第62話つまらねぇ、死に方しやがって(エピローグ)
「よ、お疲れさん」
ユーリは、まるで親友にも話しかけるような気軽さで正人に話しかけた。
ここに至るまで都合の良い存在として利用された正人は、警戒したままナイフを向ける。
「おいおい、それはないだろ? さすがに俺だって傷つくぞ?」
「ユーリさん……私のことをずっとつけていたんですか?」
正人は気になっていたことを質問した。
探索協会幹部から仕事を受けて襲撃犯を追っていたとしても、出てくるタイミングが良すぎたのだ。正人の行動を監視でもしていなければ、共闘などできないだろうほど、都合よく表れたのだ。
「最初は注目の新人ってことで声をかけたがな」
監視をしていたことを肯定するかのようにユーリが話す。
「担当が谷口のおっさんだから、ちょいと脅したらいろいろと面白い話を聞いてな」
正人が提出したレポートは、数人の手に渡って谷口のもとにとどいた。その数人の中にユーリに近しい人がいたのだ。
話を聞きつけたユーリが、谷口を言葉通りに脅し、詳細を確認。焼き肉をおごっていた時には、正人は目をつけられていた状態だった。
「ここで、俺が殺した死体を見つけたらしいな」
「!? まさかあの死体は、ユーリさんが……」
「犯罪集団のメンバーでな。俺が殺した。そして取り逃したのがこいつらだったんだよ」
そう言って、ユーリは襲撃犯の死体を指さす。
「これは何も今回だけの話だけじゃない。犯罪集団との戦いは昔からずっと続いている。知ってたか? これ以外にも、ダンジョン内では様々な事件が起こっているんだ」
「そんな……」
「ま、ここまで酷いのは久々だけどな。ドロップ品の裏取引なんて珍しくない」
結局、今回の襲撃者もユーリも末端の現場でしかなく、その背後には組織がかかわっている。ユーリの場合は探索協会だが、もう一方は国内外にある犯罪組織であり、他国が絡んでいる場合もあるので、この戦闘で終わりというわけにはいかない。
今後も似たようなことは続いていく。
これは表に出ていない、ダンジョン協会がひた隠しにしている事実だった。
仮にこの事実がバレてしまえば、ダンジョン閉鎖の声が大きくなるのは間違いない。
そうなってしまうと探索協会の利権拡大にブレーキをかけてしまうために、どんな方法を使っても一般的に公開されることは許されないのだ。
「で、どうする。告発でもするか?」
ユーリの全身から殺気があふれ出した。
リラックスしているように見えるが、正人の回答一つで即座に戦闘が始まるだろう。会話で時間を稼いだ正人の魔力もだいぶ回復しているため、武器を向けてしまえばお互いに無事では済まない。
里香たちが見守る中、正人が口を開く。
「……しませんよ。協会に事実を報告するだけです」
報告書を提出したあとは探索協会に任せる。
今まで通り不都合な事実は知らない。ごく普通の探索者として活動を続けることを宣言したのだ。
「ちッ、つまんねぇが、それがいいだろう」
全身から放たれていたユーリの殺気がしぼんでいく。
持っていた武器をしまうことで、戦闘が回避されたことを物語っていた。
「しばらくは監視がつくだろうから行動には気を付けるんだな」
そう言い放つと、正人に背を向けてレッサーデーモンに殺された二人の死体に近寄る。しゃがみこんで、探索者カードをを回収する。
「つまらねぇ、死に方しやがって」
立ち上がって、辛辣な言葉を放つ。
涙を流すことはないが、悲しみを含んだ声だった。
それだけでユーリが二人のことをどのように想っていたのか、正人には痛いほど伝わる。人間が死ぬときは一瞬。特にダンジョン内であれば判断一つミスするだけで命の炎は簡単に消えてしまう。
正人は、仲間を失ったユーリにかける言葉は見つからなかった。
「私たちも帰ろう」
ユーリの姿が見えなくなると、正人が三人に声をかけた。
反対する者はいない。無言でうなずくと地上に向かって歩き出した。
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