟きながら足が止まった宗徳に、徨流が進めと引っ張る。


《くすふ!》

「お、そうだった。止まってる余裕はないんだったな。急ぐぞ」

《くふんっ》


走って部屋へ向かった宗徳。ドアを開けると、仁王立ちした寿子が待っていた。


「うおっ! す、すまん……五分遅れた……」

「まったくあなたは。はぁ……なんだか面倒なことが起きたようですし、今回は許しましょう……子ども達にもちゃんと謝ってくださいよ」

「もちろんだっ」


中へ入った宗徳は、食事の用意が整ったダイニングで既に席について待っている子ども達に声をかける。


「悪い、遅れた」

「お疲れ様です」


最初に返事を返してくれたのは、この世界に召喚されたのだという少年の廉哉れんやだ。数時間前までは不安そうな顔をしていたが、今は服装も寿子からもらったのだろう、孫用に用意していたラフなシャツにズボンというものに変わっており、笑顔が見えた。


次に声を発したのは長男ということになっている悠遠ゆうえんだ。


「お、おかえりなさい」


これに倣って、他の子ども達も返してくれる。


「おう、ただいま」

《くすんっ》


徨流も挨拶をすると、スルリと宗徳の腕から離れ、手招く悠遠の実妹である久遠くおんの隣に舞い降りた。そこには、徨流用の食事が用意されている。


「あなた、手を洗ってきてください。食べますよ」

「わかった」


いくら清潔にできる魔術があったとしても、食事の前には水で手を洗うという習慣がついているのだ。


宗徳が席に着くと、食事が始まる。


「生姜焼きかぁ。子どもらは辛くないか?」

「味付けは少し変えてありますから、大丈夫ですよ」

「そうか。廉哉、泣きながら食うな」

「す、すみません……生姜焼きにご飯なんて懐かしくてっ……」


この世界での主食はパンか芋類だ。米には手が付けられていなかった。しかし、先に来ていた善治が米は必須だとして、村人に提案し、奇跡的に自生していた米を見つけ、品種改良まで進めていた。


小規模な村ではあったが、土地は余っていたのだ。水田を作ったところで問題はなかった。とはいえ米作りには『米』の文字の通り、八十八の手間がかかる大変なものだ。


一から十まで以上の指導をし、地道に手作業でやってきた。ただし、この世界には魔術がある上、気候も違う。本来ならば約百八十日かかるといわれる米作りも、この世界では九十日で終わる。


とてつもなく回転が早い。更には、冬に当たる季節がないので、比較的時期は考えなくても良い。そのお陰で水田を休ませながらではあるが、年に四回も収穫できてしまうのだ。


備蓄も充分で、今やこの町の主食は米だと言える状況になっていた。


「日本人はやっぱ米なんだよな」

「はいっ、美味しいですっ」

「よく噛めよ? といっても、あんな固いパンを主食にしてる世界で過ごしてたなら、ちゃんと噛むか」


発酵させるという手間をかけないパンは固く、まるで数日時間が経ったフランスパンをもっと固くしたようなそんなパンが一般的に普及しているらしい。


この町だけが米文化だと聞いた時に、食べさせてもらったのだが、二度と食べたくない。


引き千切るのも困難な物だったのだ。貴族達は、ナイフとフォークで切って、スープに浸した上で食べるという代物だった。


「あのパンはすごく固いですからね……顎は鍛えられそうですが……」


今まではその固いパンを主食として生活してきた廉哉の言葉に嘘はない。


「この町であのパンは、すり下ろしてパン粉にしていますよ。結構な重労働ですけれどね」

「それなら有効利用できますね」


寿子の言葉に、なるほどと廉哉は頷いていた。重く頷くのは、本気で感心したからだ。あの固いパンが有効利用できると聞いては仕方がない。


「ところで、あなた。師匠から八時に執務室へ来るように連絡があったのですが」

「おう。面倒なお客さんが来ててな。多分そいつらについてだ。そういや、廉哉のこと善じぃには?」

「まだです。師匠にはちゃんと休んで欲しかったので、食事の後にと思っていたのですけれど……」


タイミングの悪い話だ。


「廉哉、悪いが善じぃ……ここのマスターと会わせるのは明日になりそうだ。今日はもう休んでくれ」

「はい……でも、ずっとここにいるのも迷惑では……?」


レンヤは子ども達に目を向けた後に眉を寄せて縮こまる。


「迷惑なわけねぇだろ。寧ろ、ここで長男やってほしいんだがな。どう思う? 悠遠」


現在の長男である悠遠に尋ねる。すると、廉哉を見た後に頷いた。


「きょうだいがふえるのは、うれしい……」

「だよなっ。ということで廉哉、お前今から長男な」

「ええっ、そ、無茶苦茶ですね。でも……いいんですか?」

「良いに決まってんだろ。俺や寿子は留守にすることも多くなるからな。この子らに仕事も教えてるが、手が回らねぇんだ。そこんとこも頼むぞ」

「っ、はいっ」


廉哉の隣に座っていた久遠が嬉しそうに笑って廉哉の袖を引く。


「レンにぃちゃ」

「っ、う、うん。よろしく、クオン」


他の子ども達も嬉しそうだった。


**********

読んでくださりありがとうございます◎



これで六人子どもができました。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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