探偵猫ランポの冒険 消えたご主人の謎
森川夏子
冒険の始まり
冒険の始まり
―京都・某区 九月の上旬頃
書斎にいるご主人のもとへ、遊びに行く。
僕は、三毛猫である。名前をランポと言う。
ご主人は、いつも机に向かって、四角の形状の機械に、何やら真剣な表情で、カタカタと、音を鳴らしたりして難しい顔をするので、とても寂しい気持ちになるのである。
僕は、そのキーボードと呼ばれるものが苦手だ。そして、煙草というものは、もっと好きにはなれない。
煙草というものは、ご主人が吸っているのを見て初めて知った。
香りが独特で、なんだかふわふわとした気分になり、眠くなるのだ。
退屈すぎるとき、僕はご主人の邪魔をする。
ポンポンのついた猫じゃらしや、時間がないときは、僕を膝の上にのせてくれて、キーボードの演奏の片手間に、僕の頭をなでてくれたりした。
「もう少しで、遊んであげるからな、ランポ」と話してくれる、優しいご主人なのである。
僕は、ご主人のお仕事というものが、まるで、理解できない。
なにせ、猫の世界では勉強も、仕事という概念すらないのだから。
僕らは、気ままにのらり、のらりとしているだけなのだ。
そう考えると、このご主人も、猫のような気質を少しは、持っているのかもしれないと思う。
キーボードでかたかたと、させていると思えば、僕と遊んだり、僕がお昼寝から目が覚めたときに、僕のまわりに白いテープをめぐらせて、事件現場を作り出したり、僕がこっそり食べたカリカリの残骸の前に番号の札をつけて、それを証拠物だからなと、いいながら写真に残していた、そして決まって、その証拠から、「犯人は、ランポだっ!」と、言う。
その日の夕食のご飯は少し少なめになるから、つまみ食いは辞めようと思った。僕のイタズラを笑って許してくれる寛容さが或るご主人は、口では厳しく、叱っているように見えるが…、微笑んでいるのだから、許してくれているのだと思う。(ご主人のいいところでもあり、悪いところでも或る。)
今日も、いつものように遊んでくれることを期待しつつ、書斎を見てみる。
ご主人がいない。
リビング、庭、お手洗い…、どこにもいない。
もしかしたら、僕が我儘だったから、ご主人が厭になり、僕を捨てて失踪したのでは? そう思うと、不安にかられて「にやー、ににゃー」と泣きました。
ご主人は、どこにも、見つかりません。
僕は、ご主人を探してこなければならないと思った。が、なにせ、家猫。
お外へは、主人としか行ったことがない。
頼れる隣家の猫、クリスティさんに、助けを求める事にした。
「クリスティさん!すまない、朝早くだが、起きてくれ!僕のご主人が、失踪したんだ!」
「おはよう、乱歩。それは、勘違いではないだろうね?君は、推理力はあるが、早合点をしやすい気質が或る。前にも似たことがあったわ。あの時は、お手洗いにいてたのよね。」
「いや、今回は、ちゃんと家の中をくまなく捜索したが、いなかった!」
「それは…、大変ね。」
事の重大さが、伝わったのか、彼女は玄関まで急いで来てくれた。
「心当たりの或る、場所をまず捜索しようと思う。」
「まあ、恩の或る君の頼みだからね。それに、君は、推理力や記憶力あるが、
方向音痴であり。外界への知識は、あまり知識がないからね…。」
すこし、嫌味に聞こえたが、愛すべき主人のためだ、こらえよう。
「じゃあ、どこから探すのかしら?」
「ご主人は、前に、…清水寺と、呟いていた。」
「なら、清水寺に行くことにしましょう、もしかしたらそこかもしれないわね。」
僕らは、石畳の上をかけてゆく。巧みに東山三条(何と書いてあるかは読めないが、文字の形を覚えていた)に、乗り清水道まで乗客椅子の下に身を潜めて乗車した。人間は、僕らが乗り物に乗れないと思っているが、大間違いで或る。
僕らは、人間の生活をいつも、観察している。そして、学んでいる…。
「はあ、やっぱり、バスよね…最近は、人混みが多いおかげで、こっそり乗れるもの。」
「賃金を払って、降りるなんて、罪悪感で心苦しいけどね…。」
「あら、別にいいじゃあない。猫だもの」
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