第008話 お揃いです
「いやぁ、ぶっちゃけ人手不足でさぁ」
あははと笑う上司が、苦手な今時の派手な女子高生と同じに見えてきた所で、二人はようやく解放された。
「それじゃぁ、これからよろしくね~ん」
「はい……」
「失礼します……」
部屋から出ると、なんだかホッとした。
もう精神的な疲労への免疫は低下しているのだ。本当に、この歳になるとキツイ事が多くなって嫌になると、思わずため息が漏れた。
それが実体験でかつて経験していた善治には分かる。
「疲れただろう」
「はぁ……元気な方ですね……」
目の前がチカチカする気がしてならない。
「少し休憩しよう」
善治がそう言ってくれた。二人にとっては大変ありがたい提案だ。
そうして、またエレベーターに乗って案内されたのはビルの最上階だった。
五十五階。ここはエレベーターホールから東側が全て飲食スペースになっており、階の半分はいわゆるフードコートだ。ざっと見回しただけでは分からないくらい多くの店も入っている。
しかし、そちらではなく、善治は一通り見せてくれた後にエレベーターホールから西側に向かった。見せてくれただけらしい。
「え、こっちじゃなく?」
「勝手に使えないのですか?」
多くの人がそれぞれの時間を楽しんでいるのだが、席は充分過ぎるほど空いている。ここも空間が広く拡張されているのか、五、六百人など余裕で利用できそうだ。
まだ昼時には早いので、ここで人心地ついても問題はないと思うのだが、善治は手招く。
「好きに利用すればいい。ああ、これを忘れていた」
善治が立ち止まって二人に差し出してきたのは腕輪だ。ただ、小学生くらいの子どもの腕ならば、両手とも差し込んで遊べそうな程大きかった。
それも、恐らく寿子にもというはずであるのに、二本とも同じ大きさなのだ。
「どんな大男でもつけられるように大きいんだ。嵌めてみろ」
それにしても大き過ぎるだろうと思いながらも、それぞれ手に取ると、善治が自身の左腕を見せた。
「好きな方でいい。時計にもなる。戦う時に利き手では邪魔かもしれんから、考えろよ?」
「へぇ……ん? 時計? ま、まぁ、いいか」
腕輪の太さは一センチもないかもしれない。色は白金だ。どこにも文字盤はないし、針もない。だが、ここはもう常識が通用しない場所だ。善治がそう言うならと宗徳も左腕に通そうとする。
しかし、そこで寿子が心配そうに言った。
「着けたら取れなくなるなんて事は……」
「あるぞ」
「ええっ!」
宗徳の驚きの声は、腕に腕輪が通った瞬間のものだった。そして、腕輪はあっという間に小さく縮まり、ピタリと腕にはまってしまった。
「……と、取れない……?」
恐る恐る善治を見つめれば、ふっと笑って言った。
「いや、整備に出す時はちゃんと外せるから、外せないなんて事はない。ただ、専用の場所に行かなくてはいけないがな」
「そ、そっか……びっくりしたぜ……」
「もう、あなたったら」
苦笑しながら、寿子はあっさり腕輪を嵌めた。確認はするが、宗徳が嵌めた以上、寿子には躊躇いはない。
「オシャレな腕輪ね」
「お揃いだなっ」
「っ、もう、皆さんともお揃いですよ?」
「あぁ、そうか。善じぃもだった」
嬉しそうな寿子は、少し目をそらした。どうやら照れたようだ。
「お前達は……ずっとそんななのか?」
「何がだ?」
キョトンと無自覚な宗徳に呆れたようにも見えるが、善治は微笑ましく二人を見つめた。
そこに真っ白な小鳥を頭に乗せた少年が声をかけてきた。
「あれっ? 善治さんじゃんっ。ここで食べんですかっ? 一緒にっ、一緒に食べましょうっ」
キラキラだ。完全に懐いているようだ。誰が見ても分かるだろう。思わず、小鳥を頭に乗せているという変わった状況の説明を求めるのも忘れてしまうほど、そのキラキラに圧倒されてしまった。
その時だ。
《ミキ~ィ。新入りさんが驚いてるよ? 善ちゃんも困ってる》
その声の直後、ツンツンと少年の頭の上の小鳥が嘴でその頭をつつく。小さく丸い尻を少年のモジャモジャとした頭に埋めたままであるのは可愛いらしい。
「痛っ、イタイよっ、キュアっ」
《いつもいつも、落ち着きが足りなぁいっ》
「ゴメンんん~」
ツンツン、ツンツンとキツツキほど速くはないが、チクチクするだろうなと思えた。
そこで、寿子が気付いた。
「あ、あの……その小鳥さんが喋ってるの?」
「そ、そういえば……」
二度目の未知の生物との遭遇は、意外と近くで早々に起きたのだった。
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