14(本編最終話) 復讐の先にある未来は
ユーノは、再起不能となった。
剣を振るうことはおろか、まともに体を動かすことさえできない。
さらに、魔獣としての姿では人間社会で生きていくこともできない。
俺は奴をヴァレリーやマイカと同じ場所に運んだ。
彼らと同じく延々と続くであろう苦痛を味わってもらうことにした。
これで──ユーノの、人間らしい生は終わった。
これからは苦痛と絶望、苦悩と屈辱に満ちた生が待っている。
さらに、勇者としての奴の名声も、これから地に落ちていくだろう。
勇者ファルニアがさっそくユーノを糾弾したのだ。
王女でもある彼女の言葉は、イリーナの音声オーブという強力な証拠もあり、また世界の救世主が仲間を犠牲にして力を得ていた、というセンセーショナルな話題もあって、瞬く間に世界中に広がった。
今や奴は汚れた英雄だ。
式典で建てられた勇者の銅像は、怒った民衆によって破壊され、汚物にまみれた。
いくら魔王退治の功績があっても……いや、なまじ功績が素晴らしいだけに、よけいに暗部が目立つのかもしれない。
各地でユーノを非難する声が上がり、それはとどまるところを知らず、日に日に増していった──。
「終わったな……」
俺は空を見上げてつぶやいた。
どんよりと曇った空だ。
復讐を終えて晴れやかな空──とはならなかった。
そもそも、全員に復讐を終えたといっても、特段の壮快感はない。
もちろん、奴らへの同情なんてない。
しかるべき報いを受けさせた。
それだけだ。
復讐を終えた後、何が見えるのか──。
そんなふうに考えていた。
が、実際には何も見えない。
俺が見る景色は何も変わらない。
見上げれば、暗くよどんだ空がある。
俺の心を表しているかのようだ。
「俺は、いつか……」
決戦前にシアから言われたことを思い出す。
いつか見えるようになるのか。
いつか笑えるようになるのか。
「クロム様」
シアとユリンが左右から俺に寄り添う。
俺たちは今、あてどもなく歩いている。
復讐の旅路を終えた今、次はどこへ向かうべきか。
とりあえずは、人目につかない場所で落ち着いて暮らしたほうがいいだろう。
俺は今回の件で勇者を再起不能にした犯人としてお尋ね者になっているかもしれない。
いちおう、あの後ユリンに術を使ってもらって、周囲の人間の認識を改変し、俺たちの記憶を消しておいたが──。
漏れがないとは限らないからな。
「ええ、いつか……きっとみんなで幸せになれる日が来ます」
「私たちがお側にいます、クロム様」
シアとユリンが俺に抱き着いてきた。
そのまま二人と唇を重ねる。
彼女たちの温もりを感じた。
「そうだな、俺たち三人で──」
まずは、歩いていこう。
復讐の先に、どんな未来が待っているのかは分からないけれど。
その先に、俺の心がどんなふうに変化していくのか、あるいは変わらないのか──それも分からないけれど。
今は、確かに感じるこの温もりとともに。
俺は一歩ずつ、進んでいく──。
【完】
※ ※ ※ ※ ※
本編はこれで完結となります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
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