第3話 過負荷
「くははははは!! やはり来たか、さぁ、ここからは一気に崩れるぞ!!」
激痛が脳天を貫く。
「はぁ…… はぁ…… 何が、何が起きた」
「分かっていないみたいだな……。 貴様の脳に限界が来ただけのことだ。 視覚がダメなんだろう、なら他の感覚で代用するしかない。 ただでさえ、勇者のスペックに引き上げられ体が悲鳴を上げている上に、格上の我が相手だぞ?
鼻や目、至る所から血が流れ出ている。
徐々に動きが鈍くなる。
感覚が遠のく。
振り下ろされる右腕を剣の刃に沿わせるようにして受け流す。しかし、続けままに繰り出される右足を避けられず、身体がくの字に折れ曲がり地面と水平に吹き飛ぶ。
「がはっ……」
「終わりだな、勇者。 レベル1、それも目が見えていないというハンデがある状態でここまで戦えたのは称賛に値するが、慈悲はかけぬぞ」
1歩、1歩徐々に魔族が近づく。吹き飛ばされた夏樹は家屋に激突し停止したが立ち上がる力が無く、激痛に悶えている。
「腐っても勇者だ。 やや過剰な気もするが……後顧の憂いを断つためにも確実にやるか。
魔族の手に巨大な炎が出現、夏樹に向けて放たれる。
本能が警鐘を鳴らしている。逃げろと頭が叫んでいるが、身体が動かない。一体、何本の骨が折れているのか分からない、もしかしたら、内蔵も傷付いているかもしれない。
迫る巨大な炎を前に俺は……。
「ごめん、もうダメみたいだ……。 ごめんな……1人にしないって約束したのにな……あぁ……帰りたいなぁ」
幼い頃に両親を事故で失った、夏樹と妹を祖父母が引き取ってくれた。夏樹が中学を卒業したとほぼ同時期に祖父母が病気で亡くなった。そこから妹との2人暮らしをしていた。
突然、異世界に飛ばされてしまって1人残してしまった妹のことが脳裏を過ぎる。
『――。 あなたは――でしょう? 忘れないで、私は――』
ふと、記憶の断片が蘇る。
誰だ……。なんだ、この記憶は……。
ーーードゴオォォォォオンン……!!
巨大な炎が夏樹のいる家屋に着弾した。
「……さて、やることは終えた。 生き残りの始末は魔物共に命を出すか」
魔族が背を向けて去ろうとした瞬間。
ーーーゾワッ
「……!?」
壮絶な殺気を背に受け、反射的に振り向き迫ってきた何かに対して左腕を横薙ぎに払った……が、肩から切り飛ばされ腕が宙を舞う。
「……ぐっ!
即座に空いている右手を向け、巨大な炎を放つが……。
「馬鹿な……魔法を切るだと……!? いや、それより、貴様は何者だ!! ……なんだ、その青い眼は」
魔族の前に立つ、先程まで死に体だったはずの夏樹。
決定的に違うのは、閉じていた眼が開いており、そこには焦点の合わない青い眼。まるで全く別の場所を見ているかのような……そんな遠い眼をしていた。
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