第5話 溢れる

 どこだ、ここは……?

 再び、視界が閉じられていることに安堵を抱きながら集中し周囲の情報収集を行う。


 ベッドに寝かされている。治療をされたのだろう、至る所に包帯が巻かれている。少しみじろぎをするだけで身体中が軋む。


 召喚された王宮の雰囲気にはやや劣る質素な空気感。知らない場所だ。いや、この世界に知っている場所の方が少ないわけだが。


 コンコンッ

 軽快なノック音に返答する。


 「夏樹様! 目を覚ましたようですね!良かった……本当に良かった……」


 エイン王女が涙ぐんだ声で心配を口にする。


 「ご心配をおかけしたようで、申し訳ありません。 エイン王女も無事なようで良かったです。 すいません、記憶が曖昧なのですが、魔族との戦いはどうなったんですか」


 妙な事が起きた。目が視えていた。知らない言葉で凄まじい力を発揮していたのも自分。あの時、一体何が起こっていたのか。また、魔族を倒した後、どうなったのかが気になっていた。


 「申し訳ありません。 夏樹様の気になっている事には1つしか答えられません。 戦闘中に起きた変化は私も目にしましたが、正直分かりません。 また、夏樹様が魔族を倒した後は戦後処理と同じです。 被害の確認と復興作業です。 不幸中の幸いか、魔族は我々王族と勇者様を狙っていたようで他の者には被害がほとんどありませんでした」


 「そうですか……」


 それ以上の言葉は出てこず、重い沈黙が降りる。


 「夏樹様……。 勝手な物言いであることは重々承知しておりますが、これだけは言わせてください。 本来なら我々の戦い、関係の無い夏樹様を巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」


 エイン王女が謝罪を口にする。


 「ふざけんな……死にかけたんだぞ!? 謝って済む問題じゃねぇだろ!! 謝罪する気持ちがあるんなら、最初から召喚なんてするんじゃねぇよ!!」


 夏樹のドロドロした心が溢れる。

 初めて口調が崩れる。


 「あの訳分かんねぇ力が発揮しなきゃ全滅だぞ?  魔族あいつは言ってたぞ、勇者の召喚直後を狙ったって。 勇者っていう存在そのものが厄災だろ……」


 「そんなことは……」


 否定しようとするが言葉が続かない。


 「すいません、怪我が痛むんで1人にしてくれますか」


 エイン王女は小さく頷き、静かに部屋を後にした。


 熱くなってしまった……。彼女個人は悪くないのに。

 「何してんだろうな、俺……。 勇者って何なんだよ……」

 冷え切った部屋に思わず溢した言葉が染み込み消えていく。

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