第102話砂埃がひどいね
今日から三連休が始まる。
この期間で正人たちは九階層を探索するつもりだ。
最初の目的地は探索協会が作った補給地。モンスターの襲撃の心配をせずにゆっくり休めるため、これから何度もお世話になる場所である。十階層のボス――アイアンアントクイーンと戦う前に補給地で英気を養うことはよくあり、正人たちの十階層踏破計画にも組み込まれていた。
いつものように車に乗って四人は東京ダンジョンに向かう。二泊三日の探索計画。そのため荷物はいつもより多い。リュックには四日か五日は過ごせるほどの食料が詰め込まれていた。
運転はいつものように正人が担当していて、助手席には珍しく冷夏が座っている。中列には武具が置かれていて最後部座席に里香とヒナタがいた。
「いつも運転ありがとうございます」
「好きでやってるんだから気にしなくていいよ」
三人は車の免許を取れる年齢ではないこともあって、正人は自分が運転していることについて何も気にしていない。当然の仕事だと思って、受け入れている。
「それでも毎回運転してもらうのは気が引けてしまいます。免許が取れる歳になったら、私も運転にチャレンジしますね」
「ありがとう。そのときを楽しみに待っているよ」
「期待しててくださいね。私、頑張りますから」
「うん。そのときがきたら、よろしくね」
二人は、そんな他愛もない約束をしたのだった。
◇ ◇ ◇
東京ダンジョンの九階層。そこは荒地だった。地面にはいくつもの穴が見える。その中はアイアンアントの巣になっており、奥には十階層のボスを弱体化させたアイアンアントクイーンが待ち構えている、といった場所だ。
他に出現するモンスターも昆虫型である。岩を転がして攻撃してくるストーンビートや全身にトゲをもつソードワームなどが、探索者を襲ってくるのだ。空には火を噴くトンボのファイヤフライもいるので油断できない。特に空からの襲撃は、九階層で初めて経験するため慣れが必要だ。
また、手足がもげた程度では気にしない生命力もあり、モンスターの強さは大きく上昇している。
そんな危険で荒れ果てた大地に、正人たちは降り立ったのだった。
「砂埃がひどいね」
日によって風の強さは変わるのだが、今日は偶然にも砂埃が舞うほどある。視界は悪い。十メートル先は見えない状態だ。
「ですね……これだと地図が役に立ちそうにありません。正人さんがいなかったら詰んでましたね」
正人のつぶやきに答えたのは里香だった。
もともと目印が少ないので迷いやすいという傾向はあるのだが、さらに視界が悪いので危険な状態になっている。普通であれば探索を中断するレベルではあるのだが、沖縄ダンジョンで手に入れた地図スキルのおかげで道に迷うことはない。
モンスターへの警戒も索敵スキルを使えば可能なため、正人たちにとって視界の悪さは大きな障害にはらないのだ。
正人は里香の言葉にうなずいてから話を進める。
「今日中に探索者協会が作った補給地に向かう。そこで一泊しよう」
「わかりました。隊列はどうしますか?」
「いつも通り私が先頭を歩く。里香さんが最後尾。冷夏さんとヒナタさんは真ん中で左右を警戒してくれるかな?」
索敵や罠感知を持っている正人が先頭を歩くのは当然だ。残りの三人は左右と後ろを警戒する形になる。沖縄ダンジョンのような洞窟型とは違って、どこから襲われてしまうかわからないので気は抜けない。
「はーい!」
「わかりました」
「後ろは任せてください」
元気よくヒナタが返事をしてから続いて冷夏、里香の順番で返事をすると一行は荒野を歩き始める。
――索敵。
――罠感知。
――地図。
スキルを三つ同時に使用して正人は前に進む。魔力を消費し続けることになるが、すべて必要なので使わないという選択はできない。
今回は斥候に専念して、モンスターとの戦闘は三人に任せるつもりだ。
脳内に浮かぶ九階層の地図。そのほとんどは、黒く塗りつぶされている。正人の動きに合わせて人型のアイコンが動き、訪れた場所の地形が描かれていく。
脳内の地図を作成しながら歩いて十五分が経過すると、索敵スキルに反応があった。前方十メートル先に穴があり、そこからアイアンアントが二匹出てきたのだ。
「敵だ! 冷夏さん、里香さんが対処してくれ!」
指示を受けた冷夏が飛びだすと、薙刀をかかげながら怪力のスキルを使って振り下ろす。鉄よりも強い強度を持つアイアンアントだったが、頭部を強引に斬り裂いてしまった。
攻撃後に動きが止まった隙を狙って、もう一匹のアイアンアントが冷夏を狙う。
「はぁああああ!」
掛け声とともに駆け寄った里香が片手剣を下から上に振り上げると、アイアンアントの腹部に直撃してひっくり返す。足をばたつかせて戻ろうとするアイアンアントの頭上に薙刀が落ちた。
最初の一匹目と同じように頭部が切断されると、しばらく体を動かして暴れていたが、実体が保てなくなって魔石を残して黒い霧に消える。
戦闘に参加した二人はハイタッチでお互いの健闘をたたえていると、ヒナタが声を上げた。
「上から変なのが来る!!」
空を見上げると、全長二メートルはある炎のように赤いトンボ――ファイヤードラゴンフライの姿があった。
その数は五。数は多い。上空では接近戦主体の三人は戦えない。
先頭のファイヤードラゴンフライの口からは炎がちらりと見える。上空から焼くつもりだ。
危険を察知した正人はスキルを使うと決める。
――水弾。
水の固まりが正人の周囲に浮かんで次々と放たれた。先頭のファイヤードラゴンフライの頭部、羽に衝突して炎を吐く前に落下する。他の四匹も無事ではない。数十個もの水弾から逃れることはできず、羽や体が傷ついて落ちていった。
「今度はヒナタが頑張るね!」
見張り役だったヒナタが飛び出して、再び飛び立とうとしているファイヤードラゴンフライの羽をレイピアで斬り裂く。アイアンアントに比べて体は柔らかいこともあり、抵抗は感じない。パーティーの中で攻撃力が劣るヒナタでも容易にダメージを与えられるほどだ。
途中から里香、冷夏も参加したこともあって、ファイヤードラゴンフライは何もできずに消滅して、九階層の初戦は無事に終わったのだった。
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