第248話 ユーリが近くにいるかもしれない!
川戸を肩に担いだまま、古民家を通り抜けて美都が待機している所にまでたどり着いた。
「車は破壊された。走って逃げるぞ」
「えーー」
「死にたいならそのままいろ。だが、俺についてくるなら自由は約束する」
「探索協会を敵に回し、ラオキア教団に裏切られたのに?」
「まるっと何とかしてやる! だから付いてこい!」
「……わかった。ラオキア教団に捕まったら死ぬだけだし、ユーリを信じてあげる」
ユニークスキルを持っている人ほど、強奪スキルを脅威に感じる。誰もが美都を警戒するのだ。
ラオキア教団のトップである大司教も例外ではなく、能力が奪われることを警戒して監禁、もしくは殺害はするだろう。
待っていれば死ぬだけであれば、嘘だとわかっていても希望を感じさせる言葉かけつづけてくれるユーリを選んだのだ。いつか真実になると信じて。
「よし、こっちだ」
ユーリが走り出すと美都が続き、古民家の中が騒がしくなる。
「どこに行った! 探せ!」
「外だ、外を見ろ!」
ラオキア教団の異端審問部隊の数名が、先ほどまでユーリのいた裏手に回る。仲間が倒れていることに気づいたが、一瞥するだけで助けようとはしない。『精神支配』スキルによって目的以外の行動を取らないようになっているのだ。
例え自分が傷ついたとしても、助けなんて誰も求めない。
機械のような精神構造になっており、技術の発展がめざましいAIのほうが、まだ人間らしさはあるだろう。
「ユーリを見つけた! 森に入っていくぞ! 電動バイクを回せ!」
古民家は山奥にあるのため、近くには木々の生い茂る森がある。整備された道はないので車での追跡は不可能であり、ユーリが逃げ出したときに追跡できるよう、異端審問部隊はオフロード仕様の電動バイクを用意していたのだ。
電動で静かに走るバイクが森の中に入っていく。五台もある。運転手の肩にはサブマシンガンがあって、姿さえ見えれば即座に攻撃へ移れるだろう。
だが急いで駆けつけたのにユーリの姿は見つからない。
山道を走っている異端審問部隊の追跡チームは、途中で電動バイクを止める。
「お前達の中で姿を見た者はいるか?」
追跡チームのリーダーが聞くと全員が首を横に振る。
いくらレベルが高いとはいっても、人を担いだまま電動バイクより速くいどうできるはずがない。後を追ったタイミングからして一分もあれば姿が見つかるはずなのに、誰一人発見者がいないのはおかしい。
違和感の正体に気づいた追跡チームのリーダーが叫ぶ。
「警戒しろ! ユーリが近くにいるかもしれない!」
この場にいる全員が『透明化』スキルの存在を思いだした。
ユーリは姿を隠して追跡部隊をやり過ごしたのである。すぐに周囲に異変がないか警戒を始めたが、少しだけ遅い。
――投擲術。
こぶし大ほどの石が高速で飛ぶ。
「ゴフッォ」
追跡チームの男が一人、胸に大穴を開けて口から血を吐き出した。近くには血まみれの石が木の幹に刺さっている。
無傷の四人がサブマシンガンを構えるのと同時に、胸に穴を開けた男はドサッと音を立てて電動バイクと共に倒れた。
「撃て! 撃ちまくれ!」
姿が見えないだけで、この近くにいる。銃弾をばらまけば運良く当たる可能性はあると考え、追跡チームのリーダーが命令を下してトリガーを引いた。
静かな森に銃声が響き渡る。
枝の上で休んでいた鳥が飛び立ち、鹿が危険を感じて逃げていく。周囲の木は穴だらけになってしまう。それでも追跡チームはトリガーを話さず撃ち続ける。
数十秒後、ようやく弾切れになった。
銃口から煙を出しながら、四人はマガジンを素早く交換する。また発砲しようとするが……。
――投擲術。
石が放たれた。今度は続けて四つ。頭、腹、首を貫通して三人が倒れる。追跡チームのリーダーだけは、とっさにサブマシンガンを盾にすると軌道を変えて直撃を避けたが、頭部の皮膚を削られてしまい流血してしまった。
血が目に入り、視界が悪くなる。
「クソッ、目が……」
慌てて腕をこするが、ベテラン探索者であるユーリには見せてはいけない隙となる。
顎を蹴り上げられてしまい体が宙に浮かぶ。
受け身は取れずに背中から落下してしまった。
「ガハッ」
肺から空気が抜けて息が苦しい。立ち上がろうとしても体が言うことを聞かなかった。
「お前たちとは別のチームはいるか?」
「ぺっ」
答える代わりに血の混じった唾を吐き出した。
勢いが足りずユーリには当たらなかったが、拒否の意志は伝わる。
「じゃあ死ね」
地面に落ちていサブマシンガンを拾ったユーリは、トリガーを引いた。
森の中で銃声が響き渡ると、追跡チームのリーダーは顔が穴だらけになってしまった。
頭を蹴って確実に死亡したことを確認すると、死体から予備のマガジンを奪い取る。ついでに他のサブマシンガンも回収すると電動バイクに乗って、美都と川戸が隠れている洞窟に戻った。
* * *
「川戸はどうなった!?」
洞窟の中に入ったユーリの第一声だ。
地面に横たわった彼は動いていない。
美都を見ると首を横に振っていた。
「死んだのか?」
「ううん。最後は私が殺したわ」
間延びした声ではないことに嫌な予感がする。
「何があった?」
「川戸のスキルを強奪したのよ」
美都の手にスキルカードがあった。絵柄は複数の青い盾だ。川戸のユニークスキルである『自動浮遊盾』であった。
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