第246話 結構、お前のことを気に入っていたんだがな

「その声、辰巳か?」


「正解」


 天井にいた目玉が消えると、古民家に一人の男性が入ってきた。年齢は二十半ばぐらいだ。坊主頭で顔の半分ほど入れ墨が入っている。片目は猛獣のようなひっかき傷があって、黒い眼帯を付けている。筋肉は非常に盛り上がっていてボディビルダーのような体型。片手にはサブマシンガン、腰にはマガジンがあった。


 社会的地位の低い人たちが集まるラオキア教団にしては珍しい風貌だ。


 何度か話したことはあり、ユーリとは顔見知りである。


「ユーリ、考え直すつもりはないか?」


 顔見知りを殺すのに抵抗があるりため聞いてきたが、答えは決まっている。


「ない。俺たちの関係は終わりだ」


「どうしてもか? 結構、お前のことを気に入っていたんだがな」


「残念だったな。俺はラオキア信者全員嫌いだ」


 短槍を敵に向けた。スキルを使って穂先が淡く光る。


 どちらも戦闘態勢に入っており、ピリピリとした空気だ。川戸は美都を守っているので、どちらかが動けば一対一の戦いになるだろう。


「仕方がない」


 相対している辰巳はサブマシンガンの銃口を川戸に向けると、トリガーを引いた。


 古民家に発砲音が連続して響き渡る。火薬の臭いが充満した。


 何十発も銃弾は放たれたが、すべて『自動浮遊盾』で防いでいる。守られている美都も無傷だ。


 この結果を予想していた辰巳は、驚くことなどなく淡々とマガジンを交換しようとする。


 その隙を狙ってユーリが短槍を突き出した。


 鍛えられた筋肉に当たると数センチ突き刺さっただけで止まる。


「な、に?」


 スキルまで使ったのに軽傷すら与えられなかった。


 よく見ると肌の色が変わっている。


「スキルかッ!」


 後ろに大きく飛んで距離と取りながら、ユーリが叫んだ。


 詳細は分かってないが、ユーリは肌を硬質化するような効果があると予想した。しかも性能はかなり高い。『短槍術』のスキルを使わなければ傷一つ付けられないだろう。


 さらに先ほど開けた小さな穴は既に塞がっている。回復系のスキルまで持っていた。


 マガジンの交換を終えると、辰巳はユーリに銃口を向ける。


「最後に情けをかけてやる。この場で投降するのであれば命は取らない」


「くどいな。断る」


「残念だよ」


 辰巳はトリガーを引いた。数十の銃弾が飛び出るのと同時に、ユーリの正面に半透明の盾が出現する。川戸は『自動浮遊盾』の一つを独立して操作したのだ。


 特定のスキルを何度も使って熟練度を上げた結果できるようになったのであり、複数のスキルを使うような正人には出来ない芸当である。


 しかしこの程度の展開、辰巳は予想できていた。いや、正確に表するのであれば防ぐ手段の一つや二つあると思って行動したのだ。次の一手を打つため、スキルを使う。


 ――貫通付与。


 物に特定の属性を付与するスキルだ。非常に珍しい。


 ユーリの目の前で銃弾を受け止めている半透明の盾にヒビが入る。さらに数秒後、ガラスが割れる音と共に貫通した。


 既に横に飛んで回避していたため、銃弾はユーリに当たらず床に穴を開けていく。辰巳はサブマシンガンの銃口を横にスライドさせて狙いを川戸に変えた。


 守るべき美都がいるため動けない。とっさに半透明の盾を四つ重ねることを思いつき、即座に実行した。


 銃弾が一枚目の盾に当たった。貫通してすぐに二枚目にダメージを与える。数秒は耐えたが砕けてしまい三枚目にまで到達。これも長くは持たないだろう。すぐにでも四枚目の盾にまで届き、そして全てを破壊するはずだが、その前にユーリが動いた。


 スキル『透明化』によって姿を隠して移動すると、『アラクネの糸』を使って辰巳の体を絡め取る。


 バランスを崩してしまい銃口が地面に向いてしまう。


「おまえっ!」


 姿を現したユーリを見ると、短槍を後ろに回し、腰をひねって限界まで力を溜めている姿が見えた。


「俺の勝ちだ」


 力を解放して短槍を横に振るうと、穂先が側頭部に当たった。


『硬質化』のスキルによって肌は傷つかないが、衝撃は別だ。吹き飛んで古民家の壁に衝突すると、穴を開けて外にまで出てしまった。辰巳は脳が大きく揺れてしまって、足がもつれ、立ち上がれない。絡みついた糸によって腕は動かせず、銃で狙いを付けることすらできない。


 脳が正常に戻るのを待っていたら追撃されてしまう。


 辰巳は時間を稼ごうとしてトリガーを引き、銃弾をばら撒くことにした。


 壁や柱を容易に貫いていく。


「どこ狙っているんだ」


 背後から声がしたので振り返ると、短槍の穂先が喉に突き刺さった。『硬質化』によって肌は守られたが衝撃によって呼吸が止まりそうになり、辰巳は咳き込んでしまう。腕を蹴り上げられて、サブマシンガンを手放した。


「意識を失えばスキルの効果は消えるらしいぞ。知ってたか?」


 嗤いながら短槍を振り回して、辰巳の頭を激しく叩く。柄が折れ曲がってしまいそうなほどの衝撃を受けて、脳よりも先に首の骨が耐えきれなくなってしまう。


 ポキッと乾いた音がすると折れてしまったのだ。


 あらぬ方向に曲がると、辰巳は力が抜けてしまう。


 死んでもおかしくはない重症ではあるが、痛みによって意識を失う程度で済んでいる。

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