第189話今日は話題の探索者、神宮正人さんにお越しいただきました
夜なのに照明を消したマンションの一室に宮沢愛、羽月レイナ、小鳥遊優がいた。ソファに座って付けっぱなしのテレビを見ている。
先ほどまでは恋愛ドラマが流れていたのだが、今はニュース番組に変わっている。
探索者特集といったテロップが表示されており、ゲストとして神宮正人が呼ばれていた。
室内では誰もしゃべらないため、テレビの音声がはっきりと三人の耳に届く。
「今日は話題の探索者、神宮正人さんにお越しいただきました。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
白髪の目立つ男性のタレントが紹介すると、正人は頭を軽く下げて返事をした。
スポットライトが当たるのは道明寺隼人と私たちだけだった。そんな暗い感情が羽月レイナから湧き上がる。
隼人と幼なじみという関係であり、彼が人生のレイナのすべてであった。それは宮沢愛を恋人にしても変わらない。いつか戻ってくると信じて尽くしてきたのだ。
それなのに仮面を着けた男に殺され、思い描いていた未来はすべて奪い取られてしまった。
隼人の殺害に正人は無関係であるが、テレビを見ていると居場所を奪われたという想いはある。
「さて、続いての質問です。最近、探索者になる高齢者が増えていますが、それについてどう思われますか?」
「どうと言われましても、困りますね……」
相手の考えを引き出すためなのか、具体的な質問にしなかったタレントが悪い。正人が答えに詰まるのも当然である。
「戦う力を身につけようとするのは、良いことでは?」
望む答えが出てこなさそうだと思うと、タレントは持論を展開することにした。
「高齢者は判断能力や筋力が衰えていることも多く、私としては年齢制限を導入するべきだと思っています。正人さんは高齢者の死亡率の高さを知っていますか?」
「やや高いとぐらいは聞いています」
「その事実を知っていても、戦う力を身につけろとおっしゃるのでしょうか?」
責めるような口調でタレントは正人を問い詰める。
言葉の裏には、高齢者が安全に過ごすため若者が犠牲になれという意味が込められている。当然、正人も悪意には気づいていて、むっとしたような表情をしながらも冷静に答える。
「地上にいるモンスターは、年齢や性別に関係なく襲ってきます。いつも誰かが守ってくれるとは限らないので、やはり戦う力を付けようとする行為、それ自体を否定することではありませんね」
「高齢者に死ねと言ってるんですか?」
「無理してモンスターと戦う必要はなく、レベルを手に入れ、足腰を鍛えるだけでも充分だと思いますよ。体力を付ければ走って逃げ切れる可能性が出てきますし、スキルカードを買えば生存率はもっと高まりますから」
高齢のタレントは思い通りに動かない正人に苛立ち、自分の意見を押し通すために大声を出す。
「それでも死亡率は、かなり高いんですよ!」
「先ほどから言われている探索者になった高齢者の死亡率ですが、母集団についてどこまで知ってます?」
「探索者になった人を年齢別に出しています。当たり前じゃないですか」
タレントは数字の詳細までは調べていなかった。死亡率の高さだけに注目して、正人を責めていたいのである。
「少し違いますよ。母集団は週に五日以上ダンジョンに入っている探索者です。高頻度にダンジョンへ入る探索者は二階層、三階層と奥へ進む傾向があるため、年齢に関係なく無茶な探索を繰り返します。そんな無鉄砲な人たちの死亡率が高いのは当然だと思いませんか? 実際、探索者全体から見れば二十代、三十代の死亡率も高いですし」
「でも、一番死んでいるのは高齢者なんです!」
「その通りですね。ですから、ダンジョンに入るペースを週に二日、一階層のみにしてください。この条件で調べると死亡率は1%以下になりますよ」
探索協会の谷口から提供された情報の一つだ。数字に間違いはない。
なぜ事前にそのような情報を用意されたのか気になった正人だが、番組のスポンサーが探索協会であることで色々と察していてた。
全国に探索者稼業は危険じゃないとメッセージを伝えるため、質問の内容、高齢のタレント等は探索協会が用意して、茶番劇を用意していたのだろうと。
「バカなこと言わないでください! 1%以下だとしても高いですよ! 目指すべきは0%でしょッ!」
「地上でモンスターに攻撃され、死亡する確率は平均で3%です。むしろダンジョンの方が安全では?」
地域差が大きいため中央値にすると、3%から1%以下になるのだが、正人はあえて口には出さなかった。地上にいるモンスターの数は増えているため、将来的に死亡率はさらに上がっていくと予想できているからである。
まだ安全といえる今、正人は全国民が探索者になって欲しいとまで願っていた。
「そんな! 暴論を言うとは思いませんでした! 正人さん、あなたは日本最強の探索者としての自覚をもって発言してください!」
今の言葉に、テレビを見ていた三人がピクリと反応した。
日本最強の探索者。その地位は隼人のものだという意識が、未だに残っているからである。さすがに正人を敵視するほど三人は愚かでないが、気に入らないという感情は自然と持つようになっていた。
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