第052話 押し入ってばダメです

宗徳は、見つからないよう徨流に乗ったまま高く高度を取ると、下の様子を窺った。


「なんか押し問答中だな……ん? 善じぃ……」


門番と冒険者で対応していたようだが、そこに善治が出てきた。


話し合うような様子の後、二人ほどを伴ってギルドへ向かっていく。その一瞬、宗徳の方へ目をやったのを感じた。


それを見て、門の外で残された者達を確認すると、一部の者が何かを話し合っているようだ。そして、善治の方へ揃って顔を向ける。その表情が、ニヤリと笑んだようだった。


宗徳はしばらく目を細めながらそれらを観察した後、静かにこの後の事を決める。


「降りるぞ、徨流。ただし、反対側に回る」

《グゥ》


軍がいたのは大門の南側。町の門は東西南北に一つずつ作った。特に大きいのが南と北だ。


宗徳は、町の上を飛ばないように南から時計回りに壁に沿うようにして回った。そこで、西門の辺りに怪しげな者達を見つけた。


「待った。ここで降ろしてくれ」

《グゥっ》


門から少し離れた場所で徨流から飛び降りる。身体能力の高い今、ビルの三階ほどの高さから飛び降りても問題なく着地できる。


徨流は宗徳が飛び降りてすぐに小さなサイズに変わっており、西門に向けて歩き出した宗徳の腕にスルリと巻き付いた。


《くすぅ》


門番として立っている者は、元いた村人だ。二十代の若者を選んではいるが、戦えるわけではない。なので、何かあればすぐに善治のいるギルドへ連絡するようにと指導されている。


西門と東門は小さいので、門番は二人ずつ割り当てられていた。その二人を三人のローブを纏った者達が倒すのを確認した。


「おい! 何者だ!」

「む、ムネノリさん……っ」


元村人である若者達とは、当然だが知り合いだ。二人のうち、一人は完全に意識を失っている。宗徳の名を呼んだ青年も、苦しそうに顔を歪め体をくの字に曲げていた。


「……」


ローブを纏った者達は、宗徳のことなど相手にする気がないとでもいうように一瞬振り返ってから町の中へ入っていく。


「待てっ」


それを見て、宗徳は一気に駆ける。門を越えてすぐに飛び上がり、男達の頭を軽く飛び越えて降り立つ。


「っ!?」

「待てっつったろ」


三人は、ビクリと身構える。


そこでふと宗徳は予感がした。


「徨流、東の門を見てきてくれこいつらみたいなのがいたら、捕まえてギルド前に放れ」

《くきゅふ!》


スルスルっと徨流が腕から離れて小さい姿のまま東へ飛んでいく。


「さぁて、お前らも大人しくしてもらうぞ」

「っ……」


三人が揃ってローブの下から剣を抜き放つ。だが、宗徳は丸腰だ。とはいえ、動揺することなく構える。剣を持つ相手であっても、素手で対抗しようというのだ。


剣を構えた三人は、それを嘲ったように思えた。そのまま向かってきた三人。けれど、宗徳は正確に相手の間合いを読み取り、まずは一人の懐に素早く飛び込む。


剣を下されるより先に懐に入ってしまえば、相手は身動きができない。それでも振り上げた腕を下ろそうとするのは予想できた。


「遅ぇよ!」


しかし、宗徳の方が圧倒的に早い。相手が脇を締めるより先に胸元を掴み上げて放り投げた。


「っ!?」

「しまった。手加減忘れた」


一人目が宙を舞う。地球での感覚で投げてはいけなかったと気付いた時にはもう遅い。


その飛びようは、人に見えなかった。しかし、都合よく、そこに堆肥用の枯れ葉やら灰やらを混ぜたものを寝かせる場所があった。


「お、運が良かったな。あそこなら死にやしないだろ」


呆気に取られたように残りの二人はそれを見送っていた。


「よし、お前らもあそこな」

「ひっ」

「っ!!」

「お、今声出たな。喋れないわけじゃないみたいで安心したぜ。そんじゃ、肥溜め風呂に案内してやんよ」


そうして、五秒とかからず、残りの二人もそこへ放り投げられた。


それらを確認した町の者達が気の毒そうに汚れた三人を見ていた。


「ノリさん、こいつらどうすんだ?」

「どうすっかなぁ……クセェな」

「……洗ってギルド前でいいか?」

「おう。すまんな」


色々混ぜたばかりなので臭う。ただし、堆肥を作るこの場所には、魔術が作用しており、周りには臭いが漏れないようになっている。


「いいって、おい、冒険者を呼んでこい。一応な」

「おうよ」

「そんでムネノリさん。門番どうするよ」

「おっ、そうだった。治療しとく。あと、またこんなのが来るといけねぇから、数人見ててくれ。すまんが、今ギルドの方も手一杯でよ」

「了解だ。俺たちの町だ。協力するのが当然だぜ」


気の良い町人達に彼らを任せ、門番の若者達を治療した後、宗徳は次に北門へ向かった。そこでも同じような者を二人見つけたので、気絶させてから担いでギルドへ向かったのだ。


**********

読んでくださりありがとうございます◎



咄嗟の時の手加減は難しいようです。

次話どうぞ!

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