14 復讐前夜1
その日の夜。
「俺の復讐はもうすぐ終わる」
あらためてシアとユリンに言った。
ここはルーファス帝都にほど近い宿の一室だ。
明日の式典は、ここから徒歩で三十分程度の場所で行われる予定だった。
まさしく臨戦態勢。
ただ、決行前にもう一度確認しておきたいことがあった。
シアとユリンの気持ちだ。
「ここまで一緒に来てくれて、心から礼を言う」
俺は二人に深々と頭を下げる。
「助けられた場面もあった」
「そんな……あたしはクロム様から受けた恩を返したかっただけです。姉の仇を取っていただき、姉の尊厳とあたし自身の魂を救ってくださいました」
シアが俺の手を取った。
「私も、あなたに命を救われましたから。この命はあなたのものです、クロム様」
ユリンが恭しく告げる。
「二人は俺の【従属者】だ。だけど、そのことにシアたちが縛られてほしくない」
俺は彼女たちに微笑む。
ぎこちなさは多少あるかもしれないが、復讐の旅を始めたころに比べると、ずっと自然な笑みを浮かべられるようになった気がする。
シアとユリンのおかげだ。
二人とのかかわりが、怒りや憎しみだけに支配されていた俺の心を幾分溶かしてくれた。
とはいえ、ここからの戦いは今までとは違う。
「今回の相手は【光】の力を持つユーノだ。以前は俺が圧倒したが、あのころとは違う力を身に着けている可能性がある。いや、魔族軍との戦いの噂を聞くと、ほぼ確実に強くなっている──」
こんなことなら、俺自身のパワーアップなんて回りくどいことをせずに、一直線にユーノの下へ向かったほうがよかったんだろうか?
いや、それは結果論だ。
仮に、一直線に向かっていたとしても、奴のいるルーファス帝国まではそれなりの距離があった。
ユーノのところにたどり着くころには、すでに奴は強く成長していたかもしれない。
回り道をしたかもしれないが、きっとこれが最良の道だったんだろう。
そう、信じたい。
「もちろん、強くなったのは奴だけじゃない。俺は【闇】を深め、以前よりも強くなった。ただ、それでも激しい戦いになるとは思う。だから──」
俺は二人を見つめ直す。
「二人は安全な場所に避難していてくれないか? 俺はこの先、一人でユーノやファラたちと戦う」
「クロム様!?」
シアとユリンが同時に悲鳴を上げた。
悲しみと驚きでいっぱいになった表情だった。
信じられない、といった様子だった。
彼女たちのそんな表情を見て、心が痛む。
俺は今、かけがえのないものを手放そうとしている。
だけど、手放さなければ彼女たちを危険にさらす。
今までは行きがかり上、一緒にいたこともあるし、何よりも【闇】の力ならどんな相手でも退けられるという自信があった。
だが、ユーノだけは別格だ。
奴は【闇】の対極にある【光】を宿している。
その派生で力を得たマイカやマルゴとは違う。
「俺は君たちを死なせたくない。仮に俺がユーノたちに敗れても、二人には生きていてほしい。だから、ここで」
別れよう──そう言いかけたところで、俺の唇が柔らかなものに塞がれた。
シアが俺に口づけしていた。
熱く、柔らかく、甘い唇だった。
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