第106話返り討ちにするぞッ!!

 ドレッドヘアのパーティーは正人が思っていた以上に強く、手助けをして獲物を横取りしたと言われるのが面倒で、すべて任せると決めた。


 それに危機と言える状況はこれから訪れる。次に備えて対策が必要だ。


「この部屋に向かってアイアンアントの集団が来ている。マーカーが多くて数はわからない」


 通路を使って多数のアイアンアントが、こっちに向かっていたいた。まるで、ここに明確な目標があるような動きだ。


 アイアンアントの巣に入っただけでは、集団で襲いかかってくるようなことはない。探索協会からの情報なので、精度は高く嘘をつかれたとは考えにくいのだが、正人の索敵スキルは、小部屋に向かう集団をずっと表示し続けている。


 この状況を知っているのは正人たちだけ。ドレッドヘアーの男性が率いるパーティーはここを乗り越えれば終わると思っているので、正人は危機感を共有するために警告を発することにした。


「大量のアイアンアントがこっちに向かってます!」


 声を聞いたドレッドヘアーの男性は、舌打ちをした。


「ヤツら、奪い取るつもりだ! 返り討ちにするぞッ!!」

「「「「うっす!!」」」


 逃げるのではなく戦うことを選んだ。

 アイアンアントを倒すスピードを上げて倒していく。

 まるで襲われることを知っていたような、そんな態度であった。


「襲われる理由を知っているのなら教えて下さい!」

「うっさい! 俺に指図するなッ!!」

「今、そんなことを言っている場合じゃないですよ!」

「黙れ!! 絶対に教えない! これは俺たちのものだ!!」


 危険が迫っているというのに協力する姿勢を示さない。そんな相手にイラ立ちを感じた正人は、もう助ける必要はないと判断する。


 数が多くこの場で戦っても勝てるかわからない状況だ。

 三人の命を背負っているパーティーリーダーとして、アイアンアントを迎え撃つのではなく、逃げることを選択した。


「では、私たちも好きにさせてもらいます」


 最後に言い切ってから、里香たちを見た。


「アイアンアントの数が少ない場所はわかる。走って逃げるよ」


 一瞬だけ躊躇した三人だったが、余裕のない正人の姿を見てうなずいた。ダンジョン内の出来事は自己責任だ。助けようが、見捨てようが、罪に問われることはない。また彼らの一方的な態度に助けようといった感情は湧かず、冷酷とも思える判断を下せた。


 小部屋から飛び出した正人たちの後ろから、怒鳴り声が聞こえるが無視をして走っていく。


 索敵スキルを頼りにして、アイアンアントが少ない道を選んでいく。

 出口とは真逆の方向に進んでいるが、気にしてはいられない。

 小部屋に集まるアイアンアントの数は多く、数の少ない通路を選んでいないと逃げ切れないのだ。状況は刻一刻と悪くなる。


 危機を察してすぐに、小部屋から逃げると判断した正人は正しかった。残っていれば、アイアンアントの群れに押しつぶされていただろう。


 前方約五十メートル先に三匹のアイアンアントが出現した。


 ――エネルギーボルト。


 密閉された空間なのでファイヤーボールではなくエネルギーボルトを連発した。次々と光りの矢が突き刺さり、正人が近づく頃には黒い霧に包まれて消えてしまう。


 正人たちはその後も足を止めることなく奥へ進んでいき、ようやくアイアンアントの包囲網から抜け出した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 走り続けていたため全員の息は切れている。汗をかいていて足がガクガクと震えていて、思わず地面に座ってしまう。一度休んでしまうと体が疲れを訴えてきて、全身が重くなる。通路の真ん中だというのに、すぐに動ける状態ではなかった。


「何とか逃げ切れたのでしょうか?」


 乱れた息を整えた里香が、不安そう顔をして正人に聞いた。


「索敵スキルに反応はないから、逃げ切ったと思って大丈夫だね」


 アイアンアントは正人たちを追うことはなかった。ドレッドヘアーの男性が残っていた小部屋に向かっていたこともあって、無事に逃げ切れたのだ。代償として巣の奥にまで来てしまったのは想定外の出来事ではあったが、大量のモンスターに囲まれるよりかはマシである。


「よかった……」


 危機から抜け出したと安堵した三人は、心に余裕が出来たことで、置いてきた探索者のことが気になってしまった。


「あの人たちは大丈夫だったのでしょうか?」


 アイアンアントと戦う動きから、正人はドレッドヘアーの男性はレベル三まで達していると考えているが、それでもあの数を前にして生き残れるとは思っていない。普通に考えれば無事であるはずがないのだ。川戸のようにユニークスキルを覚えてないのであれば、ほぼ間違いなく死んでいる。


 そういった確信を持ってはいるが、それを三人に伝えない。


 見捨てたという罪悪感を感じるのは、自分だけで十分だと正人は思ったからだ。


「索敵スキルで追ってたんだけど、私たちが小部屋を出た後、彼らも逃げ出したみたいだから大丈夫だと思うよ」

「みんな無事でよかったねー!」


 ヒナタは正人の嘘に気づかず、言葉をそのまま受け入れていた。

 そんな純粋な姿を見て里香と冷夏は優しい笑みを浮かべて一斉に頭を撫でる。二人は正人の嘘に気づいていたのだ。


「ヒナタちゃんは良い子だね~」

「単純なところはヒナタのいいところだよね!」

「え、え、どういうこと!?」


 訳がわからないヒナタは戸惑いながら二人に抵抗する。だが、そんなことをお構いなしと里香と冷夏の動きは激しくなる。


「や、やめてって!」


 嫌なことを忘れようとして冷夏がヒナタの体を押さえて、里香がほっぺたをひっぱっる遊びをしている。


 索敵や罠関知のスキルを使いながら、正人はその姿を見続けながら次の予定を考えていた。

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